「久保田先輩ってぇ、あんまり笑ったり怒ったりしないですよね。感情を表に出さない完璧な人間っていうかぁ」
「あ?なに言ってんだ補欠。久保ちゃんは人形じゃねぇっての。」
放課後の部室。間抜け面でつぶやく奴に、何を言い出すのかと俺は心底バカにした目を向けた。
藤原の病気はいつものことだけど、久保ちゃんが完璧に見えるってのも俺には不思議でならない。
けれどそう思っているのはこいつだけでないらしい。
「でもそういえば、久保田君が大笑いしてるのってみたことないわね」
珍しく桂木が肯定すれば、室田も筋トレしながら頷いている。
「うむ。そういえばそうだな」
「yes,元々日本人はリアクションが小さいといいますが確かにそうですね」
松原はそう言うが、久保ちゃんが欧米人みたいなリアクションとったら気色悪いだろうが。
まったく、なんでみんな知らねぇんだ?
久保ちゃんは、あれで結構分かりやすいだろ。
「久保田の場合はその最たるもんだな。いつもヌボーっとしてるし」
「相浦、ぬぼーってなんだよ。久保ちゃんはちゃんと笑うし、怒ることもあるっての」
「だーかーらぁっ!なんで時任先輩だけがそんな素敵な一面を知ってるんですかぁ!ずるいですよ!」
「うるせぇよ!おまえなんかが久保ちゃんを知るには10万年早いっての」
「なんですって〜!!」
不毛な言い合いのせいで、桂木のハリセンの餌食になるのは避けたいと思っていたら、その場にいなかった部員が部室の扉を開けた。
買い物袋と紙袋を片腕に抱えた、噂の張本人だ。
「あっ、久保田せんぱ〜いっ!お帰りなさい!」
「ほいほい、ただいま〜っと。桂木ちゃんはい、これおつかいの文具品」
「ありがと、久保田君。ずいぶん遅かったのね。文具店近いのに」
買い物袋から文具品やらお菓子やらを取り出して、久保ちゃんは鼻歌を歌っている。
あれ?なんか機嫌いいな。
「うん、ちょっと途中で寄り道してね。―――時任、はいコレ。プレゼント」
そう言って久保ちゃんは紙袋から小さな箱を取り出して、俺の前に差し出した。
「わっ!久保ちゃんっ、コレってもしかしてっ!?」
「お前の欲しがってたゲームのソフト。それを買いに行ったら、ちょっと遅くなっちゃって」
「だってコレって、発売した途端売り切れ続出で、手に入りにくいって言ってただろ?」
「うん。予約の電話したら、運良く入荷したばかりのヤツが残ってたみたい」
そう、それは新発売のソフト。CM見てほしいって言ってたの、わざわざ予約して買いに行ってくれたらしい。キラキラ輝いて見えるそのプレゼントに一気に俺のテンションもあがる。
そうか、久保ちゃんも欲しかったんだな、このソフト。だから機嫌よかったのか。
「すっげぇうれしいっ!サンキュ!久保ちゃん!!」
「どういたしまして」
今日は徹夜だな。けど久保ちゃんも一緒にしたいだろうからとにかく今日は早く帰らないと、と俺はそればかり考えていたから、藤原が久保ちゃんを見て小さく声をあげたことなど気づきもしなかった。
「桂木、もう帰ってイイか?今日は俺忙しいんだよ!」
「・・はいはい。分かったわよ。そこまで一部始終見せつけられたら引き留められないじゃない」
「悪いね、桂木ちゃん。じゃお先〜」
「お疲れ様」
執行部を出て足早に家路を急いでいると、久保ちゃんがぽつりと言った。
「おまえ、ほんとイイ笑顔するよね。・・まぁそれが見たかったんだけどね」
どうやら嬉しさが、カオに出てしまってるようだ。
喜びってのは隠しよーがねぇから仕方ねぇだろ。
楽しみ、楽しみ、と鼻歌を歌えば隣の相方も嬉しそうに笑う。
「久保ちゃんだってイイ顔で笑ってんぞ。まぁ、他のやつらは気づいてねぇみたいだけどな」
「ま、コレは時任限定だからね」
「なんだそれ?」
「さぁね」
久保ちゃんはそう言うとさらに目を細めて笑った。
そのころ部室では・・。
「く、久保田先輩、笑った・・。み、見ちゃったぁぁ。す、すごく綺麗な顔で・・ああ・・、鼻血でそ・・」
陶酔した表情でいつまでも久保田の背を見送る藤原に、呆れた桂木の声が飛ぶ。
「いい加減気づきなさいよ!あんなカオ、誰にでも向けられるもんじゃないでしょうが」
「「「まぁ、そういうことだな」」」
それに呼応するように、他3人の声がハモるが、藤原の耳には聞こえていないようだった。