方法      
  



「落とす・・方法?」

「そうです!」


ある日の放課後、突然見知らぬ女子に廊下に引っ張り出された時任は、意味が分からず怪訝に首を傾げる。嬉々とした笑顔で頷く女子に圧倒されながら「落とすって何を?」とおずおずと尋ねると、
子は当然だと言わんばかりに声を大きくした。


「なにって、”男”に決まってるじゃないですか!!」

「――はぁ!?知らねぇよ、ンなの!なんで俺に聞くんだよ、男をおとすなら女に聞けよ!」


これに驚いて眉を寄せた時任。それもそのはず。

男のおとしかたなど、たとえ教えてくれるとしても知りたくもない。もとより自分が知るはずもないのだ。


「いいじゃないですか、何でもいいんです!時任先輩が思いつくことでいいから教えてください♪」


科を作ってお願いするこの女子。

時任は知る由もないが、実は漫画研究会のホープである。

過去には俗に言うBL本を2作品ほど世に出し、それが前部長のそれよりも売り上げを伸ばすという正に漫画研究会のホープ。

2作品共、現生徒会長と副会長モノであったのだが、それに飽きたのか更に売れ行きの見込めるネタ集め中だったりするのだ。


「だから、なんで俺に聞くんだよ!?(つーかおまえ誰だよ)」

「そりゃあ、あの久保田先輩を落とした時任先輩だからに決まってるでしょ?」

「――んなっ!!!?」


その反応を見逃すはずがない。

一気に頭のてっぺんまで赤く染める時任に、これは面白い、と女子はひくひくと鼻を膨らませた。


「お、お前、な、なにをっっ」

「んもぅ、いいから!とにかく教えてくださいよ!どうしたら男前を落とせるのか。後学の為なんです」


後学。この場合女子が男を落とす時のためと聞こえるが、実際は、後学という名の萌え探索であることは間違いない。

勢いの良かった時任も、女子の強引さにたじたじとしている。その様子もまた可愛いなと女子はにやにやとする。


「い、意味分かんねぇ俺別に何もしてねぇし・・」

「一緒に住んでるんでしょ?日頃どんな風に接してるんですか?」


女子はここぞとばかりに優しく尋ねた。

どんな風に愛を育んでいるの?怖くないから言ってみな?とばかりに問いただすと、時任は思い出すように視線を彷徨わせた。


「どんなって、普通に・・。家事とかほとんど久保ちゃんやってくれるし、俺も少しは手伝うけど・・、ゲームしたりたまには買い物でブラブラしたり・・久保ちゃんは俺が行きたいっていうとこならついてくるし・・ってなに普通に話してんだ俺!っつーか、別に特別なこととかなんもねーし」


家事も身の回りの世話も久保田に。

買い物でラブラブ。

久保田は時任が「イキたい」と言うと突いてくる。


その場でメモ帳にペンを走らせる女子。

漢字変換が間違っているところは多めに見ていただきたい。


「家事とか時任先輩出来なさそうですもんね。ガサツだし大ざっぱそうだし。どういうところがいいのかしら・・・」

「うるせぇなっ」


ふむふむと相づちを打ちながら、頭の中で彼らの生活ぶりを腐フィルターを通して見ていることなど時任は知る由もないのだ。

そうこうしてる間に、久保田が鞄を抱えてこちらへ近寄ってくる。放課後の執行部に向かうまでの短時間に、廊下で時間をもらっていた女子にはもうタイムリミットのようだ。最後に肝心なことを聞くのも忘れない。


「ね、もしかして時任先輩、アッチの方がすごいとか?」

「アッチって、どっちだよ」


いいですね、その無知系。強気天然受け?

と心で呟きながら、女子は時任に内緒話をするように囁くと、みるみる時任の顔は真っ赤に染まる。


「――ばっっっ!バカかお前っ!くっ、久保ちゃん行くぞ!!!」


思った通りの反応に「萌えー」とほくそ笑むが、これ以上はやはり聞けないらしい。

次は久保田に直接聞くか、と矛先を変えつつ、二人の会話が聞こえてきた。


「あれ、どったのお前。顔真っ赤だけど」

「なっなんでもねぇよ」


(言えないよね、言えないよね?性事情を聞かれて、うっかり夕べの情事を思い出しちゃったなんて)


むふふと緩む口元を戒めることも忘れて、女子は二人の会話に聞き耳を立てた。


「今日の夕飯どうしようか」

「カレーはいやだぞ」


なかなか生活感溢れる会話である。

作ってもらうくせにイヤだなんて、ワガママだな。

でも夕飯の相談なんて同棲っぽくて素敵だわ。

と、二人の後をつけながら、”時任はカレーがイヤ”とメモを走らせる。


「んじゃあ・・ハンバーグとか?」

「ハンバーグっ!!やったそうしよ!さっそくスーパー寄って帰ろうぜ!!」


(き、キラキラだわ!!)


女子はまぶしそうに時任に手をかざした。

あまりにも無邪気な笑顔に、目が開けれない。

満面の笑みは庇護欲をかき立てられる。確かに可愛いのだ。


(やっぱり時任先輩の長所はギャップかしら)


今度はメモにしっかりと書き加えられた”ギャップ萌え”の文字。

強気の俺様。しかしその実は天然の癒し系というそのギャップ。動物好きの久保田でなくとも、思わず惹かれてしまうというもの。

ふむふむと、真っ黒になっていくメモ帳に向かっていると、不意に久保田の意味深な台詞が女子の腐耳を擽った。


「そのかわり、今夜はさ・・」


(なっ、なになに!?なんの内緒話よっ、ああ、聞こえないわっ)


ごにょごにょと、なにやら耳元で囁く久保田に、時任は上擦った声をあげる。


「く、久保ちゃんっ」


おお!時任先輩が恥じらってる!?というか嬉しそう!

いったいなにを言われたの!?

気になる!目が潤んでる!

そんな目で睨んでも怖くありませんよ!それどころか虐めたくなりますよ的な生意気な瞳だわ!!


女子、興奮状態。


「・・いいけど、手加減してくれよ?」


と、時任が上目遣いでそんな弱気な台詞を吐こうものなら、女子の腐脳は一気に久保時モノ3冊(しかも18禁)書き上げるほどの妄想が沸き上がった。


(手加減っっ!?なにを、なにをですか!だめっ、鼻血が出そうだわ!)


「時任次第、かな?」


甘いっ!!甘い空気!!

なんでしょうこのデレっとした甘さは。

さっきまでの狂猫とは全く違う。

これぞツンデレ!!


女子、更に興奮状態。


「やっぱり時任先輩の属性は強気受けプラスツンデレ。ああでも、それじゃありきたりかしら」


興奮した女子は既に尾行の意味も成さず、二人の真後ろで呟いている。

時任は知る由もないが、久保田はそれに気づいていながらまぁ害はないだろうと無視を決めこんでいたのだった。


結局二人が部室に消えるまで後を追っていた女子。

閉まった扉の向こうにも足を踏み入れたいが、さすがにそれは出来そうにない。

今度、盗聴機でもしかけようかしらと、犯罪計画を思い浮かべながら、廊下で一人見悶える女子だった。

女子は周囲に、どんなに奇異な目で見られようと気にする様子はない。

さすが期待の新人は違う。


(今日はいい収穫だったわ。やっぱりこれからは久保田x時任ね。橘x松本よりも萌え要素多めだもの。ただのツンデレじゃつまんないし。実は二人きりになったら時任先輩が誘ってたり?真っ赤になりながら「早くこいよ久保ちゃん」なんて誘い受け!

でもやっぱり久保田先輩は鬼畜が似合うわね。普段は穏やかな先輩も誘われることによって豹変する。鬼畜攻めx誘い受け。―――ああ、新境地だわ)


まだまだ女子の妄想は尽きないようだ。



そのころの執行部。

時任は相浦を相手に新作のゲームに奮闘していた。

それもこれも、今夜の久保田との勝負に勝つ為の特訓である。久しぶりの久保田からの挑戦状にやる気もMAXだった。


「久保ちゃんっ、今夜は負けねーからな!」

「じゃあ負けたら約束通り罰ゲームね」

「望むところだ!」


お決まりの勘違いトーク。

しかし聞かれた相手が悪かった。

この勘違いが、数週間後に荒磯を揺るがすほどの衝撃的な作品を生み出すことになる。


「ふぁっっくしゅん!」

「お、なんだ時任、風邪か?」

「ちげーよ、誰か俺様の噂話してんだ」


盛大なくしゃみをして鼻をすする時任を見て、


「・・・ああ、そうかもねぇ」


久保田はぼんやりとタバコをくゆらせていた。

あの女子が何の目的で付き纏っていたのかすら気付いていた久保田。


(まぁ、それはそれで、俺は別に構わないけど。気になるのはやっぱ時任の反応かな)


ちらりと相方を見やった目が、至極楽しそうに弧を描いた。




  




(*ノωノ)

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