「ダ、ダメだって!久保ちゃんっ・・」
「いいじゃない。ね、イタくしないから・・」
「う・・、でも誰かが戻ってきたら・・」
「大丈夫。お前のそんな姿、だれにも見せないから。さ、こっちおいで」
(あ、あ、あいつら〜!また部室で紛らわしい会話を〜!!)
なにやら怪しげな会話が聞こえてくる部屋の扉の前で、うら若き乙女が一人、立ち尽くしている。
桂木和美、高校3年生。
世の悪を憎み、その知性と正義心を持って、世の汚れと戦う。まっすぐな心を持つ乙女である。
(有害物質だわ!排除しなくちゃ、平和な学生生活のためよ!)
彼女はそう心に強く決心すると、どこから取り出したのか、幾重にも折り重なった白いハリセンを右手に握りしめた。
しかし、いざ出陣というところで、桂木はふと動きを止めた。
「ああっ!く、久保ちゃんっ・・、く、くすぐるなっ・・」
「ああ、ごめん。ヨクなかった?じゃあ、ココはどうかな?」
(あ・・・ら・・?)
「ンっ・・ああっ・・、っ・・。」
(あららら・・・!?)
「ココがイイの?ビンカンねぇ。・・じゃあ、こっちは?」
「んんっ・・!」
扉の取っ手に手をかけたまま、ピシリと固まった桂木戦士。
(ちょっ、ちょっと、これって・・。いつもの”まぎらわしい会話”とは違うんじゃ・・)
静止画のように動けない桂木だったが、内では、激しい動悸と冷や汗に襲われていた。なにせ戦士は乙女なのだ。これまで堂々と入り込んではハリセンをフルってこれたのは、それが”フリ”だとわかっていたからである。
(もし、ほんとに二人が、な、何か、してたら・・!)
熱くなる頬と青くなる頭。
そんな器用な反射能力を発揮しながら、純粋な乙女桂木はやはり動けずにいた。
(このまま、思い切って開けるか。もしくは速やかに回れ右・・・)
「も、ダメ・・、久保ちゃんっ、ムリっ・・」
「じゃあ、このくらいにしておく?・・・でも、ちゃんと出さないと体に悪いからね。」
「イッ!・・ああっ・・」
(――ハイ!回れ右!!)
これはムリだとようやく結論づけた桂木は、その決定の遅さが命とりだと己を責めながら、早々に逃げ出そうとしていた。
ところがその矢先・・
「はい。とれた。いっぱい出たね〜」
「うう・・、やっと終わった。も、ヤダ」
(・・あら、意外と淡泊なセリフね)
と、情事後の二人の思わぬ言葉に目を丸くしていた。
するとガラリと内側から扉が開いて・・。
(!)
「あれ、桂木ちゃん。どしたのこんなところで」
”やはり命とりに”と自分の判断力の鈍さをさらに後悔する桂木である。
「あ、あんたたちこそっ・・。また変な会話して・・」
それでも必死に自分を落ち着かせて答えると、久保田は首を傾げた。
「変な会話?・・ああ。さっきのね。時任が耳が聞こえにくいっていうから」
「・・・・・は?・・ミミ?」
久保田の言葉に文字通り、目が点になる。
「そ。耳かき、してあげてただけだけど?」
「・・・・・はぁ!??」
「時任ってば、耳かきされるのがすっごい苦手みたいで。させてもらうのに苦労するんだよねぇ」
そう言って時任を振り返れば、耳に指を突っ込んでいた時任がカオを赤くしてそっぽ向いた。
「だって!くすぐったいし、イタイしっ!し、しかも膝枕なんて姿、恥ずかしくてカンタンにできっかよ!!」
「でもちゃんととれたじゃない。いっぱいたまってたみたいだから」
「おー、確かに、聞こえいいぞ。さんきゅな久保ちゃん」
「どういたしまして」
(なるほど。そういうことね・・・。―――って!!)
「あ、あ、あ、あんたたち・・・・」
「ん?どったの、桂木ちゃん」
わなわなと震える桂木に首を傾げる久保田だったが、遅かった。
戦士は相手に構える隙も見せずに、出撃するのだ。
「紛らわしいのも、たいがいにしなさ――いっっっ!!!」
バシーンッ!バッシーン!!
「いってぇぇ!!」
「イタタ・・」
この日、荒磯高等学校では、遠くグラウンドまでも響きわたるような乙女の怒声と、激しくしなるハリセンの音が、いくつも、こだましたのだった。
ちゃんちゃん♪