昼休み。
食後の一服がしたいと言う久保ちゃんと足を運んだ屋上で、さっきから二人でフェンスに寄りかかって、久保ちゃんは景色を見ながらタバコを吹かしている。
俺は手持ちぶさたに何をするでもなく、ボーっと久保ちゃんを見ていた。
「・・なに?時任」
「ん・・、別に」
俺の視線に気づいた久保ちゃんは苦笑いして言った。
「べつにって、そんなに見られちゃ恥ずかしいんだけど」
「み、見てねぇよ!なんもないってばっ」
そんなに凝視してたか、俺。慌てて目を外にそらすが、頬が熱い。たぶん、カオが赤くなってるのかもしれない。
ホントに用があって見てたワケじゃねぇっての。
ただ、ただ単に・・、か、かっこいいなぁと思って・・。
くやしいからぜってーに言ってやんねぇけど、久保ちゃんのタバコを吸ってる横顔とかってかなり絵になって、大人で、ちょっと見とれちまうほどカッコイイから・・。
毎日見てんのに、今更だけど。久保ちゃんはほんとにタバコが似合うんだ。
似合うっつーか、タバコのせい・・、いやタバコのおかげじゃねぇか?
いやまてよ、とそこまで考えていて、ふと思いついた。
もしかしたら俺も、あーやってフカしてれば、似合うのかも。元は久保ちゃんより俺様のほーが超絶美少年なわけだから、タバコっつー最強アイテムがあれば、俺ってかなりカッコイイんじゃねぇの?
なるほど、と俺はさっそくソレを試したくなった。
「なぁ、俺にもくれよ、ソレ。」
「ソレって、コレ?」
そう言って指さすと、久保ちゃんはタバコのことだと分かったようで、聞き返してきた。
頷くと、久保ちゃんは意外そーなカオして、首を傾げる。
「なんで?時任、タバコ吸いたいの?いつも煙クサイって言ってるのに」
「ん。だって吸ったことねぇもん。やってみたら意外と旨いかもしんねぇだろ」
(それに最強アイテムだからな)
皆まで言わず催促すると、久保ちゃんは渋々吸いかけのタバコを渡す。
新しいのが欲しかったんだけど、この際文句は言わない。
どうやるのかちょっと迷ったけど、試しに口につけて、すーっと吸ってみた。
すると・・・
「っ!!ゲホッ!!ゲホッゲホッ!!」
――盛大にムセた。
なんだこりゃ!味もなんもあったもんじゃねぇ!苦しいだけじゃねぇか!
「あーあ、言わんこっちゃない。大丈夫?」
あきれたような声の久保ちゃんが背中をさすってくれるが、咳はとまんねぇし、煙が目に入って涙ま出てきて、もう最悪。散々だった。
もうこんな最悪なアイテム、二度といるか!とばかりに久保ちゃんにポイッとソレを返す。
「うわっ、指っ、ちょっと持ってただけなのに、クサイ!久保ちゃんの手みたいなニオイがするっ!」
「あのねぇ・・、ちょっとヒドいじゃないそれ・・」
「口ん中、辛ェ!苦いっつーより、のどイタイしなんかカライ!」
「そうそう、いいことないでしょ。やめときなよ」
「うー・・。でもおっかしぃな。思ったのと感じが違う」
「何が?」
「タバコの味!もっと苦〜いと思ってたのに、煙くて辛いだけじゃん」
べぇっと舌を出してそう言うと、久保ちゃんは何を思ったのかニヤリと口端を上げて笑った。
「ああ、そういうこと」
「な、なんだよ?」
「その苦いってイメージってさ、俺の味なんじゃないの?」
「・・・・・は?」
「吸ったことないのに味、分かるわけないっしょ。だから、”俺のキスの味”をそれイコール、タバコの味だって思ったんじゃない?」
「なっ!?」
な、なるほど・・、確かに今吸ったタバコより、いつもの久保ちゃんのキスの方がにが・・、って!そうじゃなくて!!
「な、な、なんてこと言ってんだ!昼間っから、こんなところでサラッと言うなぁ!!」
そっか、毎日何十本も吸ってる久保ちゃんの舌は確かにかなり苦い。けれど、苦いだけじゃなくて・・・。
俺の豊かな想像力はいつもの久保ちゃんのキスの味までをも鮮明に思い出させてくれて、みるみるうちにカオに血がのぼった。
今、鏡を見たくない。たぶんかなり赤いんだ。ユデダコみたいに真っ赤なんだよどうせ、ちくしょー。
「そんなにタバコの味、味わいたいなら、そう言ってくれたらいいのに」
思ってねぇ!俺はそんなコト言ってねぇっての!!
そう全力で否定しながらも、いやらしい笑みを浮かべた久保ちゃんと目が合った時には遅く、さっきまでタバコをくわえていたソコが近づいてくるのを、俺は逃げることもできず見つめていた。
久保ちゃんの目はいつも俺を動けなくさせるから。
キスする前の、久保ちゃんの目・・。そんなとこまでカッコイイだなんて、もう、・・詐欺だ。
くっそー、もうタバコなんていらねぇぞ。俺様はアイテムなんかなくとも、久保ちゃんよりも超絶カッコイイんだからな!!