「ちょっと・・、あれ、なんなのよ?」
数日後の放課後。
桂木は心底呆れたような目で、大きな息を吐いていた。
それもそのはず、彼女の目の先にあるのは、荒磯一の有名カップル、もとい有名コンビの、目を背けたくなるような、淡いピンク色の空気。
ベタベタ、イチャイチャ・・・
と擬音をつけたくなるほどのバカップルぶりで、相変わらず目のやり場に困るような二人の空気であったが、あれだけギクシャクとして周囲に公害をもたらしていた日々は一体何だったのかと、桂木は怒りにぴくぴくとこめかみを震わしていた。しかもそのイチャつく雰囲気は、前にも増して密度を濃くしているような気すらする。
ぐぐぐ、と拳を握る桂木に、室田がなだめるように口を出した。
「ま、まぁいいじゃないか。仲直りしたようだし、時任も元気になって良かったじゃないか、なぁ松原」
「そうデスね。大人しい時任は時任じゃありまセン!」
「そ、そうだな。あんな時任は俺も少し困る・・」
「?
室田がどうして困るんデスか?」
「い!?いや、べ、別に俺だけじゃなくだな。いや、深い意味はないんだが・・、な、なぁ相浦!」
「なっ、なんで俺にフルんだよ・・」
「そういえば相浦もすっかりいつも通りデスね」
「う、・・お、俺はいつでもいつも通りだよ!こんな若い身空で行き先を誤ってたまるか!」
「what's〜〜??」
松原は首を傾げるが、相浦は至って本気で、室田も一人邪念をふっきるかのようにダンベルを担ぎ上げている。そんな時、時任の隣にいる人物が、ちらりとこちらを見た気がして、相浦と室田は一瞬びくりと肩を震わせた。
「「・・・・・!?」」
恐る恐る振り返ると、やはり気のせいだったのか、久保田は時任にべったりで、こちらを気にする様子もない。それを確認すると室田と相浦は誰にも気づかれないように、細い息を吐いたのだった。
そんな様子に一人、あらかた理解していた桂木が、ここ数日癖になっている盛大なため息をついたのは仕方がないのかもしれなかった。
あれほど周囲にフェロモン公害を振りまいた張本人は、今では無邪気な顔で久保田と笑い合っている。久保田とくっついたことで、さらにそのフェロモン被害が増えやしないかと内心ひやひやしていた桂木だったが、どうやら逆のようで、久保田の傍にいる時任は有害であっても、あの時のような危うさはなく、至極しっくりと落ち着いて見えた。久保田と時任の強い結びつき、それがいつも確固としてあれば、こちらが心配することなど何もないのだろうと思う。
まぁ、何はともあれ。・・ね。
桂木のそんな思考など知る由もない時任は、大きく伸びをしてついでに欠伸までして、隣の相方を見上げた。
「久保ちゃん、俺様ねむい〜」
「昨夜遅かったからねぇ。ちょっとお昼寝したら?俺もここにいるから」
「ん・・・」
机に頭を乗せてウトウトとまどろみ始めた時任と、それを穏やかに見つめる優しげな久保田の表情。
それだけでなぜか見ちゃいけないような、甘すぎる空気を漂わせている。
桂木はいつもならその有害な空気を蹴散らしにかかるところだが、今日は呆れつつもそうはしなかった。
・・二人の有害度に更に拍車がかかったのは置いといて・・、時任がいつも通り笑顔を取り戻したし。それになにより、久保田君に、あんな見たこともない、甘っ〜い顔されちゃあ、邪魔する気にもならないじゃない?
桂木はそんな二人を盗み見て、一人こっそりと微笑んだのだった。
完