その後、工藤ハルキはその産まれ持ったカリスマ性と実力により、初めての武道館コンサ―トを大成功させた。謎の行方不明事件の話題性もあり、世間はしばらく工藤ハルキ一色となったのだった。
それからライブツア―や映画の主演など、工藤は前にも増して名実ともに日本一のアイドルとなりつつあった。
「あ、工藤からメ―ルだ。なになに?」
そんなある日、時任に届いた一通のメ―ル。
「なぁ久保ちゃん、最近何か届いたか?」
「何かって?」
「CD。今メ―ルがあってさ、新曲のCD送ったから聴けだってさ」
『今の俺の気持ちを全て詰め込んだ曲だ。時任、お前に受け取って欲しい』
そう書かれたメ―ルを見て、久保田は小さく息を吐く。
(・・・ふぅん・・)
俺は諦めないと、宣戦布告してきた強いまなざしを思い出す。
「いや、届いてないけど」
「そうか?おっかしいなぁ」
ピコピコとメ―ルの返信をする時任を横目に、久保田はちらりとソファ横にある黒いボックスに目をやる。
紙くずや食べかすが入っているそのボックス―――つまりゴミ箱から、包装紙らしきものがひょっこり顔を出している。乱暴に破られて顔をのぞかせていたソレに、時任は気づいていない。
工藤から届いたCDはそのまま、包装紙から一度出され一目久保田に見られただけで、次の瞬間にはそこへ押し込められる羽目となっていた。
それもそのはず。そのCDのジャケットには、なんとも意味ありげなタイトルが堂々と記されてあったのだ。
「”生意気な瞳”、ねぇ・・?」
そのタイトルから、誰を思い浮かべるか久保田にとっても想像するのは容易い。
そして切ないメロディーラインと歌詞はまさしく、恋に落ちた男の心情を表すものだった。
(また随分と分かりやすい・・・)
しかし、これを受け取ったところで、当の本人はどう感じるのだろうか。
それが気にならないわけではないのだが―――。
「でも、そう簡単に渡すわけにはいかないんだよね」
「ん?何か言ったか、久保ちゃん」
「いや、別に。・・・・あ―、今日はゴミ出し日だっけ」
外から見えないように厳重に二重袋に詰められ、ゴミ収集袋に入っていったソレ。
これから何度送られてこようとも、時任の目に入ることは一生ないのだろう。
さすがの工藤でもこの仕打ちは想像できなかったのではないだろうか。
けれど、そうはしてもあの工藤が諦めるとは思えない――と久保田は確信していた。
(う―ん。やっぱり、そろそろはっきりさせておくべきかな・・)
と、珍しく久保田の何かに火がついた。
「――ねぇ時任。今日は、一緒に寝ようか」
ゴミ出しから帰ってくるなり、突然意味深な笑みを浮かべてそんな科白を吐かれては鈍感な時任でもぎょっとする。
「なッ、なんでだよっ?」
「いいじゃない、たまには。布団じゃなくてベッドでね?」
しかもまるで誘うように肩に手を置いて囁かれては、時任はメールの返信どころではない。
中途半端に入力したところで保存もせずに消してしまうが、それにも気付かず顔を赤らめた。
工藤がまた泊まりにくるからと、布団3組をそのまま残していったけれど、二人がそれを使うことはなかった。
今でもソファとベッドを交互に使っているし、あれから一緒に寝たことはない。
「せ、狭いし・・・、それに久保ちゃん・・、前に寝たとき・・」
「ん、なに?」
「なっ、なんでもないっ!」
ぶんぶんと首を振る時任の耳まで赤くなっている様子を、久保田は穏やかな笑みで見つめていた。
―――さて、あの日、工藤が泊まった一日目。
二人に何があったのか。そしてこの日、二人に何があるのか。
真相を知るのは二人のみ。