見栄
時任はどちらかといえば見栄っ張りである。
「ビューティー時任こと、宇宙のアイドル時任様のおでましだ!」
自分の美学とやらかナルシスト気味でもある思うけれど、ある意味自分を知っているのだと思う。
「てめぇら、俺様にかなうとでも思ってんのかぁ!?50人相手にしても一人勝ちのこの時任様に刃向かうとはいい度胸だなっ!」
そして、うん。やっぱり見栄っ張りだなぁと、ぷかぷかと煙を吐き出しながら久保田は頬を緩めた。
・・・と久保田は少々贔屓目な思考を漂わせながら、短くなったタバコを地面でもみ消して腰を上げた。
「はーっはははっ、思い知ったか!」
宣言通り時任は不良達を地面に這わせたようである。突っ伏す彼らを見下ろしながら高笑いをしていた時任は、のっそりと近づいてくる久保田に気づくと一変して満面の笑みを見せた。
「久保ちゃん、終わったぞ!」
「うん早かったね」
「とーぜんっ、手加減してやったくらいだぜ」
「うんうん、さすがだねぇ」
「まーなっ、こいつらも弱ぇくせにカツアゲとかやることだけは一人前だっつーの、なぁ?」
「そうねぇ」
「まっ、俺の手にかかりゃこんなのあっちゅーまに解決だ、はっはっはっ」
今日の見回りもこれで終わりともあって、時任は上機嫌だ。
部室へと戻るやいなや、時任は相浦を相手にちゃっかり3割増しの武勇伝を自慢することも忘れない。
見栄っ張りは総じて自慢話が好きである。
「おーっし、今日は働いたし、相浦、勝負しようぜ!」
それから始まったゲーム対戦。いつもなら小姑のごとく小言をわめくはずの桂木の不在を狙ってのことだった。
ここぞとばかりに伸び伸びと羽を伸ばしているのは時任だけではない。
室田はどこから持ち込んだのか筋トレマシーンで汗を流し、松原は午後の一服とばかりに抹茶をたて和菓子をホウバっている。もともと他人に干渉をしない面々はそれぞれ鬼の居ぬ間に好き勝手やっていた。
久保田も例に漏れず、窓辺で雑誌を読みふけってる。・・・それはまぁいつものことだが。
窓辺は温かく、木漏れ日がうとうとと眠気を誘う、そんな心地よい空気。
ああ、眠くなってきたなぁ。と久保田はあくびをしながら、ふと聞こえてきた時任の怒声に、近代麻雀のコラムから、ちらりと視線を向けた。
「今のはズルだろ!この俺様が負けるわけねぇっつーの!」
「何言ってんだよ!今のは俺の勝ちだ!」
「俺様は負けたことはない!もう一回だ、勝負つけるぞ!」
「いいけど俺が買ったらジュース奢れよ」
「勝つのはこの時任様だっつーの!」
見栄っぱりの上頑固なのも時任だ。いつものことだと騒がしい二人に再びぬるいあくびをして雑誌に目を落とした。
「よっしゃ俺の勝ちぃ!」
「だぁぁっっ!!相浦もう一回だっ!!」
ああ、平和だなぁ・・。
あいつだって同じはずだけど、やっぱ若さが違うのかねぇ。
いやお前も同じ年だろと、誰かがつっこみそうなことを考えながら久保田はいつのまにか船をこいでいた。
次に目を開けたのはふと、ボソボソとした相浦の声が聞こえてきた頃だった。うとうととしていたのは十分程度のことらしいと時計に目をやってから時任の方へと目を向けると、さっきまでの騒がしさはどこへやら相浦と時任が神妙な顔をして声をひそめていた。
「そっ、それで?」
「それでさ、すげーんだよ。あいつらもう所かまわずって感じでさ、」
どうやらゲームにも飽きて噂話に花を咲かせていたらしい。
相浦からごにょごにょと話を聞いた時任の頬がじわりと赤く染まっていく。
下の話にも興味津々なお年頃。どうやら夏休みに初めての行為をすませた相浦の友人カップルの話らしく、たががはずれた二人は発情期の猿のように学校でもやりまくっているとそういうことらしい。
こういう話を執行部でするのは珍しくはない。―――桂木が居ないときに限るが。
しばらく真っ赤になっていた時任だったが、「別にいいんじゃねぇの、好きならさ」と
意外にも大人の反応が返ってきて、ちゃっかり話を聞いていた室田と松原は驚いたように目を丸くした。
「・・・なんだよ」
からかってやろうと思っていたらしい相浦もぽかんとしている。
「いや、なんというか時任らしくないというか」
「イエス。いつも子供っぽい時任が大人に・・」
「なっなんだよ。言っとくけどなっ、俺はもう子供じゃねーぞっ」
室田と松原に眉をつりあげた時任に、「なんだと!?」と反応したのは相浦だった。
「も、もう子供じゃないって、お、お前まさか」
「なっ、なんだよ・・」
「まさか、け、・・・・・・経験済み、なんてことないよな?」
なにを?と疑問符が浮かんだ時任は首を傾げること数秒。
その後、ぼんっと破裂音がするほどに顔を赤く染め上げた。
「ばっ、そ、そそそそんなこと」
「だよなーやっぱないよな」
「あるわけないデスよー」
「それはないだろう」
「俺時任にだけは先越されたくねー」
「時任は奥手だろうから大丈夫だろう」
「イエス、ザッツライ」
それぞれに好き勝手言われて、時任は眉をつりあげる。
全員で否定されると見栄を張りたくなるのは男というものなのだ。
「おっ、お前等〜っ」
そして時任はわなわなと震えながら、思いもよらぬ爆弾を落とした。
「俺だってそれくらいあるっつーのっ!!」
・・・・・・。
「――――え、えええっ!!?」
あーあ。
ふわーっと大きなあくびをした久保田は苦笑して煙草に火をつける。今更ながら失言と気づいたらしい時任の顔は熟れたトマト状態だ。
「い、いや、それはその・・っ」
「まさか時任に先を越されるとは・・」
「マジかよ、どんな子だよ!?」
「可愛い子デスか!?」
「ブスだろ!?相手はブスだよなっ、ブスだと言ってくれ!!」
二人に詰め寄られ相浦に肩を掴まれてがくがくと揺さぶられながらもそこはさすが時任。
どんなときでも見栄を忘れない。
「か、か、可愛い子に決まってんだろ!」
ギャーマジかぁぁぁ!!とさらに盛り上がる面々の中、久保田は吸いかけの煙草をくわえたまま腰をあげた。
「誰だよっ!!誰なんだっっ!!」
「ナルシストの時任が可愛いというくらいだからな」
「相当の美人デスよ!!」
「じゃあまさか3年のマドンナかっ!?いやまてよ、1年にも可愛い子が・・」
勝手に盛り上がっていく面々に、時任はあわあわとしている。今更引っ込みがつかないのだろう。
ここはもう逃げてしまえとこっそりその場から後退し始めていたその肩に、ぽんと置かれた大きな手。とたんにビクっ!と見て分かるほどに時任の体が跳ね上がる。
おそるおそる顔をあげた時任の目前には、美しく微笑した久保田の姿があった。
「へぇ?相手の子、そんなに可愛いんだ?」
「く、く、久保ちゃんっ・・」
さっきまでの勢いはどこへやら、だらだらと汗を流す時任に、久保田は口端がゆるりとつり上がる。
「じゃあさ・・」
盛り上がる面々は赤い顔をさーっと青くさせた時任には気づかない。
その可愛い子と一体どこまで経験しているのか、はっきりと告げられることはなかったが、ほんの少し時任を大人にしていた張本人がうっすらと笑みを浮かべて囁いた甘い言葉は、時任の耳にだけ届いていた。
―――ご期待通り、今夜は可愛くコスプレでもしてあげようね?
まぁ、男は色々と見栄を張りたいものですね。
にゃんだこりゃ(*ノωノ)