熱狂 
  



  

久保ちゃんは、モテる。


ンなこと言っても今更だけど、こいつはマジでモテやがる。

男女問わず、校内外と言わず。二人で歩いていて、カオも知らねぇ奴から声かけられることなんて、しょっちゅうで。なんでこんなにモテんだろうと、何度不思議に思ったことか。


やっぱ、・・・カオ、か?


普段分厚い眼鏡をしていて、ぬぼーっとしてるけど、確かに久保ちゃんは男前だと思う。

・・俺の方が絶対的に美少年だけどな。

まぁ、髪とか服とか無頓着だけど、それでもスタイルがいーからなんかキマってるし。それにいっつも穏やかで誰にでもやさしーし。

だからホント言うと、分からんでもない。


ただ問題は、当の本人が誰にどう思われようと、少しも気にしていないって事。

気にしていないからこそ、久保ちゃんは危ない。

普通の女なら、告白して断られれば身を引くだろうけど、そうじゃない相手だったら・・。例えば強引で気が強い子とか。

自分のことには疎くて無神経で無頓着な久保ちゃんのこと、のほほーんとしている間に、強引に押し切られんじゃねぇかと、少なからず心配だったりするんだ。


そうだ、心配してはいたんだけど・・・。



でも。


―――だからって、マジでコレはねーだろ?



「・・なに、してんだ?」


呆然と呟いて見つめる先には、信じられない光景があった。

保健室のベッドの上、女と二人きりで、・・・・服を乱した久保ちゃんの姿。

制服のシャツはボタン1つでどうにか閉じられているけれど、ベッドに仰向けになった腰のあたりには、上半身下着姿の女子が向かい合うように上に乗っていて。


それは、誰が見ても分かる、・・真っ最中。


かなりすげぇ現場に出くわしたというのに、動けず呆然と問いかけてしまった自分の間抜けさに気づかないほど、なにがなんだか分からず凝視してしまった。


「・・・時任」


こんな時でも変わらない、久保ちゃんの穏やかな声。目を合わせて見れば少し困ったような表情で。

それでそこまで立ち尽くしておいてようやく、ハッと我に返った俺。咄嗟に目を泳がせて床に散らばった女の制服が目に留まって、一気にカオに熱がこもった。


「ッ・・ワリ、邪魔した!」


何かを言いかけた久保ちゃんの顔に、一瞬だけ無理矢理張り付けた笑みを見せて、逃げるように保健室を飛び出した。


―――――ドクドクドク・・、心臓が軋む。


きびすを返す視界の中で、こちらを見つめる女の笑みが見えた・・・気がした。

 

 

 

 

****************


「・・・えっーと・・」

「大丈夫ですよ、今日は五十嵐先生お休みですから」

「いや、そういう問題じゃなくて・・」


保健室に呼び出しを受けて、訪れた昼休み。「大事な話がある」と匿名でいただいた手紙をなんとなく無視もできず時間通り来てみたけれど、人っ子ひとりいなかった。

時任は部室に行ってるだろうから、今から追いかけようか、そう考えてみたけれど、この際面倒だし昼寝がてらに待ってみようかとベッドに寝ころんで待つことにして。

ああ、そんな気まぐれが悪かったんだなぁ。

よほど疲れてたのか、少し寝ちゃったんだ。他人の気配に気づかないほど、それはまぁぐっすりと。


目を開けてみれば、目の前に見知らぬ女の子がのぞき込んでいて、思わず瞬きをした。

驚いたのは、その子が制服を脱いで俺の上に乗っていたから。


そりゃ驚くっしょ。目が覚めて知らない人が自分の上に乗ってたら。時任なら絶叫ものだ。

その子は大きな瞳を細めてにっこりと笑うと「来てくれて嬉しいです、久保田先輩」と言った。

とりあえず誰?と尋ねると、その子は軽く名前を名乗ると「抱いてください」ときたもんだ。


最近の女子高生は大胆だねぇ。ぼんやりとそう思っているとご丁寧に俺のシャツのボタンを一つずつはずしてくれている。


「・・こんなことするために、俺を呼んだのかな?」

「いけませんか?・・私、久保田先輩が好きだから・・」

「うーん、でもねぇ、俺は別にほら、キミのこと好きじゃないから」

「だから、抱いてみてください。私のこときっと好きになるわ」

「・・・自信家だなぁ」


好きじゃないとはっきり口にしても動じない。それどころか抱いてみれば好きになると悠々と微笑む彼女はよほど自分に自信があるのだろうか。

・・強気な子は嫌いじゃないけれど。

昔のように来るもの拒まず、流れに身を任せるというわけにはいかなかった。

・・・今は。


このまま放っておいては逆レイプまがいに貞操を奪われかねないので、「悪いけど・・」と身を起こそうとしたそのとき。


ガラッと勢い良く扉が開き、見慣れた顔がこちらに気づいて瞳を大きくした。

あー・・見事に固まってる・・。


そりゃそうか。いくらなんでも、ここまで決定的に目の当たりにすれば、何をしているのか分かるだろう。


呼びかけてみると、ビクリと我に返った時任はすぐに笑顔を見せて飛び出していった。


一瞬見せた、苦しげな表情は・・気のせいじゃないよね。





****************



頭が真っ白になりながら無意識に向かったのは、屋上だった。

午後の予鈴が鳴り響いたけれど教室に向かう気にもなれず、フェンスを背に腰をおろす。

暖かい日差しを頬に感じながら少し冷たい風を受けていると、心臓の音もようやく落ち着いてきた。


・・えっと、何が何で、どうなったんだっけ。


『悪い時任。今日昼飯先食ってて。』


用があるからとそう言って久保ちゃんはどっか行った。俺は仕方なしに執行部の部室に足を向けて、相浦たちがいたから一緒に飯食って。

いつまで経っても戻ってこない久保ちゃんを探しにいこうって思ってたら、知らねぇ女子から呼び止められたんだっけ。


久保ちゃんが保健室で待ってるって・・・。


なんだってんだよ。

いくらなんでもあのシーンじゃ、俺を待ってたとは思えないし。女に騙されたのか、それとも久保ちゃんが、わざと・・・?


元々久保ちゃんと俺はただの相方で、同居人で、男同士のトモダチだった。・・こないだまでは。

それが、”それ以上の関係”になったのは数ヶ月前のこと。

キスしたり、体重ねたり。久保ちゃんに求められるまま受け入れた感じ。

かなり戸惑ったけど不思議とイヤじゃなかったし・・。


男同士でもできるんだと分かったけれど、そんな行為にどんな意味があるのかは分からない。

それでも気持ちよかったし、久保ちゃんの熱は心地よかった。


だけど、そんな風に思ってたのは、俺だけだったんだろうか?


久保ちゃんと一緒にいた女を俺は知っていた。こないだ俺に話しかけてきた1年の女子。久保ちゃんとつきあってるのかと聞かれて、俺らの関係を知ってるのかとドキリとしながらも、つきあっていないのは本当だから素直に首を振った。なのにその子はちっとも納得していない様子で。


『どちらにしろ、久保田先輩は必ず私のモノにしてみせます』


強気な笑みと挑むような瞳が印象的な子。俺は怒るどころか呆然として、そんで少しだけ・・・そいつに嫉妬した。


俺は言えない、そんなセリフ。

コレ上ないくらい肌を寄せて近くにいても。

俺は女じゃねぇし、俺達は愛だの恋だの、そんなのを語り合うような関係じゃない。

いくら久保ちゃんの肌や温もりを求めあっても、しょせん”男同士”なわけで。


今はただ、肌を重ねる快楽だけに翻弄されて。きっと今だけだからって。それでいいんだって思ってた。


・・・なのに、何で俺、こんなに傷ついてんだろ。


久保ちゃんの上に乗っかってる女を思いだして、ズキリと大きく胸が痛む。ばかみてぇに苦しくなる心臓が悔しくて、胸元の制服をぎゅっと握りしめた。


なんだよこれ。俺ってかなり惨めじゃん。

初めて久保ちゃんの唇に触れたときから、・・いや、たぶんもっとずっと前から。


・・俺は結局、久保ちゃんを独り占めにしたかったんだ。





****************

 


「・・・あーあ、やってくれたねぇ」

「時任先輩は久保田先輩とは付き合ってないし、何とも思ってないって言ってくれたんですよ。だから見られても構わないでしょう?」

「・・・・」


別に、それはいいんだけど・・・。


「でも今度は鍵、閉めますね。途中で邪魔が入ったら困るから・・」


女が鍵を閉めに立ち、ようやく解放されて体を起こす。ああよかった、ズボンは無事。寝てる間に犯されてたらどうしようかと思った。

なんて、シャツのボタンを閉じていると、「何してるんですか?」と女が再び向き直る。


「時任が待ってるから、行かないと」

「・・・行かせない」


少しせっぱ詰まったような顔で、下着をはらりと脱ぎ捨てる。露わになる白い肌にふっくらとした胸。

それは久しく見てない女のカラダ。


「触って・・」


女は俺の右手を持って、自分の胸のふくらみに誘導する。否応なしに伝わる感触。

毎晩触れている硬くて引き締まった胸ではなく、柔らかで弾力のある感触。


「・・・・・・・」


うーん、やっぱ俺はおかしいんだろうか。


ふつうの男ならこの胸を、この肌を、選ぶのだろう。据え膳食わぬはなんとやら、こんなシチュエーションなら喜んでベッドに組み敷くに違いない。


なのにどういうわけか、俺の体は少しも反応しなかった。


俺だって、相手がこの子じゃなければ・・・、

―――時任だったら・・・・。


当然のように思い浮かぶまっすぐな瞳に、トクリと胸が鳴って苦笑した。


・・うん。やっぱ、そうね。

俺は結局あいつにしか、熱くならないってこと。


けれど、時任はこんな真似、しない。


「・・だから、問題は別にあるんだよねぇ・・」

「え・・?」


女のように華奢でもないし、膨らみも柔らかさもなくても。

欲しくて欲しくてしょうがなかったのは、たった一人だけ。


「悪いけど、アンタじゃ勃たない」

「―――ッ!」


自信に満ちていた顔が初めてひきつった。女のプライドを傷つける言葉。そんなものいくらでも吐けるし、ズタズタに傷つけても、正直どうでもいい。


けれど、一瞬だけ見せた時任の苦しげな顔が、それだけが俺の胸をひどく締め付けていた。




***********************



カタン、扉が動く音に振り返ると、そこには久保ちゃんと、・・女がいた。


久保ちゃんの後ろから付いてくる子は、当たり前だけどちゃんと制服を着ていて。

そんな訳の分からない思考に行き着くほど、複雑に鼓動が早まる。


屋上に久保ちゃんが誰かを連れてくるなんて、初めてのことだから。


なんだ、そっか、そういうことか。あれはラブシーンで、俺が単純に邪魔しちまっただけで・・。

二人は付き合って・・・・。


胃の奥が捻れるような鈍い痛みを感じながら、頭は真っ白というかむしろ真っ黒で。それでも俺は怒ったり傷ついたりする資格なんてねぇから。

久保ちゃんから聞かされる言葉を覚悟して、返す言葉を一生懸命探していると、久保ちゃんは何を思ったのか、スタスタと俺の方へ近寄り、隣に腰を下ろして目の高さを合わせるようにのぞき込んだ。


「・・・ッ、な、なんだよ?」


近いっつーの、と眉を寄せて俯くと、くいっと顎を持ち上げられ・・・・深く唇を塞がれた。


な・・・んっ・・!?


視界に入らなくとも、彼女が息をのむ気配がする。


驚きに目を開いて無意識に手で押し退けていたけれど、ものすごい力で引き寄せられ抱きしめられ、頭を後ろから抱え込まれる。上を向かされ開いた口から舌が割り込んできて、深く激しく絡まる。


「ふっ・・んんッ・・!」


濡れた音が響かないほど隙間なく重なった唇は、苦しいほど激しく、いつも穏やかで涼しい顔しているやつとは到底思えない。深く深く、すべてを奪い尽くすかのように、舌を絡め蹂躙し好き勝手暴れ回って。

俺は久保ちゃんの腕に縋りつくように、なす統べなく衝動を受け止めるしかない。飲み込みきれない唾液が口端から溢れようと、久保ちゃんは構わず角度を変えながら何度も深く口づけた。


やべ・・、こんなときだってのにっ・・。


だんだんと頭の芯から溶かされていって、何も考えられなくなる。彼女に見られてるとか、学校だとか、さっきのことだとか。

すべてがどうでもよくなるほど、気持ちよくて・・。

熱い熱い久保ちゃんに、すべてが持って行かれる。


ようやく小さく音を立てて離れた二人の隙間に糸を伸ばし、俺はくったりと久保ちゃんの胸にもたれ掛かった。

腰が立たたないどころか、下に熱がたまってしまっていて、力が入らない。


「はっ・・、く、くぼちゃ・・」


荒く息をつきながら見上げると、濡れた唇を拭おうともせず優しく見つめる久保ちゃんと目が合った。

その目の奥に欲情の色を認めて、ぞくりとする。いつも俺を求める久保ちゃんの瞳だった。


「な・・、なんなのよっ・・」


困惑したような第三者の声に、その存在を思い出してハッと目をやると、彼女は顔を赤らめて怒りに手を震わせていた。


「へっ、変よ!お、男同士なのにっ・・」

「っ・・・!」


ぐっと胸が詰まる。何かに突き刺されたような傷を認めながら、何も言えずにいると、久保ちゃんが俺を抱きしめてきて、信じられないことを言った。


「ねぇ、時任。ここで、シヨっか?」

「は・・・・・・?」


まるで彼女の存在を無視したように、抱きしめていた手を制服の裾に忍ばせてくる。


「く、久保ちゃんっ・・!」


構わず膝を割ってのし掛かってくる久保ちゃんに抗議しながら、ふと腹に当たる堅さに気づいて言葉を失った。


「っ・・・」

「しょうがないっしょ。お前に触れると勝手に反応しちゃうんだから」

「ば、ばかっ・・、こんな人前で・・」


かーっと頬が熱くなって何もいえずにいると、「あれ、まだいたの」と、久保ちゃんは初めて気づいたかのように彼女に目をやり、はっきりと言った。


「分かってもらえた?オレの体、こいつにしか感じないから」

「―――!!」


絶句。目を見開いた彼女が立ち尽くす姿を見たのも束の間、再び久保ちゃんの熱い唇が覆い被さってきた。


「っ・・くぼっ・・」

「キスしたいのも、抱きたいのも、時任だけだから・・・」


キスの合間に吐息と一緒に紡がれる言葉に、ぎゅっと胸が熱くなって・・。

俺は自然と熱い舌に応えていた。


熱い、熱い、とろけるようなキス。柔らかな瞳とは正反対の激しい情熱が、俺を絡めとり翻弄していく。

いつの間にか二人きりになっていたことにも気づかず、何度もキスを繰り返していた。


そういや初めての時も、こんな風に、お互い引かれあうようにキスしたんだっけ・・・。

余計なことなんて何も考えられないほど、熱にうなされて・・。


触れたいたるところから、熱い衝動と一緒に久保ちゃんの全てがジンジンと伝わってくる。


興奮、快楽、情熱、・・そして深い想い。




ああ、そっか。

そうだったんだ。

恋とか愛とか、やっぱり俺達には必要ないものなんだ。

 

この行為に、意味なんてなくとも。

求めあうことは誰にも止められるものじゃないってこと。

 

 

 

 

 



♪"<(●´U`●)ゝv

 

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