「「あ」」
真っ白な世界で捜し求めていた相手は、突然現れた。
お互いに見つめ合って、笑った。
「久保ちゃん、なんだよ、こんなとこにいたのか」
「時任こそ、探したよ」
「すんげぇ歩いたんだけどよ、どこまで行っても真っ白なんだぜ」
「そうね、俺もだいぶ歩いたかな」
そう言いながら近づく二人の間に、微妙な視界の歪みがあることに気づいた。
「・・なんだこれ?」
時任が眉を寄せれば、久保田も困ったようにその目の前の障害物を眺めた。
「・・ガラス?」
コンコンと叩いてみると、それは固い硝子のようだった。
近づくまでは気づかなかったが、二人の間を透明な硝子が隔てている。
真っ白な空間に二人を遮るようにどこまでも続く硝子。
その硝子は見上げても左右を見てもおそらく切り目のない、恐ろしく巨大な壁に見えた。
「・・さて、どうしようか?」
久保田は少しも慌てた様子もなく、懐から煙草を取り出す。
「そりゃ、ぶっ壊すに限るだろ。俺はまだお前に言いたいことがあんだ」
「なんだろうね?楽しみね」
「ああ、じゃないと死んでも死にきれねぇからな」
「うーん、煙草は持ってても、銃は持ってないなぁ」
「俺なんか、なんも持ってねぇっつーの」
「それじゃ、これしかないね?」
久保田は両手をポケットに突っ込んだまま、右膝を軽くあげてみせると、時任がにやりと笑った。
「ああ、実力行使だ、いくぞっ久保ちゃん!」
「いつでも」
時任が右の拳を降りあげた瞬間、久保田も右脚を振り上げた。
二人が同時に攻撃した硝子は、一瞬の静けさのあと、ピシピシと脈のようにヒビが入り、やがて派手な音を立てて砕け散った。
「聞いた?3病棟の二人、今朝方、行方不明になったらしいわよ」
「ええ、先週重傷で運ばれてきた二人でしょう?全身に銃創があったぐらいだもの、ワケありなのよ。目が覚めてすぐに逃げたんじゃないかって話よ」
「あら、でも警察がきてたらしいからすぐに捕まるんじゃない?」
ナース達の噂話を聞きながら、男はだらしなく伸びた髭をさすりながら笑みを浮かべた。
「捕まりゃしねーよ・・あいつらは」
男の数日前までの絶望的な表情も、今日は晴れ晴れとしていた。
またひょっこり顔出すだろう、と刑事の勘というより、叔父として、見守り続けた者としての
勘なのだろうか、寄り添う二人の姿を思い浮かべて、目を細めた。
男には使命があるという。
肩を寄せて歩いていく二人を見守るという使命。
あの二人は、これからもずっと共に生きていくだろう。
「俺もまだまだ逝けねぇな」
白くなった頭を掻きながら、男は楽しそうに笑った。
(完)