作品
  



  

久保ちゃんは、長袖を好んで着る。

制服は夏でも長袖のシャツ。それを腕まくりして着る。私服でもそうだ。

別に、んなことどーでもいいんだけどさ、なーんか、もったいねぇなと思うのは俺だけか?

・・・だって、俺が見惚れるほど、イイカラダしてるから。


「よ――しっ、でーきたぁっ!」


今日の美術はペアでデッサン。一人の持ち時間を半分も残してのこの仕上がりは、俺様的にも大満足だ。

目の前のモデルから目を離して高らかに喜びの声をあげると、両脇にいた相浦や桂木が俺様の作品をのぞき込んでくる。

いーぞいーぞ、見ろ見ろ。

天才画家時任様の最高傑作だ。

出来がよければデッサンのコンクールにも出されるかもしれないというから、けっこう気合い入れて頑張ったからな。

俺って、やっぱり何やらしてもできちゃうんだよな〜。


「・・・ちょっと時任、何よこれ?」

「・・誰だこれ・・?」


得意げに両手を組んでいた俺の笑みは、左右から同時の問いにフリーズした。


「は――?んなの決まってんだろ!久保ちゃん以外に誰がいるんだよ!」


すると左右の二人は、目の前でお昼寝よろしくモデルとなっていたペアの久保ちゃんと、俺の絵を交互に見て・・思いっきり笑い声をあげた。


「ぷっ!!く、久保田君?!」

「ぶはっ!!こ、これがか!?」

「な、な、なんだよ!!どう見ても久保ちゃんじゃねぇか!!」

「だ、だってそれ!」

「ぷぷっ、久保田がなんで、そんなマッチョなんだよっ!」


なんだと〜!?失礼なやつらめ!

相浦が言うにはマッチョに描きすぎで、とても久保ちゃんには見えないという。桂木なんかナニがそんなにツボにはまったのか、「なんで裸なの?」とひたすら腹を抱えている。

そんなこと言ってもデッサンなんだから、裸の方がカッコイイと思ったわけで、まぁ上半身だけだけど。ただ久保ちゃんはいつも肌を露出しないから、家で見たのを思い出しながら描いただけで。

つーか、それにしちゃ俺ってマジすげーと思うんだけど・・。

・・おいコラ、美術の教師まで俺の絵を見て吹き出すこたねーだろ。

そのうち騒ぎを聞きつけてほかの班で教室を出ていた松原・室田コンビが寄ってきた。


OH,この体型、室田に近いのでは?」

「うむ、そうか?確かに理想的な筋肉だ。マッチョでありながら引き締まっていて余分なものがついていない。しかしこの絵のモデルは誰だ?」


その反応に相浦達の笑い声がいっそうあがる。


「〜〜〜っ」


あーあ、そうかよそうかよっ、誰もこの絵の良さが分からねぇってんだな!


「お前等には俺の天才的な才能が分からねぇんだよ!」

「・・そうねぇ。でもちょーっと上腕二等筋が大きすぎるかな」


ヤケ気味な俺の後ろから、いつのまにやら久保ちゃんがのぞき込んでぽつりと言った。


「――久保ちゃん!起きてたのかよ。ってお前まで俺の絵にケチつけんのか?」

「いんや。顔はどうあれ、似てるんじゃない?どうして裸でタバコだけ銜えてるのか分からないけど」

「そうか!やっぱ似てるよな!ほら見ろお前等、本人が似てるつーからいいんだよ!」

「相変わらずそんなところまで甘いのね、久保田君」

「そうそう。想像っていうよりここまでくるとマンガみたいだな」



呆れ顔の桂木に便乗して、相浦まで容赦ない。

するとそれに反応した久保ちゃんが思わぬことを口にした。


「うん?そうでもないよ。たぶん時任は俺のカラダを覚えてるんじゃないかな。なんなら本物と比べてみる?」


そう言って、突然シャツのボタンをはずし始める。


「く、久保ちゃん?」


驚いて固まる俺を後目に、シャツをおもむろに脱ぎ捨てた。


「ちょ、ちょっと!」

「きゃ〜っ!」


桂木が止める間もなく、女子の喜びの悲鳴と、おおおっ!と男どものどよめきがおこる。


上半身だけだけど、裸になった久保ちゃんのカラダは、見慣れている俺でもなんだかドキリとした。普段細見の印象だけど、肌を出すと驚くほど逞しさを感じるんだよな。骨ばっていてゴツゴツしていて。だけど引き締まった筋肉が腕から胸、腹にかけてのびていて。

そうだ、俺が思い出しながら描いたとおりの、久保ちゃんのカラダ・・。

それは本当に見惚れるほどキレイで、当然のようにそこにいた誰もが、久保ちゃんのカラダに釘付けになった。

一番素早く反応したのは室田だった。


「おお、久保田、やはりお前イイ筋肉をしているな」


それに続いて松原。


「ほんとですね!日々鍛錬を怠っていない、絞りこまれた
肉体ながら、やりすぎていない。本当に理想的デス!」


相浦はぼーっと見つめながら力なく言った。


「ほ、ほんとだな、意外と着やせするんだ・・」

「っていうか、時任の絵、意外と似てるわね・・」


そう呟く桂木が少し赤い顔をしているのは気のせいか?

ってそこでようやく我に返った俺。


「く、久保ちゃん!ナニやってんだよ!」

「ナニって、時任君の為に、一肌脱いでやろうかなと」


そう笑いながら、俺の描いた絵のとおりにポパイのポーズまで決めてくれちゃってる久保ちゃん。

くそー、おちゃめだぞ久保ちゃん、なんでそんな姿までサマになってんだっ!


「いいから着ろ!今すぐ着ろ!!」

「「久保田君、すてき〜!!」」


ほらみろ、女どもが写メでも撮りそうな勢いで、久保ちゃんに食いついている。

久保ちゃんがこんな人前で肌を晒すなんて滅多にない。っつーか、レアすぎるだろ。

早く着ろとせかす俺に久保ちゃんはシャツを羽織っただけの姿でにじり寄ってきた。


「な、なんだよ」

「さぁすが時任だね。毎日俺の裸見てるから、想像だけで描けちゃうんだ?」

「ばっー!」


ばかやろー!なんて意味深なコト言いやがる!

これだけ露出の少ない久保ちゃんの裸を毎日俺が見てるって、かーなり異様なハナシだろーっ!!

ハッと気付けば、クラスの女子共が赤い顔して静まり返ってる。

なんとか誤解をとかないと!!


「そっ、それは、ヘンな意味じゃなくってっ!いっつも一緒に風呂入ってるからだろ!」


どーだ、ナイスフォローだろ!と思いきや、途端に黄色い悲鳴があがった。


「久保田君と時任君って毎日一緒にお風呂入ってるの!?」

「すごい!ラブラブっ!!」

「きゃ―――っ!!!」


ぎゃ、逆効果!?まずったのか俺!だ、だって裸を見る理由って、風呂しかねぇだろ!?

ゲッと顔をしかめる俺とは正反対に、久保ちゃんは何がそんなに楽しいのかニヤニヤと笑みを見せている。


「そうねぇ、毎日入りたいところだけど、時任が恥ずかしがるから、特別な時だけかな」

「く、久保ちゃんっ!!変なコト言うなぁあ!!」


もういい、もういいよ、俺が天才画家なんかじゃなくても、この絵が久保ちゃんに似てなくてもいいからっ!

これ以上ハナシを飛躍させんのはやめろ〜!!



そうしてなんとかかんとか熱も冷めてきたころに授業も終わり、俺は片づけるのも億劫なほどぐったりと疲れきっていた。

机に突っ伏す俺の頭上で、桂木の声が聞こえる。


「あら、久保田君も絵を描いたの?いつも眠ってるのに珍しい」

「うん、まぁいちおう。モデルが宇宙一の美少年とあらばねぇ。・・見る?」

「いいの?」


ふーん、久保ちゃん、ちゃんと俺の絵を描いてたのか。

そりゃ俺ならこれ以上ないほど美しいモデルだろうけど、珍しいこともあるもんだ。


「久保田の絵?俺も見せて」

「俺も俺も」


気づけばさっきまで俺の絵をケナしてた奴らが久保ちゃんの周りにタカって・・、そんで突然。


「――――――!!!」


騒いでいたやつらが一気に沈黙した。・・というより絶句した?

な、なんだ?


「こういうのは想像力が大切だよね〜」


と久保ちゃんは一人、楽しげに笑っている。

気になって俺も見に行こうとするが、俺には見せないというようにパタンとスケッチブックを閉じやがった。


「なんだよ!見せろよ久保ちゃん」

「だーめ。今度ね?」


なんだよソレ。納得いかねーと喚いていると、その場から離れていく相浦と目が合った。かと思えば次の瞬間、相浦の顔が、ボンと音がたつほど真っ赤になった。


なっ、なんなんだ!?いったい・・

他のやつらを見てみればそれぞれ似たように顔を赤らめていて、あの桂木まで頬を染めて呆然としている。

・・ま、まさか久保ちゃんまで想像で俺のヌードを描いたっていうんじゃ・・?

イヤな予感を覚えていると、ふと誰かが呟く声が聞こえた。


「時任が・・、猫ミミ・・」

「・・・・は・・?」



―――――いったい何の絵を描いたんだ!?久保ちゃん!!




遊んでしまいましたvv 猫時デッサンのおまけ ですvv

 戻る