桜色【3】

 



「・・誠人、変わったな」
一部始終を見守っていた松本が少し驚いたように笑みを見せると、久保田も薄い笑顔で応えた
「・・これはこれは松本会長、お久しぶりデス」
「ふ、可愛げの無さは相変わらずだが、お前のそんなに生き生きしてる姿を見れるとはな」
「そーぉ?こう見えても俺ってまだ17だし?」
親しげに話を交わす久保田達を見た時任は少しむっとした表情で久保田の脇から教材を奪い取った
「時任?」
「久保ちゃん!知り合いなんだってな?」
「ああ、ちょっと色々と昔のね・・」
「ふーんっ、」
「ん?何時任、もしかして妬いてる?」
「ばっ、だっ誰が妬くかよっ!!」
久保田がクスリと微笑むと時任は頬を赤らめ、口を尖らせている
松本は目の前で自分の存在をまるで無視したように、時任に穏やかに微笑む久保田を見て目を丸くさせた
・・なるほど、今朝校庭で周囲を包んでいた妙な色は・・こういうわけか、
しかし、あの誠人が、こんな瞳をするとは・・、意外だな
時任稔・・、この少年が誠人を変えたって事か・・・、

「くぼちゃんっ!もう行くぞっ!!」
「じゃぁ、会長、お後はよろしく〜」
女の子らが久保田を見て顔を赤らめているせいか、時任はさらに機嫌を損ね始めたようだった
「誠人」
松本は、そそくさとその場を去ろうとする二人を呼び止めると、会長らしい堂々とした口調を見せる
「忘れてないだろう?時任君の編入手続きに付けた条件のことだ」
「・・うーん、だよねぇ」
のほほんと目を細め煙草に火をつける久保田とは変わって、何も知らない時任は松本を睨みつける
「なんだよっそれっ」
「誠人、時任君、二人には生徒会に所属してもらう」
「・・・はぁ!?生徒会?何で俺らがンなメンドクサイことっ」
目をぱちくりさせる時任は明らかに嫌そうに眉を寄せた
「君を2年次より編入させる代わりに、二人とも生徒会本部に入るということ。そうだろう、誠人」
久保田はぷかぷかと煙をふかしたまま、返事の代わりに眉を少し上げてみせる
「〜っ、久保ちゃんっ、俺聞いてねぇぞっ」
「・・時任君、先ほどのこれは人助けだろうが、明らかに暴力行為。初日からこんな騒ぎを起こすとは、普通なら停学ものだ。それに、おそらくこれからも君らなら、いざこざに巻き込まれるだろうな。」
「っ!そ、それは・・」
確かに正義感溢れる時任の性格なら、今日のような事が起こる可能性は高く、時任が騒ぎを起こせば必然的に久保田も自ら巻き込まれるだろう
納得いかないような顔をしていた時任もそれが分かっているのだろう、言い返せず口ごもった
「松本、それはごもっともだけど、そんな問題児を近くにおいたら会長であるあんたが一番迷惑なんじゃないの?」
かわりに黙って聞いていた久保田は穏やかに聞き返すと、松本は口元にフッと笑みを浮かべた
「誠人、生徒会本部ではなく、現場を取り締まる、君らの、うってつけの部署があるだろう?」
久保田は思い当たるらしく小さくため息をもらし、時任は少し興味を持ったように瞬きをした
「・・やだって言ったんだけどなぁ」
「なんだよっ、それ?」
「久保田誠人、時任稔、両名を今期より”生徒会執行部”所属とする。」
怪訝に顔を見合わせた二人に松本は何かを確信したかのようにニッと笑ってみせたのだった

 


「てめぇらっ!こんなとこで煙草吸ってんじゃねーぞ!!」
新緑の頃、青い空に時任の怒声が響き渡る
「うがっ!!とっ時任に、久保田!何しやがる!!」
タムロしていた不良代表、大塚の顎に時任の右ストレートがクリーンヒットした
「何って、なぁ、久保ちゃん」
「うん、公務執行中だけど」
何が公務だ、何の権限があるってんだ、と喚く大塚に久保田が自分の腕を指差した
「この腕章が見えない?」
「腕章・・ってまさか・・、お前ら」
「荒磯高等学校生徒会執行部、ビューティー時任と」
「ラブリー久保田でーす」
「しっ執行部っ!!」
青ざめた大塚を置いて逃げようとしていた仲間らを久保田はふらりと足止めすると口端に笑みを浮かべた
「ひっ・・・、たっ煙草ぐらいっ!久保田っお前も吸ってんじゃんかぁ!!」
「うっせぇ、久保ちゃんはイんだよっ、ここでは俺らが法律!!」
「以後お見知りおきを〜」
バキバキと時任の拳が炸裂し、大塚達の悲痛な叫び声が響き渡ったのだった
「うぎゃあああ〜!ひでぇぇぇっ!!」

「ふ、やはり、あいつらは適任のようだな、橘」
「”俺らが法律”、ですか・・いささか横暴のようですが・・」
公務をこなす執行部員を影から見ていたのは他でもない松本会長と橘だった

思い返せば2か月前
『執行部って・・ナニ?』
時任は興味を持ったようで、キラキラと目を大きくさせ松本に聞いた
『この荒磯だけの特別な機関だ。生徒会本部が表だって上に立ち、指揮・運用をすれば、生徒会執行部は裏で現場を取り締まる所轄とでも言おうか。』
『んげー、なぁんか、下っ端ぽくねぇか?』
『そうでもない。執行部は校規によって守られている特別な機関だからな。』
時任が眉をしかめると松本は口元に笑みを浮かべた
『校規?なんだそれ?』
『そーねぇ、自由に動けるってのも、あるイミ、生徒会本部より優待かもねぇ』
久保田の緊張感のない言葉は輪状になった煙と一緒に穏やかに吐き出された
すると松本がにやりと笑いよく通る張りのある声で口を開いた
『私立荒磯高等学校校則第5条 本校生徒会に在籍する執行部とは、
知力・体力・正義心に置いて秀でた在校生徒に与えられる任務の称号であり 
その証したる執行部腕章を所持する者は、校内の治安を守りぬく義務を負うと共に、
何人たりとも彼らの行動を犯してはならない。』
『っすっげぇな、それって正義の味方ってことじゃんか!!なぁくぼちゃん!!』
キラキラと瞳を輝かせた時任に久保田は諦めたように小さく笑ったのだった

「・・で、時任君がやる気を出してくれたというわけですか」
「ああ、はじめは生徒会本部へと思ったが、執行部向きだろう。誠人はともかく時任君は正義感が強い、その上二人とも運動神経はずば抜けている。だが誠人は中学でも嫌々公務をこなしていたからな、頼んでも辞退されるかと思っていたが・・」
「ふふ、辞退なんて、条件だったんですから彼は引き受けざるを得なかったでしょう?」
「まぁ、時任君さえやる気になれば、誠人も喜んで引き受けてくれると思ったからな。」
「・・また随分と久保田君を気にかけてらっしゃるんですね」
「・・・た、橘、だから変な意味はないと・・・そうつっかかるな」
優しげに微笑まれた橘の流し目が少し黒く光ったのを感じ、慌てて話題を変える
「し、しかしあれはどうにかならんのか」
「あれって・・、何がです?」
その視線の先には先ほどの二人・・
そこら一帯を淡い色で包み込むような二人がいる。それを見て橘もほぅ、と意味深に微笑んだのだった

「あー運動したら、あちぃな」
「夏前といえど暖かいもんねぇ」
「あーっ、俺様、なんか飲みたい、くぼちゃーん」
「はいはい、まったく、わがままなお姫様だね」
「俺は姫じゃねぇっ、男なの!」
「はいはい、王子様」
暑いと言うわりには妙に近寄る怪しい二人に、周囲のクラスメイト達は視線が集まっている
二人はそれを気にすることなく、時任がちょっと睨んだような潤む瞳で久保田を上目遣いに見上げた
「だって・・、あつくて・・、俺もう我慢できねぇんだもん・・」
そう言う時任に周囲の男らは胸をドキリとさせた
・・かわいい
「はいはい。・・じゃあ、時任、何が欲しいか言ってごらん?」
「・・わかってんだろ?」
「だめ、ちゃんと言わないと・・、あげないよ?」
「くぼちゃん・・、いじわる、いつものやつだよっ・・」
・・い、いつものやつって一体・・
ピンクな色に当てられた周囲の男達の頭の中で様々な妄想が始まる中、そのあまりの刺激の強さに誰かあいつらを止めてくれと、誰もが心の中で叫んでいた
「はい、時任、どーぞ」
「ぷはーっ!やっぱ汗かいたあとはこれこれ、コーラだよな!!」
”コーラかよ!!”周囲の生徒らが胸の中で一斉につっこみを入れたのだった

「ふ、あの誠人が・・、人間変わるものだな」
「ふふ、仲がよろしいようですね。妬けます?」
「た、橘、いい加減つっかかるのはよせ」
「冗談ですよ。貴方には私がいますからね?・・隆久」
「ばっ・・ここでは、会長と呼べっ・・」


堂々とした有害カップルと
影ながらの有害カップル
どちらにしろハタから見れば、ばかっぷる二人組

それにきづいていないのは本人たちのみで
彼らに制裁を与えれるだろう人物が転校してくるのは、もう少しさきのことだ


荒磯はコメディっぽいのが好きです^^ なんとか完結ということで・・;・・すみません;

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