「あっ・・、く、久保ちゃんっ・・」
「好きだよ、時任」
戸惑う時任を、刺激しすぎないように抱きしめて。何度となく囁きながら濡れた唇に再び唇を重ねる。
舌を絡めて深く口づけると、次第に時任の舌が応えだした。初めて触れた唇が思いの外甘くて、頭の芯が、痺れたようにジンジンと熱を灯す。
あー・・、ヤバいかも。
素直な自分の体の反応に、どうにも止まりそうにない。
頭が真っ白になったようにぼーっとして、もしかしてこれは夢なんじゃないかと思えてくる。
「久保ちゃ・・、シテ・・」
・・・・うん。もう、夢でもいいや。
あまりにも積極的な、腰にくる殺し文句に、なにもかもどーでもよくなってくる。まさか時任の口から、そんなお誘いを聞けるなんて。
紅潮した頬、甘い吐息、潤んだ瞳。時任のすべてが、どうしようもなく俺を煽る。
服の裾から手を入れて、熱い身体を辿ると、ビクリと時任の身体が震えて、余計に熱を持った。
――――もう、とまんない・・。
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・あれ。
目を開けて飛び込んできた視界に、一瞬、ワケが分からなくなった。
目の前には確かにさっきまでこの手に触れていた時任の姿がある。
・・のだけれど。閉じられた長い睫と、規則的な寝息。
俺の腕の中で、向かい合って眠る時任の姿は、いつもと変わらぬ朝の風景。
・・・えーっと。つまり、あれって、・・・夢?
一瞬の思考の後、半ば絶望的な事実に、大きくため息をついていた。
そりゃあそうよね。あんなに時任が素直に自分を受け入れてくれるはずもない。
あーんな情熱的なキスどころか、軽く触れあったことすらないのだから。
同時にほっとしている自分に苦笑する。
あそこまでいっちゃったら、もー止まらないとこだったから。夢でよかったなんて、思ったりして。そんな強がりも我ながら痛々しくて笑える。
欲しくて欲しくて、こんな夢にまで見てしまうほど手に入れたいモノなんて、生まれて初めてだった。
だけどそれは、一番欲しくて、一番手に入らないモノ。
欲しいものなんて、ほんとになかったから、どうやって手に入れたらいいのか分からないだけなのかもしれない。
大事に思えば思うほど、臆病になっていく自分。もし嫌われたら・・。傍にいることを拒否されたら・・。そんな俺に似合いもしない繊細さを露呈しながら、それを理由に俺はここから一歩も動けずにいる。先にも行けず、かといって離れることもできず。
相方という立場の心地よさを大事にしながらも、様々な鬱憤が胸に渦巻いて、今日みたいな夢を見たりするのだ。
・・・・ただの欲求不満ってやつ?
そう考えながら、もう一つ自嘲すべき事実に大きくため息を吐きたくなった。
どーしようかなぁ。コレ。
そりゃ、あーんな濃い夢見ちゃあね。俺も一応健康的な一般男子だし。
言い訳じみてみても、身体は素直で。
つまり、下半身に集中した熱が、完全に昂っていて・・、どうやら収まりそうもないらしい。
時任が知ったらどう思うだろうか。自分がそういうことを夢見て、こんな状態になってるって知ったら・・。
驚くだろうなぁ。それで、恥ずかしがるだろうか。それとも嫌悪感から口もきいてくれなくなるだろうか。
悪くすれば、一緒に暮らすことさえ出来なくなるかもしれない。
「・・それはイヤだなぁ」
「・・・・なにがイヤなんだよ」
ぽろりと出た呟きに、思いがけず応えが返ってきた。目の前にあった瞳がしっかりと開いてこちらを見つめている。
「わぁ、びっくりした。起きてたの、お前」
「ああ、さっきなんでか目が覚めた」
珍しくそんな気配にも気づかなかった自分に驚く。
そんなに考え込むほど切羽詰まっていたのだろうか。
「つーか、さみぃよ久保ちゃ・・、
・・・・・え・・?」
そうそう、お前寒いからってよくこうやって人の脚の間に冷たい足をくっつけたりするんだよね〜。
少し離れていた隙間を埋めるようにすり寄ってきた時任の身体が突然、腕の中でぴたりと固まった。
あー・・・・・。
その密着で思い切り身体が触れて・・。
硬直していた時任が確かめるようにぴらりと毛布をめくって・・、足の方に目をやった。
「「・・・・・・・・」」
みるみるうちにその顔が赤く染まるのを眺めながら、自然と笑みが浮かぶ。
あーあ、面白いぐらい反応してくれちゃって・・。
「・・ただの朝勃ちだから、気にしないで」
のんびりと言ってやると、戸惑いの浮かぶ大きな瞳が見上げてきた。
「あ、朝勃ちって・・っ!・・く、久保ちゃんもそんなことあんのか?」
「男のコだからねぇ・・。イヤラしいコトする夢でも見ちゃったら、やっぱこうなるっしょ」
「い、イヤらしい夢・・、久保ちゃんが?」
「まぁ、たまにはね」
「・・・・・」
その相手がお前だってことは絶対に口にできないけれど。
時任は再び絶句して、固まっている。眠気も吹っ飛ぶほど、よほど俺のこの状態が珍しいらしい。
そういや時任とこーゆーハナシしたことなかったっけ。高校生の健康な男子ならおかしなことじゃないと思うけど、時任はウブで奥手だからなぁ。
そういえば、時任は”そーゆーコト”、一人でもしたことないのだろうか。
考えれば考えるほど、この熱は収まりそうもないなぁなんて思っていると、時任がガバッと起きあがって、キッと眉をしかめて見下ろしてきた。
「誰だよ・・・?」
「・・・誰?誰って何が?」
「――夢の相手っ!!相手は誰だって聞いてんの!!」
「・・・・・・」
なんでそこ聞いてくるかな。こんなとこ気づかれちゃった上に、一番触れちゃいけないトコ聞いてくるお前って、ある意味鋭いのかも。
・・ってゆーか、「お前」って言ったらどうすんのよ。
「俺の知ってる子かっ?もしかしてウチのクラスの子とかじゃねぇだろうな!?」
「・・・・・・・」
「そうなのか!?クラスの女・・、・・・・まさか、桂木とかじゃねぇだろうなっ!!」
「・・・どーしてそうなるかな・・」
そしてなんでお前そんなに怒ってんの?
俺が女の子とそーゆー願望があったら、お前はイヤなわけ?
・・・・じゃあお前が代わりにサセてくれる?・・なーんて。
時任のそれは、単なる相方独占欲・・。・・・それとも。
「・・はぁ・・、もう一眠りするわ、俺」
ごまかすのが面倒になって、とりあえず熱を収めるためにももう一度ベッドに沈み込む。
「は?ちょっと待てよ久保ちゃんっ!まだハナシは終わってねぇぞ!起きろっ、くーぼーちゃん!」
「・・・・・・・・」
眠らせないとばかりに、肩を揺さぶってくる時任に、ちょっと悪戯心が芽生えた。
俺はむくりと身体を起こして、時任と向かい合い、そしてじっとその瞳を見つめる。
「な、なんだよ、久保ちゃん」
「・・お前」
「は?」
意味が分からないといった表情の時任に、はっきりと言った。
「夢の相手は、お前・・」
「!!?」
こぼれ落ちそうなくらい大きく開いた瞳を見ると、”驚愕”って感じ。それから一瞬後には、さっきよりも派手に耳まで真っ赤になって・・。
って、あれ・・。その反応は・・。
真っ赤なカオで、口をぱくぱくさせながら何度も瞬きする睫に、自然と口元が緩んでくる。
「く、く、く、久保ちゃんっ、そ、それって・」
悪い反応ではないことにホッとしながらも、やはり付け加えることにした。
「お前――の、知ってる子じゃなくて。多分・・芸能人だったかも。あんま覚えてないけど、グラビアに載ってた子かな」
「〜〜〜〜っ!!!」
「あれ、どったの?カオ真っ赤だけど、大丈夫?」
「ま、ま、ま、紛らわしい言い方すんな―――――っ!!!」
ま、こんなもんでしょ。そこまで腹くくるには当分かかりそう。
それに、どこかホッとしたようなカオで、怒られても正直複雑なんですけど。
枕やら何やら投げつけてくる時任に背を向けて、再び毛布をかぶった。
「おやすみ〜」
「結局寝るのかよっ!」
「だって、まだ続きが見れるかもしれないじゃない?」
「はぁ?」
「さっきは途中で目が覚めちゃったからさ、夢の中だけでも、最後までイキたいなぁと」
「さ、最後までって・・」
「イクまで」
「―――っ!ヘッ、変態っ!久保ちゃん最悪だぁぁ!!」
「こらこら、やめなさいって・・」
さらに不機嫌になった時任はバシバシと枕をぶつけてくる。俺はとりあえず応戦しながらも、時任のその不機嫌な理由は、―――まだ聞かないことにした。
今はまだ夢の途中。
けれどいつかは―――。