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運命
『久保ちゃんの神様って何なんだよ?』
神様、カミサマ・・、
宇宙、万物を創造したと言われる人知を超越した存在。
時任はたまにこんなふうに、俺の虚をついたような質問をする。
『・・さぁ?』
曖昧にごまかそうとして出た言葉はそんなもので・・。
自分が口にしたこと程信じられないものはないと悲観したのか。それともただ単に、大事なものはそっと箱にしまっておきたいようなそんな気分だったのか。
ただ・・、俺にとってのカミサマは随分と人間的だけれど、『唯一の絶対的な存在』という意味合いでなら、たぶんそうなんだろうと、俺はぼんやり思った。
そしてそうなら、ねぇ、カミサマ。
俺はどうしたらいいのかな?
俺はどこまで、お前を求めればいい・・?
お前に出会ったことが全て運命だというのなら、俺ごときにそれを変える力はないのだから。
深夜の裏路地で身を隠していた俺たちは静かに荒い息を整えていた。追われ続けてそろそろ小一時間といったところか。
先日ちょっかいを出してきた男らを始末したのがまずかったのか、相手は俺たちを殺そうと躍起になっているらしい。
十人ほどは仕留めたが、どうやら相手は大人数らしく殺ってもキリがない。銃を持ち歩いて正解だったけど、弾の予備をもっと持ってくるんだったな。
そうぼやきながら相手に照準を定めて引き金を引くが、当たらず掠めていった。
あーあ、貴重なタマなのに。
どうやらさっき利き腕を撃たれたせいで、狙いがままならないらしい。
「久保ちゃん、血がっ!」
止血した腕から血がにじみ出す様子を見て時任が不安に顔を歪めた。
「平気。すぐ止まるよ」
あーあ、そんな悲しげなカオして・・。大丈夫だから、と安心させるように笑って左手に銃を構えた。
利き腕じゃなくとも問題ない。
だけど、次々に敵を減らしながら、あと数人といったところでついに弾が切れた。
敵の目をかいくぐり、なんとか裏路地の物陰に走ったが、武器のない俺らは絶体絶命といったところだ。
「ハァッ、久保ちゃん、大丈夫か?」
「・・ん。時任は?」
「楽勝っ」
荒い息を吐きながら笑顔を見せるが、現状が分からない時任ではない。
武器もなければ逃げ場もない。
時任はカオを歪めて小さく舌打ちし、あたりを警戒していた。
俺らにはいくらか選択の余地がある。
さて、どうしようか。ねぇ、カミサマ?
―――こういうときはなぜか無性に煙草が欲しくなる。
誰だったか、自殺者は死ぬ前に煙草を吸うコトが多いって言ってたことを思いだした。吸いすぎで精神が不安定になるのだとか、吸うことで精神を安定させるためだとか。
俺はなぜ煙草が欲しいのだろう。精神を安定させるためだというなら、・・・煙草よりも欲しいモノがある。
そう考えながら隣をみると、時任が俺のカオをのぞき込んできた。
「久保ちゃん、カオ青いな。血、止まってないんじゃねぇか?」
「そ?どうりで眠いなぁと」
右腕はとっくに痛覚を失って使い物にならない上に、出血が酷いせいか視界がぼやけてきている。
ああ、ホント結構やばいかも・・。
「寝るなよ。こっから走って帰るんだから」
当然というように、まっすぐに見つめて言う時任に、俺はしばし言葉を失った。
そしてそれと同時に自然と口元が綻んでいく。
―――カミサマ、どうやら選択は簡単についていたようです。
「・・ねぇ、時任。ちょっとこっち来て」
「・・?なんっ・・」
俺を隠すように背を向けて様子をうかがっていた時任を無理矢理引き寄せて抱きしめると、ふんわりと時任の匂いがした。その匂いに引き寄せられるように薄く開いた唇を塞ぎ、舌を滑り込ませる。
「んんッ・・!ふっ・・」
ああ、やっぱりこっちのがいいや。
俺にとっては何よりも落ち着く。
けれどこれ以上続けては落ち着くどころではないので、満足したところでようやく唇を離すと、時任は紅潮したカオで荒く息をついていた。
「な、なにすんだよ、こんなときにっ・・」
「んー、こんなときだからかな?」
「久保ちゃん・・」
目を大きくした時任に、俺は微笑んで言った。
「だからさ時任、早く帰って続き、しよ?」
「っ・・ばっ、んだよそれ!ヘンタイ!年中発情期っ!」
毒づきながら耳まで赤く染める時任が可愛くてしょうがない。今すぐにでも押し倒したい衝動を覚えながら俺は重い腰をあげた。
「じゃあ、帰りますか」
「もちろん、そのつもりだっつーの」
武器が無ければ、奪えばいい。
逃げ道がなければ、来た道を辿ればいい。
帰りたければ、帰ればいい。
こうやって運命はいつも、お前の一言ですぐに行く先を変えるから、面白いのかもしれない。