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愛のカタチ【2】
―――久保田side
出会って20年ということは、・・卒業して17年か。
時任と、イワユル恋人同士というものになってから、もうそんなに時が経つのか・・・。
同窓会の知らせなのだと、桂木ちゃんから連絡をもらって、ふとそんなことを考えていた。
過ぎる時の中で徐々に薄れていた記憶は、突然舞い込んだ過去の1ピースから、どんどんと芋蔓式に記憶を蘇らせてくれる。
ああ、そうだ。
あれはまだ、俺たちが高校生の頃の、青い記憶。
相方で、親友で一番近い存在だった時任に、俺は恋というものをしていた。
あのとき、卒業式のあの日。
それを曝け出すまでは、本当にただの、トモダチだったんだ。
『ずっと傍にいてよ』
あの一言を俺がどんな想いで口にしたのか、お前は知らないだろうね。
卒業したら出ていくなんて、いきなり言われた俺の衝撃ったら、なかったんだから。
自分の力で立ちたいっていう時任の気持ちが分からないでもなくて、何でもないように了承したけれど、結局、いざとなるとその手を離すことなんて出来やしなくて。
不安げに揺れる瞳をどうにか俺の方へ引き寄せたくて、大丈夫だよって、甘い言葉で唆した。
社会人になって、世間の荒波というやつに揉まれても、時任は何も変わらなかった。
いつまでも、出会った時のまま、何があっても前を向いていく。
清々しいほどに凛とした姿。
どれだけ一緒にいても、飽きるどころか、想いはどんどん深くなっていくような気がする。
ある意味病的なほどに。
中身もさることながら、時任のカタチも相まってさらに俺を夢中にさせるのだから、困ったものだ。
形のよい唇から覗く、赤く甘い舌も。
真っ直ぐに澄んだ瞳も、潤んで俺を求める熱い眼差しも。
触れると吸いつくようなしっとりとした肌も、俺だけが知る艶やかな痴態も。
お前をかたどる全てに、いつまでも惹かれてやまない。
・・・・・・・・だけど。
―――お前は、どうなんだろう。
あのとき、お前を捕まえてしまったこと、後悔なんてするわけもないけれど、お前はそれで本当によかったのだろうか。
だってお前は、俺と違って、俺に邪な想いなんてなかったわけだし。
半ば強引にお前を奪ってしまったのは、俺の欲求なわけで。
実はお前には、俺さえいなければ、もっと別の未来があったんじゃないかと、考えずにはいられない。
・・・だからって今更、放してなんてやれないんだけど。
何かに想いを馳せるように、どこかを見ている時任の姿が、無性に怖くて体に触れた。引き留めるように、俺に繋ぎ止めるかのように、抱き寄せた。
「時任、好きだよ・・」
背中、耳、脇腹、時任の弱いところを丹念に舌を這わせれば、刺激に慣れた体は期待に体を震わせながら、夢中に俺を求めてくれる。
余計なこと考えないで、俺だけを感じて。
「んっ、ああっ、く、ぼちゃんッ・・!」
変わらない、時任だけが呼ぶ俺の名前。
好きだって言って。
できればお前から、”これからも傍にいる”って、言ってくれないかな。
ねぇ、時任。
俺は、どうしたらいい?
これからの長い人生を、お前と共に歩いていく為に、俺は何をしてあげれるんだろうか・・・・。
「―――時任。愛してる・・」
不安げな瞳に映る自分が、ひどく情けなく思えた。
*********************
同窓会当日
時任は、黒い細身のスラックスに白シャツに細い同色のタイとジャケットという、フォーマルな装い。
いつもジーンズばかり履いている時任にしては珍しいが、最近オープンしたというデザイナーズホテルの宴会場を貸し切って行われるらしく、桂木ちゃんのご指定どおりなるべく小奇麗な格好をしないといけないらしい。
服装に基本無頓着らしい俺も、時任に着飾られるまま似たような格好だけど、タイはなし。
だって苦しいじゃない、あれ。
スーツを着るような仕事をしていないから、慣れていないし、堅苦しいのは苦手。
桂木ちゃんに、居酒屋がいいって言えばよかったなぁ。
それでも夕方6時からの遅いスタートは俺たちには有難かった。ネットビジネス、株なんかにも手をつけている俺は、昼夜関係なくパソコンに向かうため就寝時間も不規則で。
対して、朝から青果市場に手伝いに出ている時任は、昼過ぎに帰ってきては仮眠をとるという状態。
朝寝坊ばかりしていた学生のころからは考えられないほど早起きも、ここ十年近くは続いていて、威勢のいいオジサン等と対等に渡り合っているという。
卒業した後、働きに出たいという時任が心配で、なんとか拘束時間の少ない職場を探したころが懐かしい。
人は自然と年を取るにとれ、確実に大人になるんだなぁ。
・・・大人というか、もういいオッサンだけど。
洗面所の鏡の前、髪にワックスをのばす時任の横でいつもの伸び放題の髪をくくっていると、鏡越しに時任が眉を寄せていた。
「久保ちゃん、もしかして、そのままで行く気か?」
「うん、そうだけど。どこか変?」
「まぁ髪はいいとして、その無精髭は剃ってけよ」
「あー、やっぱり?めんどいなぁ・・。時任はいいなぁ、剃らなくとも薄くて」
「うるせ!俺には髭なんて似合わねぇっての!」
自称「髭の似合わない美少年」だった時任は、大人になってもつるつるの肌だった。生えても産毛みたいなもんで、1週間伸ばしても気にならない。はじめはそれがコンプレックスだったようけど、人間諦めるもんだよね。
四十前にして「永遠の美少年だ」と豪語するところは、やっぱり時任だ。
鏡越しにマジマジと見つめてみる。
うん、やっぱり同じ年とは思えない。
顔つきや体つきは、昔よりすこし角張って男らしさもあるけれど、相変わらずしなやかな体躯、目を奪われる印象的な瞳。通った鼻に、カタチの良い唇。
・・・・やっぱ、キレイだわ。
マジマジと至近距離から見つめられて、時任が居心地悪そうに眉を寄せた。
「・・なんだよ?」
「いやいや。なんだか、やっぱお前って男前だなぁと思って」
「は・・?な、なに言ってんだ久保ちゃん。今更だろ」
「うん。そのいっぺんの謙虚さもないところも男前」
「当然だろ。ビューティー時任は健在だぜ。今や渋みも加わった美青年だけどな」
「わぁ懐かしい。んじゃ俺もラブリー久保田ということで・・」
「・・・あの頃からすでにラブリーさは欠片もなかったと思うけどな」
「ひどいなぁ」
くつくつと笑いながら時任はその眼を柔らかくした。
昔にはない、少しだけ大人びた表情にトクリと胸が鳴る。
「ほら、久保ちゃん。こっち」
「なに、剃ってくれるの?」
「特別な」
そう言うやいなや、ぐいっと顎を掴まれた。口の周りに専用のクリームを塗りたぐられて、T字のカミソリをあてられる。
大きな瞳に食い入るように見つめられ、ジョリジョリと音を立てながら肌に刃が滑っていく。
T字のカミソリだから誤って切れることはないだろうに、時任の目は真剣そのもの。大ざっぱな性格とは裏腹に剃り残しがないように隅から丁寧に作業を進めている。
じっとその目を見つめていると時任が気づいて「痛いか?」と聞いてきた。
「痛くないよ、むしろ気持ちイイ」
「気持ちイイって、久保ちゃんが言うとエロ・・」
「だっていいじゃない。こう、時任に全て委ねてるって感じが新鮮で堪らないよね」
「・・なんだそりゃ」
呆れたような胡乱げな眼差し。
いいなぁその顔。でもどうせならもっと蔑んだ顔で見てほしいなぁ。そう言うと、さらに呆れられた。
そんな顔もイイなんて。・・オジサンになるとMっ気、増すのかな?
続きます・・・