―――時任side
久保ちゃんに勧められるまま受け取った箱は、てのひらサイズ。慣れないリボンを解きながら、いささか緊張しながらそれを開封していく。
・・・なんなんだ、いったい?
この変な緊張感と、久保ちゃんの視線。
なんだか分からないけれど、きっと久保ちゃんも緊張してる。
顔なんていつもどおりのほほーんとしてるけど、俺には分かる。さっきから不安げな目で俺を見てること、本人は気づいているのだろうか。
・・・あの久保ちゃんが緊迫するような物。
そう考えるだけでこっちまでドキドキしてくる。
マジで何が入ってるのか・・・。
俺は生唾を飲み込みながら、意を決して箱を開けた。
「・・・・へ?」
そこには、あまり俺の見慣れないものがあった。
・・・シルバーの、指輪・・・?
見たところ、何の変哲もない、シンプルな指輪・・、に見えるけれども・・・。
な・・・・
なんなんだ。これは・・。
「久保ちゃん、これ・・・」
「うん、プレゼント。・・やっぱり、気に入らない?」
そんな言葉に、相変わらず変なとこでマイナス思考だなと苦笑しながら「いや、そう言う問題じゃなくて」とすかさず付け加える。
問題は、なんでこれをくれるのかということで・・。
「・・・なんで、指輪・・」
柄じゃねぇ・・と呟くと、久保ちゃんはそうだよねと、楽しそうに笑う。
「一応、一番分かりやすいかな、と」
「分かりやすいってなにが?」
「ほら、誓いの証っていうの?婚約や結婚につきものでしょ」
「け、っこん・・て、誓いって・・・なんの話だよ」
「うーん、一言で言うと・・」
久保ちゃんは考えるようにしばし顎に手を当てて、「あぁ」と何かを思いついたように続けた。
「” 愛のカタチ
”、みたいな?」
「・・・・・あ・・、い?」
それを聞いた途端、かーっと顔が熱くなった。
「な、なに涼しい顔して、コッパズカシイこと言ってんだ、久保ちゃん・・」
「あはは、そうだよねぇ。でもそれしか思いつかなかったから」
動揺する俺とは正反対に、久保ちゃんはのんびりと煙草をふかす。
愛のカタチって、つまり久保ちゃんが言うように、け、結婚指輪みたいなもんってことか?
で、でも男同士で指輪って、それっていったいどうなんだ・・?
そんなことを考えていると、久保ちゃんがふっと笑って言った。
「想ってるだけでも良かったんだけど、いい区切りだし、一度くらいカタチにしてみるのもいいかなぁってね。指輪だったのは、分かりやすいしあげやすかったから。他のものでも良かったんだけどね?――首輪とか」
「く、首輪って、ペットじゃねーんだから・・」
「そ?赤い首輪とか時任似合いそうだけど。鈴つけたりして」
「・・・俺は猫じゃねー」
まさか久保ちゃんがそんなことを考えていたとは思いも寄らなかった。
「ま、記念品だと思って受け取ってよ。ね?」
久保ちゃんの口調はいつものようにふわふわと軽い。
真剣な言葉なんて、本当に稀にしか聞けない。
だから俺は五感全部を使って久保ちゃんの真意を見抜く。
そんなことにももう慣れちまって、久保ちゃんに関しての雑学は半端ないけどな。
「・・時任」
そんなことを考えていたら、唐突に久保ちゃんが真面目な目をした。
「ん・・?」
「―――これからもずっと、俺の傍にいてくれないかな?」
「!!」
・・・・やられた。
いつまでも変わらないわけじゃないんだ。
はっきりと言葉にされた想いに、胸の奥深くが激しく音を立てる。
17年前と言葉は同じでも、その内は違う―――。
「・・・・いてやるよ」
『 ” ずっと ”って、どんくらい―――?』
あのころ聞きたくて聞けなかった言葉は、もう必要のない気がした。
想いがカタチになった、ただそれだけ。
だけどそれだけのことが、こんなにも、温かい。
目に見える幸せってのも、いいのかもしれない。
時が静かに流れて少しずつ変わっていくとしても、目に見えるものが確かにこの想いを思い知らせてくれる。
これからも出来ればずっと、そんな風に想い合っていられたら・・・。