ピンポーン、ピンポーン
クーラーをつけっぱなしにして寝たせいでキンキンに冷えてしまっている寝室で、俺は布団にくるまりながらも、安眠妨害な音に起こされつつあった。
「うー、・・誰だよこんな朝っぱらから・・久保ちゃん〜」
「・・ほんと、しつこい訪問者だねぇ、はいはーい・・」
何度もインターホンを鳴らす訪問者に呆れながら久保ちゃんがベッドを降りて玄関へと向かう。
俺は目も開けなかったけど、触れていた温もりが離れていく気配でそれが分かった。
玄関を開ける音の後に聞こえた声で、来訪客が葛西のおっちゃんだと分かった俺は、また寝に入ろうと布団に丸まる。
夕べは明け方までゲームしながら久保ちゃんの帰りを待ってたせいか、なんとなしに聞こえる久保ちゃんたちの話し声も眠気を誘うものにしかならない。
「珍しいね、こんな朝早くに何事?」
「早いったって、もう昼前だぞ。相変わらず不規則だな」
「それはお互い様っしょ?葛西刑事」
久保ちゃんが含んだ笑みを浮かべたのが、遠くから聞いてても分かった。
「まぁそうだな。それよりおまえに渡すものがあってな」
「・・・何コレ?」
「プレゼントだよ。お前、今日誕生日だろーが」
呆れたように言うおっちゃんの顔を思い浮かべながら聞いていた俺は、思わぬ話の展開に、パチリと目を開いた。
・・・今、なんつった?
「あ・・、そうだっけ?」
「やっぱ忘れてたな。お前まだ忘れるトシじゃねーだろ。俺みてぇに老けるぞ」
「ご忠告ドーモ」
いや、久保ちゃんはとっくに老けてる・・じゃあなくて。
おっちゃん、誕生日って言ったよな?
今日が久保ちゃんの誕生日なのか?
ウソ、なにそれ、初耳だっつーの。
てゆーか、今日は何月何日だ?
8月なのは確かだったけど・・
そう考えはじめた俺は眠気もさっぱり吹っ飛んでて。
「じゃあ時坊によろしくな」
「葛西さん、ありがとね」
「ああ」
久保ちゃんがおっちゃんにもらったらしい何かを片手に寝室に戻ってきたころには、目もすっかり冴えてベッドに起きあがっていた。
「時任、起こしちゃったね」
久保ちゃんは微笑みながら「おはよう」と言って、俺の隣に腰掛けるとタバコに手を伸ばす。
「・・おっちゃん、何くれたの?」
「んー、洋服みたい。すぐ汚しちゃうから洗濯大変でしょ。だから汚れが目立たないように黒いシャツだってさ。葛西さんらしいやね」
紙袋に入ったそれをとりだして、久保ちゃんが小さく笑う。
「ふーん。誕生日だからか?」
「そうみたいね。祝ってもらうよーなトシじゃないけど。・・約束したからね」
「約束?」
横目で見た久保ちゃんの横顔は、煙を吐き出しながら、どこか遠くを見るような目をしていた。
「そ。葛西さんがね。子供の頃から誕生日なんて気にしたことなかった俺に、”これからは毎年俺が祝ってやる”って言ってくれたってわけ。葛西さんにとっちゃ俺は今でも約束守ってあげてる”子供”なんだろうね」
久保ちゃんはそう言って、もらったプレゼントをしげしげと眺めていた。表情は変わらずともきっと嬉しかったんだろうと思う。
「・・そっか」
誕生日なんて存在、すっかり忘れてた。
そんなもんがあったんだな。久保ちゃんにも・・多分俺にも。
それってきっと祝われたら嬉しいもんだろうし、俺だって久保ちゃんに祝ってやりたい。
だって誕生日ってさ、生まれてきたことを祝う日だろ。
俺は自分のを知らねぇ分、久保ちゃんだけでも、産まれてきてくれたことを”ありがとう”って伝えたい。
そう思った。
・・・けど、俺に何ができるだろう?
住むところも食べるモンも、何をするにも久保ちゃんに甘えている俺。
久保ちゃんは俺が頼まなくとも金を渡そうとするけど、そのもらった金でプレゼントを買うのはなんか違う気がする。
じゃあ、金をかけずに何ができる・・?
――何か、手作り・・・。って俺に何が作れんだよ。
俺がひたすら考えこんでいるうちに、久保ちゃんの誕生日はどんどん過ぎていく。朝食兼昼食を食べ終えて、夕食に3日目のカレーをかけこんで。
その日久保ちゃんはオフで、一日中家にいたもんだから、俺は結局何も行動を起こせず、いつものように過ごしてしまっていた。
そしていよいよ時計を見ると、明日まであと30分といったところ。
せっぱ詰まった俺は、久保ちゃんに風呂に入れとせかして、その間こっそり滝さんに電話をかけることにした。
『誕生日の祝い方を教えてくれって?・・珍しくトッキーからの電話かと思えば・・。またなんで?』
「久保ちゃんの誕生日なんだよ。俺金もねぇし。人の誕生日の祝い方なんてしらねぇけど、なんかしてやりてぇの」
『ふーん、なるほどねぇ。何も用意できないなら、何かくぼっちのためにしてあげたらいいんじゃない?』
「なにか?・・・か、肩たたき、とか?」
『ハハ!”肩たたき券”いいねぇ、ガキっぽくて』
「じゃ、じゃあ何するってんだよっ」
『うーん・・・・。じゃあ、何もできないなら、トッキーをあげたら?』
「・・・・・・なんだそれ?俺なんかやれるわけねーだろ」
『そ?それが一番くぼっちが喜ぶと思ったんだけどな〜』
「・・・・・・」
電話の向こうで小さく笑い声が聞こえて、からかわれてると思った俺は「わかった、もーいー」と電話を切った。
おれを、あげる?・・どーいうこった?
久保ちゃんは久保ちゃんだし、俺は俺。それをどうやってあげるってんだ?
うー、滝さんに聞いたのが間違いか・・・。
”それが一番くぼっちが喜ぶと思ったんだけど”
「・・・・・・・」