はじまりの合図【番外編】―――久保田Side
生徒会という組織に所属してから早一ヶ月。俺と時任は執行部のメンバーとして、日々の公務に当たっている。公務とはいっても、やってる事は中学時代と何ら変わりはなく、放課後の見回りや本部からの小間使い程度のことばかり。
ただ、中学時代とは明らかに異なるスタンスで立っている自分がいるのは、相方が”時任だから”ということだろうか。
面
倒ごとが苦手な俺とは違って、時任はその華奢な体のどこにそんなエネルギーが詰まっているのか、日々元気いっぱいに乱闘を繰り広げている。
元々他人のもめ
事に首を突っ込むタチであるから、正義という大義名分で思い切り暴れることもできて、時任にとっては願ったり叶ったりなのだろう。
まぁつまり、時任を選んだ本部の狐と狸の目の付け所は間違っては居なかったというわけだ。そしてその隣で時任のフォローとばかりに立ち回っている俺も、奴らの思惑通り。
ほくそ笑む松本を思えば面白くはないが、自ら奴らの思惑に乗ってしまっているのだから仕方がない。
元々俺にとって学校というところは無意味な場所だった。
最低限生きるための金を稼ぐために、夜の街に通うことの方が俺にとっては日常で、同世代という幼い子供達と集団行動というのは、どうにも性に合わなかった。
それがどういうわけか、時任とつるむようになってからは毎朝意味もなく学校へと向かうようになっていた。
今や放課後の活動に支障をきたさないように夜の出歩きを控えてしまっているのだから、我ながら笑っちゃうくらいの変わりようだと思う。
そうして俺は、”野良猫を飼い慣らす気分を味わっていたはずが、逆にいつの間にか手懐けられていた”、とまさしくそんな気分を味わう羽目になっている。
「久保ちゃーん、風呂あいたぞ」
ぼんやりと見るともなしに眺めていたテレビから視線を移すと、上半身裸にスエットズボンという姿で冷蔵庫から牛乳を取り出している時任の姿があった。
むき出しの肩に今日公務でこさえたばかりのすり傷が見えて、あとで消毒してやらなきゃなあとそんな親切なことを考えつつ、同時に眩しい裸体に釘付けになりながら、時任が想像もしないような邪なことを考えて目が離せなくなっていたりする。
いつものことながら、風呂上がりの時任は目の毒だ。
ほかほかと湯気をまとい、上気する頬はほんのり朱に色づいていて艶めかしい。男らしくパックごと一気のみする姿にすら見とれながら、ごくごくと動く喉仏から視線を逸らせない自分に苦笑して、ようやく重い腰を上げた。
「んじゃ、入ってきますか」
「あ、久保ちゃん。シャンプー切れそうだったぞ」
「了解ー」
つい一週間前、時任は賃貸のアパートを引き払ってうちに住み込むようになった。
うちにくる?と言い出したのは俺で、返事を渋っていたのは時任。迷惑をかけるとかなんだとか、戸惑う時任に広すぎて一人じゃ寂しいと柄にもなく懇願したのも俺。
「よーっし、やるぞっ、今日こそオールクリアしてやるっ」
「お前ね、ゲームする前にちゃんと髪乾かしなさいよ」
「わーってるって。先にここまでしてからなっ」
新作ゲームに夢中な時任は、髪から水滴を滴らせながら早速テレビの前を陣取っている。昨夜も遅くまでゲームをしていたようで、授業中にはぐっすりだった。
それでも公務を休まないところは、さすがだなぁと感心しないでもないが。
うちにはベッドが一つしかなく、何となく一緒に寝ることになるんだろうということは互いに暗黙の了解だった。
けれど時任は初日から逃げるように、「ゲームして寝るから」とかなんとか言ってソファに毛布を広げてねぐらにしてしまっている。翌日には狙ったように最新のゲームを買い込んできたから確信的としか思えない。
やっぱり避けられている、ような気がする。
思い当たることはあった。初めてうちに時任を呼んだ日のことだ。
あの日、けがを負った時任を家に連れ込んだ挙げ句、押し倒して好きに弄ぐった。
犬みたいにじゃれているだけじゃ止まらなくて、怯える時任にキスならいいと強引に了承を得て、唇がふやけるほどに貪った。
息も絶え絶えに呼吸を荒げて目を潤ませる時任を前に、好きだという言葉はするりとこぼれ落ちていて、それを聞いた時任は恥ずかしそうに顔を赤らめながらも必死に縋りついてくるもんだから、また調子に乗って何度も口付けて・・。
ピザ屋のお兄サンが邪魔してくれなかったら、そのまま暴走していただろうとは思う。
あからさまにほっとしたような顔の時任からすると、まだ心の準備とやらが必要なのだろうとも分かっている。
―――そう、分かっちゃいるのだけれど。
小さくため息を吐いて風呂に向かった。頭から熱いシャワーを浴びて、ぼんやりとした視界に流れていく水流を見やりながら、自然と目に入ってくる下肢のモノに「やっぱそうだよね?」と相づちをうちたくなる。
これはもしかしなくとも、欲求不満というやつだろう。時任の半裸くらいで、こんなに自身を熱くしてしまうのだから。
この一週間、ふとした時にキスを仕掛けることはあっても、それまで。そういう雰囲気に持って行くのは簡単でも、強引な手に出たことはなかった。
それどころ
か今や時任に手懐けられた飼い犬のように、「待て」の命令が解けるのを待っている状態だ。
同じベッドで寝るとでもなれば何かが変わるのかもしれないとどこ
かで期待して、結局は虚しく自身を慰めている日々。
その手のことにはそれなりに慣れているし淡泊だと思っていたけれど、それが相手によるのだと初めて知った。時任の前じゃ俺はただの盛りのついたガキみたいだ。
突然牙をむく自分を想像して、あながち冗談で済まないかも・・、と苦い笑みを落とした。
熱心に画面を見つめて、せわしくコントローラーを動かしている姿に、ふっと口元が緩む。
「ん――」
面倒臭がり屋の時任を見かねて、こうして髪を乾かすのが日課になりつつある。相手は限定されるだろうが何かの世話を焼くことが嫌いじゃないと初めて気づい
た。
サラサラと艶やかな黒髪を指で梳いていると、毛並みの良いペットでも世話している気分になる。ただし、このペットは犬ではない。
しっぽを振って飼い主だけに懐いてくれたらどんなにいいだろうとは思うけれど、それじゃあ時任ではない。
気持ちよさそうに目を細める時任の横顔をのぞき見しながら、ふとこの猫が興味を引きそうな話題を思い出した。
「えっ?メンバーって、執行部のか?」
「まぁ、そーねぇ」
「誰だろ。何年のヤツかな。なんか聞いたか?」
「んー、同い年みたいなこと言ってたけど」
「マジ?何組のヤツだろ。楽しみだな、久保ちゃん」
「そうかぁ?多い方が楽しいじゃん。ったく久保ちゃんって相変わらず閉鎖的だよな」
俺が閉鎖的なのは元からこと。余計な人付き合いは面倒だし、必要ないとも思っている。そこを強引に割って入ってきた人物のおかげで、それ以外の他者を余計に入れたくなくなってしまった。
・・・つまりお前にも責任があると思うんだけど?
「そーか残念だなぁ。俺はお前と二人で過ごせればそれでいいのになぁ」
困ったように言葉を探す時任にかまわず、背後からぎゅっと抱きしめて囁いた。
時任の為ではなく、臆病な自分の為に。
そして狡猾な自分は、時任が逃げないことも知っていた。俺が望むものとは別のものであっても、時任が俺を欲してくれている事実には、もうとっくに気づいてる。
「え、・・・あ、・・ちょ、」
「だめなの?」
「・・っ」
そのまま誘われるようにしっとりと唇を重ねた。ちゅっと音を立てて何度かついばみ、うっすらと開いた瞳と目を合わせた瞬間、噛みつくように深く口付ける。
滑り込ませた熱で舌を強く吸い上げると、びくりと時任の体が震えた。
上顎や頬の内側、愛撫するように動き回り好きなだけ貪ると、時任の大きな瞳がとろんと潤んでくる。ようやく解放したときには、時任は息も絶え絶えで、くたりともたれ掛かってきた。
こんなに激しくキスをしたのは一週間ぶりで、つい夢中になってしまった。
淡く色づいた肌、シャンプーの匂いとはまた違う甘い香り。
目の前の存在に意識を奪われて、くらりと視界が揺らいだ。
何が起こったのか分からず呆然としていた時任は、寝室に運ばれているという事実よりも単に抱き上げられたことが恥ずかしいのか、じたばた暴れ出す。
「危ないからじっとしてて」
「な、なんだよ、ぅわっ・・!」
我ながら余裕の無さにもビックリする。甘い唾液を奪い、与え、時任の中に自分の存在を植え付けるように動き回る。
上手く呼吸が出来ず喘いでいる唇から離れると、自然と首筋へと吸い寄せられた。しっとりとした肌に強く吸いついて、そこでも自分の存在を誇示してみせる。
ほんのりと香る汗と時任の甘い匂いにさらに熱く下肢が滾った。
「・・ココ、いいんだ?」
「ち、違・・っ、ま・・っ」
けれどそれとは裏腹に、時任の抵抗が一層強まってくるから面白くない。
「・・なに?」
それでも逃がさないように両肘をついて間近にのぞき込むと、潤んだ瞳が怒ったように見上げてきた。
「・・なんで?したくないってこと?」
「っ、違う。そーじゃなくてっ」
時任は何をするのかよく理解出来てないだろうが、こういう行為が背徳的なものであるということは分かっているはずだ。それを受け入れてもらえるまで待たなければならないのなら、何年かかるか分かったものじゃない。
・・・それならやっぱり強引にでも事を進めた方がいいんじゃない?と思考を巡らせていると、
「・・ん。腹くくったから、いい。でも、ゆ、ゆっくりな?」
不安げな顔を強気に作って、それでも真っ赤に染まる頬までは誤魔化せなくて、まっすぐにぶつかってくる視線が、じわじわと俺の中を侵食していく。
どんな時でも濁ることのないその潔さが、まさしく時任だ。
「そ、そんなのあたりめーだろ」
「あ、く、久保ちゃ・・っ」
気持ちよくさせたいと下肢に頭を埋めると、時任は驚いたように上半身を跳ねさせている。
すると順応の早いそれはすぐに堅く張りつめ、じわりと小さな苦みが舌に広がる。
柔らかく下の膨らみを揉みながら頭を上下すると、時任は思い切り背を反らせて高い声をあげた。
もっとよがらせたい。淫らに腰を振り、俺を求めさせたい。誰にも触れたことのない時任の奥深くに突き入れ、思うままに揺さぶりたい。
堅く力のはいった腹部を擦り付けるように乱れる姿もまたいいけれど、もうそれだけで満足出来そうにもなかった。
「ちょ、久保ちゃん・・?――ひっ」
今にも射精しそうに腫れたそれの根本を戒めるように力を込めると、時任が呻くような声をあげる。
やわやわと膨らみをもみしだきながら、チロチロと舌を這わせてピンク色の窄まりに吸いついた。
「・・なんで?洗ったっしょ。・・・ん、いい匂いするし」
「ばっ・・、放っ、ん・・っ」
時任は膝立ちの足をぶるぶると震わせ、腕に力が入らないのか腰を高くあげる格好でシーツに縋っていた。
快感を受け止めようと必死なのだろうが、扇情的な格好はもう誘われているようにしか思えない。
「い、痛・・いっ・・、ん、やぁ」
「嫌?・・やめてほしい?」
「や、・・・・・やめんなっ」
それでも、欲しい。
宥めるように滑らかな背中にキスを落としながら、根本まで差し込んだ指を優しくかき混ぜる。
「・・ごめん、やめれない」
「あ・・っ、う、ああ・・っ」
「・・・・ごめんね」
ゆっくりと何度も指で広げるように犯しながら、下肢のモノは中の感覚を想像して、痛いほどに張りつめていた。
だってまだ全然足りない。隣に立っていても、一緒に住んでみても。
遅咲きの欲求は次々にわき出て、後を絶たない。
「・・もう、入れてもいい・・?」
俺はどこまでお前を知れば気が済むのかな。すべてを自分のものにして、こうして泣かせてみても、その想いはとどまることを知らないのだろう。
「いい?」
痛い思いはさせたくない、怖い思いもさせたくないけれど。
手早く着衣を開くとガチガチになった自分のモノが飛び出てきて、思わず苦笑した。
やっぱり風呂場で抜いとけばよかった。ヒドく暴走してしまいそうな予感がする。
傷つけたくはないけれど、もし本気で嫌がられても止める自信は全くない。
時間も場所も何もかも訳も分からなくなって、きっともう、目の前のお前しか見えなくなる。
―――ああ、それはもう初めからだっけ。
思うさま貪りお前を揺さぶって、譫言みたいに愛してるって囁いたら、お前はどんな顔をしてくれるのだろう。
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