ふわぁ〜。と、大きなあくびを一つ。
よく晴れた日、屋上で過ごすお昼休み。食後ののどかな時間は気持ちよくてたまらない。
売店のメロンパンを食べ終えて一服しながら、ゴロリ、コンクリ―トの床に寝転がる。
遮るもののない空は広く青く、眩しくて目を細めていると、
「お前、授業中あれだけ寝てながら、昼休みまで寝る気かよ?」
隣でコ―ヒ―牛乳をすすっていた、時任の呆れたような声が降ってきた。
「うん、まぁね。昼食後の一眠りは、午後の集中力を高めてくれるからね」
こうして一緒に昼飯を食うようになったのは、最近のこと。
時任が例の噂の真相を聞いてきた、あの日の翌日だったか、いつも昼休みどこにいるのかと聞かれて案内した屋上。普段は鍵が閉まっていて立ち入り禁止とあって、ひとけのない静かな空間が気に入ったのか、それから毎日のように時任はここへやってくるようになった。
「どうせまた寝んのに、集中力なんか必要ね―だろ」
「寝るのも体力いるからねぇ」
「じじ―か!」
そんなたわいもない会話をして、ごろごろして。
午後の予鈴まで、二人だけの空間を過ごす。
ヒトの存在がこんなに邪魔にならないことなんて、あったっけ?
そんな風に考えてみても、やっぱりそんな人物は思い当たらなかった。
面倒な関わり合いを避けていたはずなのに、ごく自然に時任はすり抜けて俺の側にやってきて。
中学から付き合いのある松本のような、ある意味自分に近い人間ならまだしも、こいつのような俺とは正反対の真っ白な人間が隣にいることがすごく不思議で。
あまりに真っ白すぎて、汚したいような守りたいような、それでも自分に近づけたいような、そんな不思議な感覚。
こいつは俺にとってもしかして、とても貴重な存在なのかもしれない。
なんとなく、ぼんやりとそう思った。
コンクリ―トの床に当たる後頭部を両手で庇うようにして空をぼんやり見上げていると、うとうとと眠気が襲ってくる。
・・・枕、ほしいなぁ。
そう思って、ちらり、給水塔を背に寄りかかっていた時任に目をやって、手を伸ばした。
「な、なに?わっ・・」
突然俺に右足をひっぱられ驚き顔の時任に構わず、そのせいで両足を伸ばして座る形になった時任の細い太股を枕に、ごろりと仰向けに寝っころがった。
「ちょっ、久保ちゃんっ」
「膝、貸してくれる?」
「〜って、勝手に借りるなっ!お、俺様に膝枕してほしい女の子は、人気ラーメン店並みの行列作るほどいんだぞ!それを勝手に・・」
「はいはい。おやすみ〜」
「聞けってのっ」
時任のぼやきをスル―して、覚えのある膝枕よりも少し堅い感触に目を閉じる。
あ―、なんかキモチ―。
肉づきの少ない時任の太股は枕にしちゃ貧相だけれど、ちょうどよい高さで意外と心地よかった。
「・・・マジで寝る気だろ」
無言で目を閉じていたらそんな声が聞こえて、うっすら目を開く。
時任の視線は高い空にあって、目を合わせることなくそれに答える。
「うん、眠いしキモチいいし。・・・だめ?」
「っつ―か、もうすぐ予鈴だぞ」
「え―、もう?もう少しこうしていたいなぁ・・」
「・・・・お前、それ男に言うセリフじゃね―って」
「そ?だって本当にそう思うからさ―」
「久保ちゃんって・・」
「ん?」
少し間をおいた時任の目線が下を向いて、ようやく目が合う。
「いや、意外と久保ちゃんって、人なつっこいのな」
「なぁに、それ。俺、動物かなんか?」
「うん、いや、なんつ―か。お前ってもっと壁作ってヒトと接してるイメ―ジだったから、意外だなって」
「・・・・・・」
人なつっこいのも意外なのも、時任のほうだ。
俺様で猫のように自由気ままで、誰とでも仲良くなれるような時任。
その実、意外と気を使っていて、思わぬ核心をついてきたりする。
鋭いんだか鈍感なんだか、警戒心なんかも見え隠れするのは、俺といるからなのだろうか?
俺はむしろ逆だ。意識して壁を作ってるわけでも警戒してるわけでもなく、無意識にヒトを避けてしまってるだけ。
それがなぜか時任相手だと、ほんの少し緩んでしまっている。
なんでかな。
よく分からないけど、この距離感は嫌じゃない。いや、むしろ心地よかったりする。
・・・俺はもしかして、こいつと友達になりたいのだろうか?
そんな問いかけに、思わず目を開く。
と同時に鳴る予鈴。
「あ、時間だな。久保ちゃん、起きろ・・って、なんだ起きてんのかよ」
ヒトには絶対に触れられたくない領域がある。
俺は時任のそれを少しずつ確認しながら、こいつの内に触れる。
時任は動物的な本能で察知しているのかもしれない。だからこそ少しの警戒心を見せて、それでも少しずつ、俺の存在を許している。
「・・・ねぇ、時任。俺らってさ・・」
「?」
「――トモダチ?」
間近に見える瞳が瞬きを忘れたように、大きく開かれる。一瞬の間をおいて、時任の顔は目に見えて歪められた。
照れたようなそれを隠すような恨みがましい目で。
「そんなこと聞くかよフツ―」
「そう?俺は何事もヒトの口から聞かないと分からないからさ・・」
そう言うとさらにもう一度驚いたように目を開いて、それはすぐに満面の笑みに変わっていく。
まるで花が開くように鮮やかに、魅惑的に。
「とっくにトモダチに決まってんだろ!俺様の隣にいれて幸せだろっ!」
「・・・・・・」
分かりやすい清々しいほどの時任の表情は、表情の乏しい俺からしてみれば目まぐるしいほど様々で。
つい、見入ってしまう。
「っつ―か久保ちゃん、早くいかね―と遅れっぞ」
「・・・やっぱもう少しこうしてたいから、サボるわ」
「は!?ちょっ、お前っ、俺まで道連れにする気か?」
「うん。だって、枕がないと眠れないじゃない?」
「お前なぁ!俺様の膝枕を恋いこがれる女は山ほど・・、って話聞け――!!」
まるで、動物を飼い慣らしてる気分。
それがきっと、楽しいのかもしれない。