はじまりの合図【4】

 



久保ちゃんと仲良くなってから、最近よく、『久保田君って今彼女いるの?』と女どもに尋ねられるようになった。


そんなの知るかっ、久保ちゃんに直接聞けよ。って俺はいつもそう答える。

だって本当に彼女のことなんか知らねぇし、俺に聞くことじゃね―と思うし。


だけど、だからといって久保ちゃんに言い寄る女どもが、直接久保ちゃんに話しかけることは思えなかった。


久保ちゃんは怖がられてるわけでも、嫌われてるわけでもない。話しかければ、普通に言葉も柔らかいし、タレ目のせいか優しそうに見えるし。

だけどなんでか、人を寄せ付けないような、そんなオ―ラを纏っている気がする。

人と距離を置いてるというか、殻に閉じこもってるような、壁を作ってるような、そんな感じ。


あからさまに分かるものじゃなくとも、その距離間を無意識にみんな気づいているようで、なぜか近づきにくいのだと思う。


俺も、はじめはそうだった。・・少しだけどな。


だけど、久保ちゃんを知れば知るほど、一緒にいればいるほど、それが虚勢のような気がして。

こいつは何を考えてるんだろう。何を抱えてるんだろう。気づけばそんなことばかり気になっていた。


これまで誰かに深入りすることなんて、なかったと思う。

それでも、久保ちゃんのことは、もっと知りたいと思った。



放課後、部活に精を出す生徒はいそいそと部室に向かい、特に部活もない奴らは俺らも含め、早々と教室を後にする。

その日日直だった俺はすぐに帰れなかったけれど、久保ちゃんを待たせてたから急いで仕事を終わらせた。


「久保ちゃん、帰ろう・・・・って、まだ寝てんのかよ・・」


すっかり人気のなくなった教室に、ぽつりと一人。日誌の提出を終えた俺は久保ちゃんを迎えに来たんだけれど、帰りのHRではかろうじて開いていた目が今はしっかりと閉じられていて、机に腕を組んで本格的な寝に入っている。


ス―っと穏やかな寝息がキモチ良さそうで、起こさない方がいいのか戸惑いながら、久保ちゃんの前の席に腰掛けて寝顔をのぞき込んだ。


・・・キレ―なカオ。


いっつも細目だからぼやけてるよ―に見えるけど、ちゃんと目ぇ閉じてれば、男前に見えるってど―ゆ―ことだよ。


「意外と柔らかいんだよな・・」


堅そうに見えていた前髪にそっと触れて、感想を漏らして。艶やかな髪を指で遊びながら、一向に目を覚まさない寝顔をマジマジと見つめる。


こいつって、いつも寝てるけど、夜何してんだ?


・・・勉強とか?

そういや授業中起きてるとこ見たことねぇし、遅刻早退サボリ常習犯なくせに成績がやたらとイイけど、まさかそれはないよな。

もしそ―だったら、かなり笑えるし。

夜中に一人ガリ勉久保ちゃん。


・・・・ありえねぇ。


そんな想像に、ふっと笑いがこみ上げたときだった。

久保ちゃんの睫が揺らいで・・、


「・・・なに、にやけてんの?」

「!?」


ビクリと驚いた。いつから起きていたのか、眼鏡を外した瞳がはっきりと開いてこちらを見ていた。

それも、いつもの細目じゃなくて、ちゃんと開いた瞳。


「・・・な、なんだ起きてんのかよっ」


至近距離だからか真っ向からそんな瞳と合って、おどおどとしてしまう。

いつも目があってんのか分からないくらいの細目なくせに、こうもはっきり目が合うと緊張するっつ―か、なんか変な感じだ。


「は、はやく帰ろうぜ」

「あれ?時任、なんか顔赤くない?・・・もしかして」

「な、なんだよ・・・」

「俺の寝顔に、見惚れてたりして?」

「ぶっ、・・そ、そんなわけね―だろ!だいたい、俺様の方がずっと美少年なのに、久保ちゃんなんかに見とれたりするわけね―しっっ」

「・・・図星?」

「図星じゃね―よ!見惚れてたわけじゃなくて、ついうっかり目がいってただけだっつ―の!」

「・・・・・・」


言い終えてから、はっとしても遅かった。

な、何言ってんだ俺!

それじゃ認めてるみてぇなもんじゃんっ、アホ!!


思わず頭を抱えていると、俯いて小刻みに揺れている久保ちゃん。


「く、久保ちゃん?」

「・・ぷ、くくっ・・・」


顔を上げた久保ちゃんは、タレ目をもっと下げて笑ってた。


わ・・、こんな笑顔、初めて見るかも・・。


「・・わ、笑ってんなよっ!!」

「いや―、やっぱおまえって面白いわ」

「う、うっせ―」


こんな風に優しく笑う表情は、不意打ちで受けちまうと妙にこそばゆかったり、恥ずかしかったり。

女たちはこいつのこ―ゆ―とこに惚れたりするんだろうなと、思わず納得したりした。


・・そういや、久保ちゃん、彼女いたんだよな。・・その女とはまだ付き合ってるんだろうか?


ふと思い浮かんだのは、先日の噂話の真相を聞いたときの久保ちゃんの反応。

なんだか複雑そうだったけど、そ、ソ―ユ―こともしてるわけだし、久保ちゃんにとって特別なヒトなんだろうか・・。


そんな疑問に、こないだみたいに苛立ちは起こらないけれど、それでもやっぱり体がズ―ンと重くなるようなそんな不快な感覚があって。



・・・・やっぱ、俺、最近少しおかしいかも。


そんな変な自覚が、少しだけ俺の中にあった。






 

 


つづきます♪ 

 

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