「久保ちゃん。あのさ、こないだ言ってた女の話ってさ、その女の嘘・・だったんだよな?」
二人で歩く帰り道、時任が言いごもりながらそんな話を切りだした。
こないだ教室で時任が聞いてきたことだと理解して、ほんとに興味があったんだと意外に思う。
「うん、まぁ。その子に、噂広められちゃったんだろうね。」
「・・なんでンなこと」
「付き合うつもりはないって言ったから。たぶん、腹いせにって感じ?」
「って・・、つきあってなかったのか!?」
「まぁ、一度ホテル行っただけで。ただそれだけ」
「信じらんね。そりゃ自業自得だな。好きでもないヤツとンなことするからだ。」
少し強い口調で睨むように言われて、あれ?と首をひねる。
他人に干渉されることを無意識に避けていたのに、面倒なコトをなんでわざわざ説明してるんだろう。
「お前、そんなに適当に女遊びするよ―なヤツなのかよ。いい加減にしとかないと、バチ当たんぞ」
「・・・・・・」
ほらね。
反感買っちゃうんだから、言わなきゃいいのに。
そう思いながらも、説教じみた時任の言葉が不思議と不快じゃなかった。
最近よくこうして二人で帰るようになったのは、お互いの家の方向が一緒だったっていうわけだけど、こうして自然に肩を並べている自分に少し驚いていたりする。
でもまぁ、俺らはトモダチみたいなわけだし?
「聞いてんのかよ、久保ちゃん」
「・・・うん。だって、一度でイイからって、キスされたら。男なら断る理由ないっしょ?」
「っ・・、そ、そ―なのかよ。俺はキスとか、そ―ゆ―の、分かんねぇけどさ・・」
わざと意味ありげに微笑みながらそう言うと、時任は少し驚いたように頬を赤らめて、たどたどしく視線を彷徨わせる。
・・・へぇ、こんな顔もするんだ。
なんか、もっと見たいかも・・・。
ぐぐっと芽生えたばかりの欲求を増やしながらそんなことを考えていると、突然くるりと向き直って見上げてきた。
「なぁ、久保ちゃん。キスってなんですんの?」
これまた斬新な質問だね。
なんでって、理由考えたヒトっていたんだろうか。
「さぁ。キモチイイからじゃない?」
「キモチイイのか?」
なんて首を傾げてるもんだから、俺の中にある疑問が生まれた。
・・キモチいいっけ?
SEXも含め、こういうものは期待するほど大したことはないもんで。
俺の場合、何の思い入れのない相手とだからなのか、上手なキスでも何も感じない。
キスだけじゃ、勃ちもしないし。
それでも、もしかすると、ある程度の知識があって臨む場合と、知らずに経験する場合は違うのかもしれない。
こいつのように固定観念のない無知さで経験すると、果たして気持ちいいものなんだろうか・・。
「―――じゃあさ、試してみる?」
単なる、そんな疑問。
「・・・・・は?」
「相手なら俺がするし」
「・・冗談っ・・」
冗談だよと、笑うことはしなかった。
唖然とした時任の後頭部を片手で引き寄せて上を向かせると、驚きに零れそうなほど大きく開かれた瞳。
その瞳に吸い寄せられるように近づいて、唇を押し当てた。
「・・・・・・」
ふんわり、触れる唇は少し乾いていて、温かくて。
女の子と比べてみて、柔らかさってのはあんま変わらないんだなぁなんて思って。
・・・だけど―――。
――トクリ、と心臓が音を立てた。
・・・・・あれ?
しばらく押し当てたままでいると息をのむ気配がして、ようやく何事もなかったように離れる。
「・・・・ど?キモチイイ?」
「っ・・どうって・・・、く、久保ちゃん。い、今、なにやって・・?」
「何って、キス?」
「〜〜!!!」
途端に時任の顔がユデダコ状態になったのを見ながら、俺はよく分からない事態に自問していた。
・・ほんと。オレ、何やってるんだろう?
単なる疑問だったけど、本気でするつもりはなかったのに。
こいつならどんな風に感じるんだろう、こいつならどんな風にキスするんだろうって。考えてたら、勝手に体が動いていた。
それになんか・・・いつもと、女の子のキスとは違かったような・・・・・。
まぁ、それは当たり前か。時任は男なんだし。
いくらか心づもりが違かったのだろうと、自答する。
「お、お、お前っ・・・」
「ん?初めてだった?でもいいっしょ、男同士なんだから」
「・・・そ、そっか、いいのか・?」
「――ただの冗談だし」
何を弁明してるんだか。
一番驚いてるのは自分なのだから余計に、思い浮かんだ理由をとってつけたように答える。
・・・ただの冗談、か。
―――ふたりきりのときに、冗談になるのかな・・?
そんな疑問の正しい答えは、浮かぶはずもなかった。