はじまりの合図【7】

 



二人きりでの男同士のキスは冗談になるのか。


―――結果、なりませんでした。


だって、驚くことに。

その夜、息子さんが元気になっちゃったのです。

わぁお、珍しい。

まぁ、何事にも不感症なんて思われがちだけど、俺だって健全な高校一年生なわけだから、こういう現象もよくあることだと思うけど。

問題は、この現象が起こったタイミング。

なんでよりにもよって、時任のキスを思い返しているときに勃つかなぁ・・。


一瞬触れた柔らかな感触とか、肌から香る甘い匂いとか、唇に触れた時任の吐息とか。

恥ずかしそうに目を潤ませて頬を紅潮させる表情とか、そういうのをぼんやり思い返していたら、勝手にこうなっちゃったわけで。

しかもその後、それをおかずに収めさせてもらったわけで。

・・ああ、これ知られたら時任に殺されるかも。


もうこれじゃあ冗談にならないでしょ―。

キスで勃つなんて、盛りのついた中学生じゃあるまいし。

しかも相手はあの時任だし。

っていうか、”男の子”じゃない。


・・俺って、もしかしてソッチもイケたりするんだろうか。


――――うん、たぶん無理。

思い浮かんだそんな疑問には即答できた。

けれどものは試しと、授業中にクラスを見回してみた。

見たことのある顔と俺と同じ学制服。

その子たちを見て想像してみたんだけど、やっぱり無理だった。何が無理って、俺って想像力ないんだなぁってこと。

そういう行為を男とするってことが、全く想像できなかったのだ。

・・・あれ、でも、時任で抜いた時はなんかいろいろ想像しちゃったりしたんですけど・・。

と、俺のホモ疑惑は解消できず、というわけだ。


いきなり街で抱きついてきた女の子はどこかで見たような顔で、話を聞いていてようやく思い出した。

ああ、あの噂になった子。

一度きりの関係だと、名前どころか顔も思い出せないことが多い。あんまり興味がないからだと思う。

だけど柔らかな体に触れていれば、男として生理的に体は反応するもので、何度と無くいろんな相手と寝たことは事実。


しかしこの日は何かがおかしかった。

柔らかな胸が体に押し当てられても、あからさまなお誘いを受けても、まったく期待感も何も沸き上がってこない。

どうしたのだろう。

ついこの間までは、簡単にデキたのに。

ちらり、と隣を見やると、時任があからさまに不機嫌な顔で女の子を睨んでいた。

きっと生理的に、こういうタイプが苦手なんだろうな。

このまま怒って帰ってしまいそうな予感に、俺は先に女の子を突き放した。


「悪いけど、やっぱパス」


断られると思っていなかったのか女の子は驚いたような顔。時任もまた同じように目を大きくしている。

断る理由を考えていて、思いついたのは俺のホモ疑惑。

これならもうしつこくされることはないだろう。

まぁ、またいらない噂は立てられるかもしれないけど。


目を白黒させる時任に正直にそれを話してみたのは、きっと反応が見たかったから。

思った通り、顔を真っ赤にさせて唸る様子はおもしろくて、本当期待を裏切らない。

ああ、やっぱこいつ、可愛いなぁ・・。

そんな風に感じてる自分が、一番信じられないんだけど。


「俺もあれからなんか変だから」


そんなことを時任も言い出して今度は俺が目を丸くする。

変って、どういう風に?

もしかして、俺と同じように――?

トクリと高鳴った鼓動は、この間のキスの瞬間に感じたものと同じ。

そしてこれは、きっと―――俺が今まで知らなかったもの。


「――じゃあさ、もう一回試してみようか?」


そんな提案をしたのは、まさしく、下心といった奴なのだろうと思う。

お互い変で説明がつかないなら、もう一回試してみればいいんじゃない?

またそんな俺の思いつきだ。


「試すって、・・まさかまた、き、キスすんのかよ?」

「そうねぇ、今度はちゃんとしたやつね」

「ちゃんとしたやつ?・・キスも種類があんのか」


きょとんと瞬きする時任に、自然と頬が緩んだ。

この感情はなんて言うんだろう。

期待、高揚、興味、これまで持つ機会のなかったものが溢れていく。時任という存在を知ってから、それはとどまることなく、様々な欲求となって浮き彫りになってくる。

女でも男でもなく、誰でもないこの興味深い存在。

俺はこの希有な人物と、一体どうなりたいのだろうか。

 

 


 

 

 次へ

 戻る