あの日のキスから、俺たちはおかしくなった。
お互いに変だったってことに気づいて、久保ちゃんが提案したのは”もっとちゃんとしたキス”で確かめるってことだった。
なんとなくその提案に乗った俺だけど、久保ちゃんに手を引かれるまま、ひとけの無い路地裏へと足を踏み入れて。
壁に背を押しつけられて・・、ゆっくりと久保ちゃんの瞳が近づいてきた瞬間、
「――や、やっぱムリ!!」
思いきり久保ちゃんを押し退けていた。
「・・なんで?」
顔色一つ変えず至近距離から聞かれて、慌てて目をそらす。
なんでって、
―――それはこっちのセリフだ!
なんでこいつ、こんなに平然としてんだよっ。
俺なんかもう心臓が痛いくらいバクバクして、顔が熱くてたまんねぇってのに・・。
「だ、だってさ・・やっぱこれ以上はおかしいんじゃねぇか?ほら、俺たちは、と、友達なわけだし」
そうだよっ、あんまよく知らねぇけど、こういうことは友達とするもんじゃないってことぐらい知ってる。
・・これ以上のことしてしまったら、久保ちゃんとはもう友達でいれないような気がする。
それに、こないだと違って”する”と分かっててするのは、かーなーり勇気がいる。
尋常じゃないくらい心臓がドクドク鳴って、久保ちゃんにも聞こえちまうんじゃないかって、恥ずかしくてしょうがない。
こんな状態でキスなんかしちまったら、俺マジでどうにかなっちゃいそうだ。
そんな俺の気も知らず、久保ちゃんは分からないといったように首を傾げる。
「友達、ねぇ。俺は別になんでもいいんだけど。お前が相手なら、友達でも何でも。う―ん、だけど、”以下”はイヤかな。・・・ああ。そうか、俺は”以上”になりたいのかも・・?」
「は・・・?」
何かを納得するかのように呟く久保ちゃんに、今度は俺が首を傾げながら、その言葉を頭で反芻して――、ようやく意味を理解したとき、胸の奥がじんわりと温かくなった。
それなら俺も気持ちが分かるって思ったんだ。
「じゃあさ、”友達以上”でいいじゃん」
なんかどっかで聞いたことあるくくりだけど、俺の中でその立ち位置はドストライクな感じがした。
ただの友達なんかじゃ満足できない。だけど、友達でいたい。そんな矛盾なココロがどうにか説明できるんじゃないかって思った。
だけど、俺がそう言うと久保ちゃんは目を大きくして、聞き返してくる。
「・・・それ、意味分かってる?」
「え?う、うん」
多分。
そんなのまんまだろ?って聞き返すと久保ちゃんは少し視線を泳がせてため息を一つ、それからまた俺を見つめて言った。
「・・やっぱ、イヤかも」
「・・・・え?」
イヤ・・?
なんで。
ドキリとした。――違う、さっきまでのドキドキじゃなくて、なんていうか、・・・ガッカリ?
久保ちゃんはそれ以上何も言わなくて、なんだか微妙な空気が流れる。結局そのまま二人、その場を後にした。
帰りに別れるときは「また明日」って普通に笑ってくれたけど、それまでの沈黙がすごく長くて戸惑ってしまう。
俺、何かイケナイことを言ってしまったのだろうか。
久保ちゃんはやっぱただの友達でいたいのかな?
・・・っていうか、そもそも久保ちゃんは友達なんだろうか・・。
俺がそう言っただけで、久保ちゃんが本当にそう思ってくれているのかどうかなんて・・分からない。
キスしたら体が反応した、なんて。
だからホモなんだって。
分からないからもう一回しようとか、友達以上がイイとかイヤだとか・・。
あ―、マジ分かんね!
久保ちゃんはやっぱ難解なヒトだ。
俺なんか、ただ――、
もっともっと、久保ちゃんの傍にいたいだけなのにな・・・。