5年ぶりに訪れた橘家は、全く変わっていなかった。転居してからも清掃を入れさせていたらしく、一緒に遊んだ思い出の芝生は青々としており、橘の部屋も昔のまま綺麗に整頓されている。
部屋を見回すと、机に飾ってあった写真たてに目がとまった。両親と橘、5年前に撮ったらしい家族写真。
先日会った橘の父は、やはりこの頃とあまり変わっていない。その隣でゆるりと微笑む女性は、今はどうしているのだろうか。
「・・母上は出て行かれたのか?」
「ええ。実家の本家に戻りました。元々筋金入りのお嬢様です。一人で生きてはいけないでしょうから。」
苦笑いを浮かべるが、その表情には母親への愛情も滲み出ている。橘はきっと、すべてを理解して、とっくにすべてを許しているのだろう。
俺の父が愛した女性。
そして俺の父を愛した女性。
胸の奥でずっと愛し続けると語った父を思い出す。
二人の想いは、いつの日か交わることがあるのだろうか。
そんなことを考えていると、見透かしたように橘は「母にも僕のように大事な人に想いを伝えてもらいたいですよ」とにっこり笑う。
本当にこいつには敵わない。
笑みを返すと、橘は少し目を伏せて、机の上に置いてあるトランクに目をやった。
「父は先週、先にイギリスへ発ちました。僕も予定通りに向かうつもりです。」
「――そうか」
「・・ですから、その前に。どうしても貴方と話をしたかったんです。」
「橘・・」
「5年前のあのとき、僕はやはり幼くて。一人ではどうしようもない、ただの子供だったんです。」
「ああ、分かっているさ。・・とは言っても、一時はおまえを恨んだりもしたがな。」
俺も所詮ガキだったんだと、苦笑する。
「もう、いいんだ。こうして今、目の前にお前がいる。・・たとえこれから先また離れてしまうことになろうとも、俺の中からお前が消えることはない。俺は永遠に、お前のものなのだから。」
「隆久君・・。」
素直な言葉に、橘は驚いたように目を瞠る。こんなセリフを臆面もなく言える自分にも驚きだが、一度想いを伝えたことで、5年間の降り積もりが一気に溢れだしているようだった。
「少し、変わりましたね。」
「俺もだてに年をくったわけじゃないぞ。・・もっとも、良い方向に成長したかどうかは不明だが。」
「いいえ。ますます惚れ直しそうですよ」
嬉しそうに笑うその表情が、どれだけ俺を惹きつけているか、お前は分かっているのだろうか。計算高いお前にしては、あまりにも無防備な、幸せそうな微笑み。
それがまっすぐに俺だけに向けられていることに、胸が灼かれるような幸福を感じる。
目を逸らせずにいると、橘は手が届くほどの距離に近づいて向かい合った。
「背も、だいぶ伸びましたね」
少し俺を見下ろす形でそんなことを言う。
俺が伸びた以上に橘は成長している。相変わらず華奢な体躯はそのままに、大人の色気を感じるところもまた憎らしい。
「イヤミか、それ。」
「いいえ、僕は嬉しいんですよ。成長した貴方と会えて、こうしてまた触れることができる・・・」
頬が橘の両手に包まれた。自然と視線をあげる形になり、見つめ合う。
「・・隆久君」
「――橘、言っただろう?いつまでも子供じゃないんだ。”君”づけはないだろう?」
「・・それもそうですね。では・・
――隆久。」
――――ドクリ、体の奥が震えた。
「――愛していますよ、隆久。」
「ああ、俺もだ・・。」
色素の薄い茶色い瞳に吸い寄せられるように目を閉じ、どちらともなく、唇を重ねた。
5年前、初めて想いを伝え合ったときに、交わされたキス以来の、口づけ。
しかし甘酸っぱいだけのあの頃とは違う。早鳴る鼓動も、俺の背を強く抱きしめる橘の熱い腕も。
何度も角度を変えているうちに、次第に貪るようなキスに変わっていく。
息苦しく開いた隙間からスルリと舌が入ってきて、繊細な動きで口腔内を弄ぐり舌を絡めとられる。
執拗に攻める舌が、体の熱を高めていく。
「ん・・・・、んっ」
息を漏らしながら味わいつくすように唾液を飲み下し、舌を吸い上げる。うっすらと目を開くと、目前には橘の熱に浮かされたような濡れた双眸。
「隆久・・」
橘が俺の名を呼ぶ、その艶のある声にも煽られる。
「優しい貴方も、可愛い貴方も、今の貴方も大好きです」
甘い言葉と体温に酔いながら、衣服を剥ぎ取られ、ベッドに組み敷かれる。濃厚なキスは耳朶へと回り、濡れた音に直に侵される。身をよじって顔を背けると、濡れた舌が首筋を這い、徐々に下りてくる。
零れそうになる声を噛みしめるように堪えるが、ざらりとした舌が胸の突起を舐ると、たまらず吐息が漏れた。
「っ・・・はっ・・」
はじめはくすぐったい感覚も、ぷっくりと色づいたそれらを繊細な指で弄られるころには、ゾクリとするような快感へと変わっていた。
キュッと指で摘まれ、軽く爪を立てられると痛いほどの刺激が駆け抜ける。その間も橘の舌は臍やわき腹を執拗に這い回る。
すでに下半身は固く立ち上がり、先端からは透明なものが溢れていた。
「まだ、胸しか触ってないのに、元気ですね。そんなに僕に感じてくれてるんですか?」
「い、うなっ・・、・・んッ・・」
「・・隆久。声、我慢しないで・・」
意地の悪い言葉に、恨みがましい目を向けると、熱を帯びた橘の瞳と出会う。明らかな欲情の色に、さらに快感を煽られる。
初めての事に頭が真っ白だった。
あのときのような子供ではないにしても、経験も無ければ知識も無いに等しく。橘に触れられるたびに大げさなほどに身体がビクリと反応してしまう。
眩しげに目を細めて愛撫する橘の余裕が憎らしい。慣れているとは思いたくはないが、翻弄されているのは俺ばかりなのだ。
「橘っ・・・」
浅ましく愛撫を待つように勃ちあがり震える自身を、橘のあの柔らかな瞳に直視されていると思うと羞恥でおかしくなりそうだ。それでも体はもっと橘を求めて揺れる。
初めて知る、淫らで強欲な自分。
あまりの恥ずかしさにせめてこれ以上はと、ぎゅっと唇を噛みしめるように声を耐えるが、次の瞬間、温かな感覚に捕らえられ、あっけなく嬌声をあげた。
「ッ、あ、ああっ!?」
咥えられている、と視覚で理解するが、その事実が信じられない。橘の薄く綺麗な唇に、自分自身が埋まっている。
緩急をつけて扱かれながら吸われ、淫らな水音を立てながら敏感な部分を舐めあげられて。
激しすぎる、快感が襲う。
突然、ふっと温かな咥内から引き出されて目を開いた。
もう、すぐにでも達してしまいそうな寸前で助かった。危うく口に吐き出すところだった。
そう考えたのも束の間、突然両足を上げられ膝が肩につくほど腰を上げられた。ぬるり、と後ろの窄まりに熱を感じて目を見張った。
「なッ―!?――ッ、ああっ!!」
尖った舌が後ろを犯す。濡れた感覚を感じながら、立ち上がった前を扱かれて。
一気に、追い立てられた。
「い、・・クっ・・・!!」
意識が真っ白に飛んだ。
一瞬の間のあと、気づけば胸元に白濁が飛び散り、自身はぴくぴくと痙攣していた。
「っ・・はぁっ、はっ・・」
息が、荒い。潤んだ目が熱い。
視界に入るのは、自分の赤くピンと上を向いた胸の突起と未だ固く立ち上がり、白濁の滴る自身。朱に染まった肌に、吐き出したばかりの白い液体。
橘はそんな俺の痴態を見下ろして、ふっと微笑んだ。
「5年の間に、こんなに色っぽくなって・・。そんな可愛い目で睨まれても、煽ってるとしか思えないですよ」
胸元に吐き出した液体を指にすくって、舐めとりながらそんなことを言う。
色っぽいのはお前の方だ。
頭がぼ―っとして、とにかく体が熱くて、言い返したいのはやまやまだったが、あまりの刺激に息が整わない。
「た、ちばな、・・――んっ!なっ・・!?」
ぬるりと何かが後ろにあてられ、ビクリと背をそらす。白濁を塗り付けた細い橘の指が、入り口を擦りつけるように動いていたのだ。
「イっ・・・ああっ!!」
ヌプリと異物感を感じて悲鳴のような声があがる。それが橘の長い指だということは、間違いもなく・・。
「・・分かりますか?根本まで1本入りましたよ」
そんな実況中継はいらない。
自分のあんなところで、橘の指が動き回っていると思うと恥ずかしくて居た堪れなくなる。
「も・・ヤメっ・・」
「イヤですか?」
「い、イヤ・・だっ、んッ・・・」
「・・すみません・・、無理にはしたくないけれど、・・もう止まらない」
「・・ああっ・・!」
グチャグチャとかき混ぜるような音。すでに2本目の指が入り、抜き差しを繰り返される。
痛いだけでない不思議な感覚が沸き上がり、口をついて出る声は艶を増していた。
「あ・・っ、んあッ・・!」
違和感に眉を寄せていたのもはじめだけで、さっきから奥の方を指が掠めるたびにビリビリと下半身に快感が走り、前はすっかり立ち上がり液を溢れだしていたのだ。
男同士のセックスにそこを使うことぐらいは、俺も知っていた。橘と俺は友人のそれよりも明らかに恋愛の感情で、こうなることを望んでいたのも確かだった。
・・つまり、これは、俺が抱かれる方ということか・・。
そんなことを今更ながらぼんやり考える。
今にも達してしまいそうに追い上げられながら、突然指が引き抜かれ、それを惜しむように後の窄まりがヒクヒクと痙攣した。
「・・たち、ばな・・?」
ふと目をやった先に橘の昂りがあって、ドキリと胸が高鳴った。橘の容姿にそぐわないほど立派な、反り返るほど天を向いたそれは、俺に欲情している証。
橘が、求めている。オレを。
そう思うだけで、胸が熱く焦がれた。
「隆久、・・・抱かせてください・・」
しかも、熱に潤んだ欲情した瞳でそんなことを言われたら、断ることなどできるはずもない。
「・・・・橘、来てくれ・・」
「・・隆久・・・」
嬉しそうな微笑みに、ゾクリとする妖艶さが加わり、色気が凄まじい。それだけで中心は質量を増す。
もっと近くに、来てほしい。触れ合い、抱き合って、一つになりたい。
残りの白濁を纏い付けた昂りを後腔にあてがい、そして、――先端がねじ込まれた。
「っ・・ひっあッ・・!くっ・・・ああっ!!」
グッグッと、腰を進められるたびに、焼けるようなツルような痛みと、圧迫感が押し寄せる。
「たか、ひさ・・、大丈夫ですか・・?」
「っ・・・、ん、くッ・・!」
体が引き裂かれるような衝撃に、首を振ることもできない。橘は小刻みに腰を動かしながらゆっくりと奥へすすめていく。
大丈夫じゃない。予想以上に、辛いっ・・。
歯を食いしばって耐えていると、顎を捕まれ深く口づけられた。不意打ちに開いた隙間から、熱い舌に捕らえられ濃厚に絡まる。その間も腰を進められ、橘の舌に歯を立てそうになるのをなんとか堪えながら、舌を絡めた。
上も下も、橘に侵される。
あれだけ長い時間遠い距離を過ごしていた二人が、これ以上ないほど、今、近くに存在し五感すべてで確かめ合う。
「・・っ・・、入った、のか・・?」
「ええ・・、全部・・」
動きを止めたことで体の最奥まで、収まったのだと気づく。熱い痛みとものすごい圧迫感を内側に感じながら、ドクリドクリと脈打つ昂りを全身で感じる。
まるで、二人の心臓が一つになったかのように。
生理的に溢れた涙を、橘の舌が舐めとり、再び口づけられ、すべてが満たされている気がした。
「っ・・、そんな顔されたら、我慢できそうに、ないですよ・・」
そう言って困ったように笑われても、自分がどんな顔をしているのか分からない。たぶん、ひどく情けなく醜い顔をしているのだろうと思う。
橘の洩れる吐息も、荒い。
俺の体を気遣って、しばらく動かないつもりなのだろうが、動きたくてしかたない、そんなせっぱ詰まった顔を見逃せなかった。
「橘っ・・、も、動いて、いいから」
「・・でも、まだ辛いでしょう?」
「いい。早く・・、もっと、近くに・・」
「・・・・まったく、貴方という人は・・」
「っ!!ああっ・・!!」
突然内蔵を突き上げられた。反射的に背を反らして上へと逃げるが、体を強く抱き止められ深くねじ込まれる。
「ひっ、ああ――!!」
「どこまで、僕を虜にすれば気がすむのですかっ・・」
吐き出すように引きずり出され、すぐに最奥まで突き上げられる。がくがくと揺さぶられ、内蔵を擦りあげられる。
先ほど知ったばかりのイイ所を狙って、何度も何度も腰を動かされて、凄まじい快感に四肢が震えた。密着した体の間で、俺の中心は先走りに溢れぬるぬると擦り上げられ、すでに限界に近づいている。
「あッ、・・ああッ、も、・・無理・・だっ」
「っ・・・、隆久・・、一緒に・・」
橘の手に限界を迎えた中心が包まれ、掠れた声も激しい口づけに塞がれる。
「あい、してます・・!」
「――――っっ!!」
目が眩むような快感と同時に、視界が真っ白に包まれた。
橘の掌に吐き出した直後、体内に感じた熱い広がり。
溶けるような感覚に、橘と本当に一つになれたように感じた。
「・・隆久、これからはずっと、僕が貴方の傍にいますよ。ですから・・・、どうか・・・、・・・いて・・。」
薄れゆく意識の中、睦ごとのような甘い囁きが、・・・聞こえた気がした。