愛と青春の事件簿【1】

 


 

厳しかった残暑が終わりを告げ、夕暮れは日々早くなりつつある。昼夜の寒暖の差を感じながらも風情ある季節を楽しめる秋の訪れ。ここ、荒磯高等学校の生徒も徐々に中間服へと着替えだしていた。

だが、その心地よい季節とは裏腹に、この高校には重く険しい空気に包まれた部室があった。荒磯高等学校の生徒会執行部である。

メンバーは、いつものように校内の治安維持のため、21組で巡回へと出向く。それはごく普通で日常のことである。しかし荒磯高校にとって大きな事件の序章となる変調が、ここに感じられたのだ。

執行部員として名物となっている2人組に、ある変化がおこっていたのだった。

それは廊下を巡回する2人組を見る周囲の反応を見てとれば、いつもと大きく違うことが分かる。


(あれ、本当だったのね!)

(やっぱり!久保田君と時任君、別れちゃったんだぁ!)


コソコソと話す女生徒達の好奇の目にさらされながら、思いっきり眉をしかめた時任は、不機嫌にドスドスと校内を練り歩いていた。

そしてその横には、長身の男。しかしそれはいつもいるはずの久保田ではない。


(じゃあ、あの人が次の恋人?!あんな人3年にいたかしら!)

(あの人もかっこいいじゃない!)


周囲に時任の怒りが伝わっているのかいないのか、そんな噂話がコソコソと飛び交っていた。

その男は時任より頭一つ背が高い。背丈だけ見れば久保田とあまり変わらないだろう。しかし空手有段者といわれるように上背はがっしりとしていた。筋肉質ではあるがひょろりと痩せ型の久保田とは、また違った種類の体型だった。その上、ガタイの良い体育系のわりには端正に整った顔立ちをしており、女性に好まれそうなハッキリとした瞳が印象的で、少し茶色がかった柔らかそうな短めの髪がその男の気品さえ窺わせた。


「くそっ!あの狸めっ!!」


時任はブツブツと大きすぎる独り言を呟きながら、獲物を狙う獣のように周囲に睨みをきかせていた。


「・・お気持ちは分かりますが・・」

「うるせーよっ!だいたい澤村!お前っ、1年のくせになんでそんなにデカいんだよっ!」


澤村と呼ばれた男が気遣うような言葉をかけようとすると時任はそれを遮るように怒鳴りつけた。

時任は並外れた運動能力と腕力を持っていたが、体つきは華奢で痩せ形だった。時任はそれを少なからず気にしていたのか、自分より何歳も上に見えるこの長身の男が、実は自分より2つも下の、まだ高校1年生だということ自体、何より気に食わないようであった。

しかし外見のことをいくら言われても仕方のないことだ。そんな横暴な先輩に澤村は、「すいません、先輩」と、苦笑いするしかなかった。


「う―っ、だぁ―っ!あやまんなよ〜っ。俺がいじめてるみたいじゃんかっ」


時任はそう言うが端から見れば到底そうは見えない。むしろこの二人を知らない人から見れば、先輩後輩が逆な上、5,6歳は余裕で離れているのではないかと思うほどだ。


「くそっ、全部あの松本狸のせいだっ!」


何の非もない後輩にあたり散らしたあげく、素直に謝られてしまった時任は、この事態の諸悪の根源と思われる、“狸”もとい松本生徒会長とのやりとりを思い返して唸った。



それは今朝のこと。

松本生徒会長は早朝から、執行部員全員を生徒会室に集めていた。


「全員そろったな」


そう言う松本の前には執行部の面々が顔を揃え、横には橘、そしてさらにその横にはもう一人見知らぬ男が控えている。


「なんなんだよ、こんな早く。まだ1限目前だっつーに」

と時任が面倒臭そうにムスッと文句を言う。


「また面倒事を押し付ける気なら丁重にお断りします!」

と桂木も悪い予感がしたのか、すかさず釘を刺しにかかった。


「まぁまぁ、時任、桂木ちゃん、落ち着いて。あ、ここ喫煙可だったよね?」

やんわりなだめに入ったのは久保田だったが、まぎれもなく禁煙のはずの生徒会室で堂々と煙草に火をつけている。学校で生徒が喫煙可な場所などあるはずもないのに。生徒会長にしてみれば、ある意味一番自粛してほしい人物なのかもしれない。

嫌な予感を感じ取っているのは室田、松原、相浦と補欠の4人も同感だった。だが、この場に、橘の横にいる生徒会とは無関係であろう見知らぬ長身の男に、皆少なからず興味を持っているようだった。

補欠の藤原に至っては、「朝から久保田先輩のお姿を見られるなんて幸せ〜」などと言いながらも、端正な顔立ちのその男につい見惚れ、首をブンブンと振ると「だめだめ!僕には久保田先輩という人がいるんだから!」と自分を戒めていた。そんな妄想に桂木のこめかみがピクピクと震える。


「それで、用件を聞かせてもらおうかしら?」

桂木はこれ以上頭が痛くなってはたまらないと言ったように早々に話を聞くことにした。


「単刀直入に言おう。今日より、執行部に監査を入れることになった。」


松本は真剣な面持ちで話を切り出す。


「「「「「・・・・は!?」」」」」」


あまり聞きなれない言葉に面々は首をかしげた。


「室田、whats カンサ?」

松原がそう尋ねると代わりに桂木がそれに答える。


「えーと、監査ってのは組織の中の中立な立場で、例えばある機関に違法がないかとか、組織の合理性とかを調べることじゃない?・・つまり悪いことしてないか調べる調査役ってところかしら」


室田はそれを聞いて相浦を振り返る。


「ガサ入れのようなものか・・何かしたのか?相浦」

「えっ!?なんで俺っ?!」


思いもよらぬ方からの攻撃に相浦は慌てふためく。覚えがないのならそんなに慌てては逆に怪しまれるだろう。


「まぁ、会計は相浦だしね。部費着服、とか?」

とどめに久保田が冷静に突っ込みを入れられると相浦は「みんなひどい」と涙をのむ。

「相浦がンなことするかよ。」と助け船を出した時任に

「時任〜、お前、本当の友達だったんだな」とうれし涙を流すのだった。

そしてまた別の方からの攻撃が交差して飛ぶ。


「そうですよ。それなら時任先輩じゃないんですかぁ?あ、わかった!時任先輩の素行の悪さが原因なんじゃないですかぁ?」

藤原の余計なひと言に時任が「なんだとっ!この万年補欠がっ!」とお決まりの口ゲンカへと発展していったのだった。


「もうっやめなさい!」


生徒会長の前ということもあり、さすがにハリセンを振りかざすのを控えた桂木が、これ以上話が逸れては、1限目に間に合わないという冷静な判断から、松本に本題を促す。そうしてようやく松本が口を開いたのだった。


「先日、タレこみがあったのだ。匿名でね。執行部のやり方が横暴すぎると。過度の暴力は校則で守られるべきものではない、とね。」


“暴力”という言葉に思い起こす2人を皆が一斉に見たのは言うまでもないが、当の本人は覚えがないとばかりに顔をしかめた。


「は!?俺??誰が横暴ってんだよっ!」


かたや久保田はのほほんと誰のこと?とばかりに煙を吐き出す。


「やっっぱぱりっ!時任先輩に決まってるじゃないですかぁ!」

「なんだと〜!」


再び騒がしさを取り戻そうとした二人に今度はハリセンを踏み留められなかった桂木の強腕がしなった。

バシッ!!バシーン!!

「いっってぇ!!」「いったぁいっ!!」

結局こうなるのだった。


「それでだ、一生徒からの意見とはいえやはり無視するわけにはいかない。我々は執行部の業務の重要性はもちろん理解しているが、理解してない者や面白くないと考えている者もいるだろう。そこでだ、この機会に執行部の重要性と役割を公にするべきだと考えている。そのためには執行部の運営と業務体刑、それらを一度調査する必要があるという私の判断だ。」

「それで監査ってわけですね。事情は分かりましたけど、具体的に私たちは何をしたらいいのかしら?」


桂木はそう言って首を傾げた。執行部の運営なら帳簿類を提出すればいいだけだが、業務体刑となると、日報やマニュアルのような書類を提出するだけで済むとは思えなかったからだ。それにそんな簡単なことであれば、わざわざ早朝に執行部全員を呼びつけるような真似はしないはずだった。


「君たちはいつものように業務をこなしてくれれば良いのだ。監査は日々の業務を調査する。内容については後ほど説明をするが、早速今日から監査委員の受け入れをお願いしたい。」


荒磯に監査委員など初耳だったが、それもそのはず今回急遽こしらえた機関らしかった。松本は橘に目をやると、橘は穏やかに笑みを見せる。


「監査委員長の橘副会長だ。彼に精査にあたってもらう。」


(((((げっ・・・)))))


心の声での合唱だった。

久保田は細い目のままプカプカと煙草をくわえているが、それ以外の反応は皆同じようなものだった。よりにも寄ってあの狐、もとい橘副会長が監査委員長だなんて・・、似合いすぎる。もはや嫌な予感しかしない。時任にいたっては隠すことなく不満げに顔をしかめている。

全員一致であるだろう思考を、読んだように橘がにっこりと微笑んだ。表面上美しい笑みも、その男となると裏があるとしか思えない。怪訝に顔を見せる執行部員達に松本は苦笑すると、目線を長身の男へと移し、話を続けた。


「橘は副会長職と兼任になることもあり、一人では無理がある。そこでもう一人監査委員を任命したのが、ここにいる澤村君だ。彼は今月転入してきたばかりだが、前校では1年生ながらに生徒会長の任に就いていた。監査委員の業務もよく理解している適役だろう。」


さきほどから部屋の隅ほどに佇んでいた長身の男は澤村という1年の生徒だった。


「転校生ね、どうりで見たことないと思ったわ・・・って1年!?」

と桂木が驚きの声をあげたが目を丸くしたのは桂木だけではない。

「1年・・それどころか軽くハタチ過ぎにもみえるぞ」と室田が言う。それはお前も一緒だろうと思いながらも相浦も「久保田といい勝負だな」とマジマジと見つめた。体型・ルックス・もしくは老け度か、何の勝負か分からないものの室田達も頷く。制服を着ているというのに新任の先生か何かと思っていた時任も、やはり驚いていた。


「どーゆーイミだろうね?オッサン度とか?」

久保田は特に驚く様子はなかったが、そんな様子を見て松本がフッと笑った。


「誠人、澤村君を覚えていないか?俺達の中学の後輩なんだぞ。会ったことあるだろう?なんたって執行部の後輩でもあるのだからな。」


澤村がペコリと久保田へ頭を下げる。

「そうなのか、久保ちゃん」と時任が目を丸くするが当の久保田は

「さぁ?オレ記憶力乏しいからね〜」

とトボける様に言うと、長くなった灰を藤原の持つ灰皿へと落とした。


「薄情な奴だ。これも何かの縁だろう。仲良くしてやってくれ」

松本が苦笑いをすると澤村は再度執行部面々に向かって深々と頭を下げた。


「よろしくお願いします」


澤村はポーカーフェイスなのかあまり表情を崩さない男で、物静かで知的な雰囲気を持っていた。空手をやっていたということもあるのか礼儀正しい男といった印象である。

そしてその1年とは思えない逞しい身体と端正な顔立ちは自然と目を惹くものがあった。相浦や桂木でさえ珍しげにまじまじと見つめている。しかし久保田の視線は違っていた。同じく澤村の様子をじっと見つめていたのだが、その眼には何かを考え込むような意があった。そしてそんな久保田の視線に気づいたのは、その場にいる妖艶な笑みを浮かべた人物だけであった。

 


タイトルがおかしいですが;お気になさらずw つづきます^^♪ 

 

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