[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。



 肩を並べて【2】

 



―――数日後。

予期せぬ事件の始まりは、騒がしい足音とともに執行部の扉を開けるのだった。



「久保田先輩っ!!た、大変ですぅ――!!」


バタバタとせわしない足音を響かせて、勢い良く部室のドアを開けたのは、執行部唯一の補欠、藤原だった。部室にいた室田と松原をスルーして、”探し人”がいないことを確認し、さらに情けない声をあげる。


「久保田先輩はどこですかぁっ!?くぅぼたせんぱぁぁぁい!!」

「・・久保田と時任なら今日は非番だぞ」

「藤原、what's up?」


いつもの挙動不審に見かねた二人が応えてやると、藤原はアタマを抱えて「そんなぁぁ!相浦先輩と桂木先輩がぁっ!」と悲鳴に似た声をあげた。この男のうっとおしさと騒がしさは相変わらずだが、それに怒声をあげてハリセンを振り上げる人物は、只今不在である。


「相浦と桂木か?それなら裏門の調査に行ってるぞ。今朝生徒から投書のあったヒビとやらを見にな」


一般生徒の声を広く聞こうと、生徒会が考えた目安箱がある。実際はそこに投書されるもののほとんどが、『売店のレパートリーを増やせ』だの、『ホンモノの女の先生を雇え』だの、真剣にとりあうようなものではなかったが、今朝投書された中に、『アーチになっている裏門にヒビが入っており危険だから調査してほしい』という、珍しくまともな内容があった。

早く対処しなければ危険なものかもしれないとあって、桂木は早速相浦を連れて調査に向かったのだった。

そう説明をする室田に、藤原はブンブンと首を振る。


「そ、そうじゃないんです~!じ、実は僕っ、僕、見ちゃったんですよ!!」

「「?」」


そして怪訝な顔をする二人に構わず、高い声を振り絞るように叫んだのだった。


「相浦先輩と桂木先輩が変な奴らに連れて行かれるところ!!」



「―――What's!?」

「―――それは本当か!?藤原!」


一瞬の後、目を張って同時に聞き返した二人に、藤原はこくこくと頷く。


「ほっ本当です!裏の校門で桂木先輩が変な男達に車に乗せられてたんです!相浦先輩も桂木先輩を助けようとして捕まってっ、それで一緒に連れて行かれたんですよぉ!!」


ぜいぜいと肩で息をしながら訴える藤原の、とても虚言とは思えない様子に、さすがに二人のカオが険しくなる。


「ゆ、誘拐だというのか?・・しかし桂木と相浦を拉致してどうしようと・・?」

「誘拐ぃ!しょ、しょんなっ、じゃあいずれ犯人から身代金要求がぁ!?」

「NO、それはないでしょう。金銭目当てで二人を狙う理由はないデスよ」

「ああ、そうだろうな。二人が大金持ちならまだしも、金銭目的で誘拐されるような年齢でもない」

「・・だとしたら室田、敵の狙いはなんでしょう?」

「分からんな。車で逃げたとなると探すのは容易じゃないぞ。藤原、その男達の人数は?どんな様子だった?」

「ど、どんなって、・・えっと、確か、年は僕らと同じくらいで・・、みんな同じような制服着てたような・・?人数は僕が見たのは4人だったと思いますっ!」

「相手は高校生か?それじゃやはり金銭目的というよりは・・」


室田と松原が難しいカオで思考を巡らせていると、部室の扉がノックされ、サッカー部のクラスメイトがカオを覗かせた。


「おーい、執行部。室田と松原いるか?さっき他校の女の子にコレ渡してくれって頼まれたんだけど」


練習中に手紙を渡してくれと頼まれたというが、タイミング良く届いたそれに、二人はカオを見合わせ、急いで手紙を開く。

室田は黙読すると、静かに声をあげた。


「・・・間違いない。誘拐犯からの手紙だ。『荒磯執行部の人間を預かった。返してほしければここに書いてある場所へ来い』とある」


低く唸る室田に藤原が「ひぃ、やっぱりぃぃ」と悲鳴をあげる。この手紙から誘拐事件であることは決定的。一気に緊迫感の増した部室で、松原は冷静に目を鋭くした。


「・・執行部、それも僕と室田を呼び出すなんて、どういうことでしょう?僕らに恨みがある奴らの仕業ということでしょうか・・」

「分からんが、行くしかないだろう」

Of couse!卑劣な奴らを叩きのめしに行きます!」


室田の言葉に松原が気合いを込めてバンと机を叩くと、藤原が祈るように両手を組んですがりつく。


「しょ、しょんなっ!誰か先生に知らせましょうよ!僕たちだけでどうするって言うんですかぁ!!」

「ああ、それもそうだな。藤原、お前はこの事を久保田と時任に知らせてくれ。まだ家には帰りついていないはずだから追えば間に合うだろう。俺たちは先に向かう。」

「久保田と時任が駆けつけるころにはすべて終わっているでしょうけどね」

「それから先生達にはまだ言うな。おおごとにしていい問題かは判断がつきかねるからな。行くぞ松原」

Let's go!」

「えっ、ちょ、ちょっと松原先輩、室田先輩っ!!?」


松原は腰に竹刀を差して額に白いハチマキを巻き、室田はバキバキと指を鳴らす。二人は目を合わせて頷くと、藤原が止める間もなく部屋を飛び出した。


あっという間に見えなくなった二人の背中を呆然と見つめながら、一人残された藤原は立ちつくし

 

「・・・・・・ひ、ひ、一人にしないでくださぁぁい!!久保田せんぱぁぁぁぁいっ!!」


嘆かわしいほどの奇声を上げながら、バタバタと廊下を駆け回ったのだった。




続きます^^

 次へ

 戻る