肩を並べて【3】

 



「あ、あの、久保田さん・・、ですよね?」


自販機で買ったタバコを開けて、1本口にくわえたところで女子高生に声をかけられ、久保田は「・・えーっと」と首をひねった。


「どこかで、お会いしましたっけ?」

「は、はい。先日、助けて頂いた甲斐田結子と申します」


よく見ればどこかで見たような濃緑のブレザー、確か桂木が言っていた豊永高校の制服だった。


「ああ、時任にプレゼントくれた子ね。・・それで何か用?」

「じ、実は、私。コレを、渡すように頼まれて・・」


彼女はおどおどと、四つ折りにされた白い紙を差し出した。手紙のようだが、先日のピンクの便箋とはあまりに異なることから彼女からのラブレターの類ではなさそうだった。

受け取ったその場ですぐに目を通すと、ちらりと女子高生を見やる。


「・・これ、誰から?」


久保田の声に彼女はビクリと肩を震わせ、青白いカオで俯く。何かを言おうと口をひらきかけたが、遠くから駆け寄ってきた時任に気づくと、慌てて何かを呟いて、逃げるように走り去った。


「久保ちゃーん、なにやってんだよ。・・あれ?誰か知り合いだったか?」

「んー、ちょっとね。」

「ちょっとってなんだよ」

「まぁお気になさらず?それより時任。俺、用事思い出したから、先に帰っててくれるかな?」

「――は?なんだそれ」

「じゃ、そゆことで。」

「あ?ちょっと、久保ちゃんー!?」


とりつくしまもないとはこのことで、時任が尋ねる間もなく、久保田はヒラヒラと手を振ってその場を後にした。



「〜〜な、な、なんなんだよ!」


一人置き去りにされた時任は、盛大な独り言を吐き出す。

行き先も告げず一人でどこかへ行ってしまった久保田に、わき起こるイラ立ち。

今日は二人は非番であったし、特に用事もないからと、CD屋とゲーセンに行こうと話したのはつい先ほどのことだった。


―――俺との約束よりも優先する用事って、なんなんだよ・・。


ぽろりと浮かんだ苛立ちの理由は、子供じみた嫉妬。

時任がCDを視聴している隙にタバコを買いに行った久保田、そのほんの少しの間に久保田は女性と会っていて、カオは見えなかったが、他校の女子だったかと思う。

男女問わず人気のある久保田だから、また呼び出しでも受けたんだろうかと思い立って、イライラがよけいに増した。

自分よりやたらモテる久保田に嫉妬心がもともとあったのは事実だったが、久保田が自分との予定よりその用事とやらを優先させたということが、何よりおもしろくなかったのだ。

久保田がどこに行こうと誰と何をしようと、久保田の勝手。相方とはいえその立場にかこつけて久保田の全てを思い通りにしようなんていうつもりは毛頭ない。

・・・ないのだけれど・・。


「・・・なんでオレ、こんなにイライラしてんだろ・・」


仏頂面でつぶやきながら、家路を一人歩く。

いつも二人で帰る道は、一人だと、なぜか足が重く感じた。

「あ〜あ、ゲーセンでも寄って帰るかな」気晴らしのようにそんな提案を自分にしてみるが、そんな気にもならなかった。


「ん・・?」


そのときふと、どこかで聞いたような声が耳に届いて、足を止める。


「くぅぼたぁせんぱぁぁい!どこですかぁぁ!!」

「・・・・あ?」


この間抜けな声は、さらに時任のイライラを増長させる相手に違いなかった。確信しながら声の方を見やると、やはりそこには、挙動不審にヨロヨロと歩きながら大声で情けない声をあげている藤原の姿。

時任は咄嗟に走り後ろからその背中に蹴りを入れると、藤原は見事にカオから地面に倒れ込んだ。


「ブヒャッ!!――と、時任先輩!!いきなり、何するんですかぁぁ!?」

「情けねぇ声で久保ちゃんの名前呼んでんじゃねぇよ!恥さらしの近所迷惑野郎め!!」

「しょうがないじゃないですかぁ!一刻を争うことなんですよ!そっそうだ時任先輩っ!久保田先輩はどこです!?」

「なーにが一刻を争うだ。久保ちゃんなんか知らねぇよ!」


不機嫌に答える時任に、藤原は負け時と食いつく。


「僕の久保田先輩を隠そうたってそうはいきませんよっ!さあ早く出してください!」

「誰がお前のだっ!隠してねぇし、久保ちゃんは用があってどっか行っちまったんだよ!」

「そ、そんなぁ!!――ああ、で、でも仕方ないですね!この際もう時任先輩でいいや!」

「”でいいや”だとぉ!?この補欠!!言い直せ!」

「も〜、それどころじゃないんです!誘拐事件なんですよ!!」

「はぁ??」


いつもの口ゲンカになりつつあるところでようやく使命を思い出した藤原に、時任はカオをしかめたまま気の抜けた声をあげるが、


「桂木先輩と相浦先輩が誘拐されたんですぅ!!」

「――――なぁにぃ!???」


藤原がようやく本題を告げると、時任はさらに眉を寄せて素っ頓狂な声をあげたのだった。




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