肩を並べて【6】

 



そこにいる全員の視線を一身に受けながら、強気な瞳は揺らぐことなく全てを見返す。そしてニッと笑みを見せると、堂々と声をあげた。


「お前等!執行部のエースをのけ者にして、ふざけたことやってんじゃねぇぞ!!」


走ってきたのか額に汗をキラキラと光らせながら、眉を寄せた時任はそれでもイキイキとしていて。

不意をつかれて現れた相手に男等は眼をつり上げ、結子は驚きに眼を張った。


「ぜぇぜぇっ・・、あっ〜っ!久保田せんぱぁぁぁい!」


そして遅れてその場に現れた藤原の姿。目的の人物を見つけて目を輝かせるが、久保田の目には届いていないようだった。

久保田の目に映るのは、まっすぐに自分を見つめる相方の姿だけ。


「・・・久保ちゃん。」


静かに久保田の名を呼ぶ。片眉をつりあげて、まっすぐに見つめ返す瞳に、久保田は観念したように息を吐いた。

どうやら藤原がよけいにも時任を連れてきたらしい。後々怒られるのを覚悟で、音便にすませようと考えていたが、さすが執行部のエースは、事件をかぎつける能力にも長けているのか。

なんだかなー・・。

やっぱり、お前は俺が思った通りには、いかないやつだよねぇ。


久保田はそんな思考に苦笑いを浮かべる。それでも時任を見つめる眼差しはひどく柔らかく優しい。

この場の状況を無視したような二人の空気に、芦野は目を張り絶句していた。

代わりに声を荒げたのは高本だった。

「ハッ、上等だ!計画変更だが、これで執行部は全員揃ったな!この間の落とし前はつけさせてもらうぜ!!」


そう叫ぶと、隣に集まっていた仲間たちが一斉に飛び出してきた。その数は思ったより多く、十数人の男らが時任と久保田目掛けて走りかかった。
しかしその動きは、易々と制されることになった。大人しく捕まって動けないはずの4人が同時に飛び出してきたからだ。


「――なっ!?こ、こいつらっ!いつの間に!?」

「荒磯執行部をなめるな!!」

「なめられるなんてゴメンデス!!」


相浦は桂木を背にして壁際まで走り、室田と松原が男たちに飛び込んでいく。

その一方で、時任はイキイキとして強気な笑みを見せていた。


「よう金髪ヤロウ、あんときの奴だな!」


迷うことなく自分の目の前に飛びかかってきた男に、にやりと笑うと、高本も負け時と笑みを浮かべる。


「荒磯のガキめ!こないだのお返しはたっぷりしてやるぜ!!」

「やってみやがれ!!」


時任はあっという間にその乱闘の渦の中にいた。するといつの間にか久保田が時任の背後に立ち、ぐるりと敵を見渡している。

大人数を相手にするときの、二人のいつもの立ち位置だった。


そして見事に繰り広げられる二人の動きは、まるで後ろに目が付いているんじゃないかと思われるほど、ぴったりと息が合ったものだった。

執行部員であれば見慣れすぎた風景。しかし初めて目にする者にとっては、目を疑わんばかりのコンビネーションで。次々に相手を地に伏せていく光景に、立ちつくしていた芦野が小さく声を漏らす。


「そうか・・・」


そして、眼鏡の奥で驚きに張っていた瞳が、”ある確信”を持って、鈍い光を宿した。

計画は初めから違っていたと、認めざるを得なかった。明らかに調査不足だったのだと。

そう。目的を果たそうとするのなら、初めからターゲットはたった一人で十分だったのだ。

あの久保田を変えた、おそらくたった一人の人物。

―――久保田のウィークポイントは・・こいつ、―――時任だ。






室田と松原、久保田と時任の強さは、日々の公務で鍛えられたものとあって、人数的に不利でも明らかに優位だった。たとえ多勢で武器を所持する不良であっても、所詮、進学校のはみ出し者の集まり。自称『ケンカのプロ』に簡単に勝てるはずもないのだ。

十数人の敵は次々にやられ、その場に転がる者、仲間を置いて逃げ出す者も出る始末。


不良たちの代表格であるらしい高本は金髪の髪を乱しながら、もう後がないと判断したのか悔しげに舌打ちをして、懐からナイフを取り出した。


「くそっ!ふざけるなよ!!」

「きゃっ!」


悲鳴をあげたのは結子だった。高本は身近にいた結子にナイフを突き付けたのだ。


「なにしてるのよ!その子は味方じゃないのっ!?」

「うるせぇ!知らねぇよ!元々こいつが騒ぎ立てなけりゃ、俺らが無様にやられることもなかったんだ!」

「なんてヤツだ!許せん!」

「女性を放せ!」


一斉に執行部の面々の声が飛ぶ。

そちらに意識がいった隙に殴りかかってきた敵を蹴り倒しながら、久保田はふと、何かを感じて芦野の姿を目で探した。


「てめぇー!!」

時任がこの状態を放っておくわけがなかった。数日前に高本から結子を助けているのだから、それは誰もが分かること。

そしてやはり、時任は誰よりも早く、高本目掛けて走り出していた。


「やめろ!放せよ!!」


時任が声を荒らげ、高本に掴みかかった瞬間――、久保田は目の端で芦野の姿を捉えて、目を大きくした。

―――時任の背後で、何かを振り上げる芦野の姿。


「――時任っ!!」


ガツッ――――・・


滅多に聞くことのない久保田の大声と、辺りに響いた鉄が何かに、ぶつかったような鈍い衝撃音。


―――――そして、すべての音が止まった。



 

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