キミの虜【3】

 


 

「今日はどうしたんデスか、室田」

「ま、ま、松原ッ。い、いや、なんでもない」

「顔も青いですし、元気もないようデスが・・。そういえば昨夜は時任を泊めたんデスよね?どうでしたか?」

「ど、ど、ど、どうって、なななななにが?」

「時任の相談に乗るんだって、張り切ってたじゃないですか」

「あっ、ああ、そのことか、相談に乗るどころか・・・」

「どころか?」

「い、いやっ、なんでもないっ!誤解なんだっ!本当だ!」

「WHAT’S〜??」

「あーあ、なによ室田君ったら、声裏返っちゃって。・・まさか室田君まで変な気おこしたんじゃないでしょうね・・」


さっきから部室の隅で繰り広げられる、痴話喧嘩ならぬ、意味不明のチグハグな二人の会話に、桂木は白い眼でぼそりと呟く。

室田の様子から、大きなことではないにせよ、なにかしらヤマしいことでもあったのか。

その前例である相浦が目の下にクマをつくりながら、ブツブツと「俺は違う」「気の迷いだ」だの呟いている様子をちらりと見て、桂木は大きく息を吐いた。


・・・病んでるわ。

それもこれも、あの天然コマシとおとぼけ細目のせいね。と窓際で煙草をふかしている久保田を見やった。

周りをこれだけ巻き込んでおきながら、張本人は知らぬ顔で、まとわりつく藤原が持つ灰皿に灰を落としながら、ぼーっと雑誌を読みふけっている。

まったく、これだけ何考えているか分からない男、時任も大変だわ。と、少々の怒りを抑えながら、ふと桂木はその人物がいないことに気づいた。


「あら?」


先ほど巡回から帰ってきたはずの時任がいない。


「時任なら保健室〜」


すかさず桂木に教えたのは、雑誌から目を離さないまま、のほほんと言った久保田だった。


「ああ、そう。いいの?一人で行かせて」

「・・・時任が一人で行くって言うから」

「・・そう」


我関せずとポーカーフェイスを気取っておきながら、しっかり周囲の声は聞いているってわけね。

つまり、相浦君や室田君の様子も、めざとい久保田君が気づいてない筈もないわけで。

だとしたら、やっぱり・・・、
―――そろそろ限界なんじゃない?


桂木は少し心配したような笑みを浮かべながら、再び小さく息を吐いた。






「痛ってぇっ!」

「あらアメーバにも痛覚があるのねぇ」

「怪我人にはもっと優しくしろっ!」

「あんたの怪我なんて舐めときゃ治るんだから、こうやって手当してあげるだけ有り難いと思いなさいよ」

「こンの、厚化粧め・・」

「フン。・・・・で?少しは元気になったじゃない?」

「・・・・・・!」


公務の際に怪我を負うのは毎度のことで、今日も例外でなく腕を痛めた時任は、いつものように口論しながらもまるで姉のように優しげな五十嵐の微笑みに、ぐっと言葉を詰まらせた。


「誰にも言えずに悩んでるってカオねぇ。いったい何がそんなにアンタを悩ませてるのかしら?」

「・・・・・」


口では久保田を巡って犬猿の仲とばかりに、目を合わせれば口ゲンカの絶えない二人だが、時任が本当に何かを抱えているときには、五十嵐はちゃんと見抜いて相談に乗ろうとしてくれる。優しい保健室のお姉さんとは言えないものの、自分たちよりはやはり大人で、何かと気が回る人物でもあった。時任にもそれが分かっているのか、少し考え込むようにして、やがて自然と口を開いていた。


「・・・わかんねぇんだ」

「・・?」

「・・・ずっと一緒にいるのに、久保ちゃんの気持ちがぜんっぜん分かんねぇ。・・今だって、こんなに離れてんのに、久保ちゃん全然いつもと態度変わんねぇし・・。なんか、俺ばっか悩んで、バカみてぇ・・」


しゅんとして顔を歪める時任に、五十嵐は一つため息をつくと、暗い空気を吹き飛ばすような明るい声をあげた。


「ほーんと、バカねぇ。だからアメーバなのよ」

「なっなんだとっ」

「人の気持ちなんて簡単に分かるもんじゃないわ。アンタが分からないように、久保田君にもアンタの気持ちが分からないのかもしれないじゃない。まぁ、・・案外、悩んでるのは久保田君のほうかもね」

「え・・?久保ちゃんが?・・・だって」


戸惑ったように目を大きくした時任の素直な反応に微笑みながら、五十嵐は言い諭すように続けた。


「ちゃんと口に出してごらんなさいよ。これからも相方でいたいなら、伝えるべきことは伝えないと。・・それに、あなたが思ってる以上に久保田君はあなたのこと考えているはずよ」

「・・・・・・」

「あーあ、そんなことも分からないなんて、全くこれだからアメーバなのよ。だいたいそんなんでフェロモン振りまいてんじゃないわよ。公害もいいとこだわ」

「・・は!?フェロも・・?なんだよそれ、意味わかんねぇし」

「はいはい、これ以上は何言っても無駄ね。とにかくちゃんと自分で考えなさい」

「言われなくても分かってるっての。お節介クソババァ・・」

「まったく、口の減らないガキねぇ。」


「だからガキはイヤなのよ。今度は久保田君に来てほしわ」と五十嵐は時任の背に憎まれ口をききながら見送った。

五十嵐が生徒である久保田に好意を寄せているのは、元々年上好みな彼女にとって例外なことであったが、高校生には見えない落ち着きようから見て、年齢だけのことであれば大して問題ないことだった。

けれどいつもよりも明らかに元気なく、しなだれた花のような時任を目の前にすると、自分が関わるべきでないことまで、ついついお節介を焼いてしまう自分がいることに、少なからず自分の想いを組んで苦笑する。


「ま・・。ガキは、ガキなりに、可愛いところもあるものねぇ。」


なにはともあれ、次に二人の元気な姿を見れることを楽しみに思う五十嵐だった。


総受け・・になるのかな?ちょっぴり五十嵐先生でしたv

 

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