君と二人で【4】

 


「あ――っ!だぁっ、くそっ!」

ゲーム機に向かっていた時任は、何度目かの”GAME OVER”の前で悔しげに声を上げた。ジャージのポケットを探すがどうやら資金も底をついたようだ。

深夜3時過ぎ。いまだ夜のネオン華やかな繁華街の一角で見つけたゲームセンター。

久保田とルミ子との逢い引き現場を目撃した後、一度ホテルに帰りついた時任だったが、そのまま一人の部屋に戻る気にもなれず、気づけば知らぬ街を一人歩いていた。だが、行く場所もなければお金もない。仕方なくふらりと寄ったゲーセンで時間をつぶしていたのだった。

「くそ、イライラする・・」

(・・・くぼちゃんが女と会ってた・・)

数時間前に見た光景を思いだして、胸をぎゅっと締め付けるような苦しさがこみ上げた。

それと同時に考えないようにしていた思考がふつふつと沸き上がる。

久保田とルミ子は確かに昨日久しぶりに再会したようだった。しかしあの後すぐに二人は別れて時任は久保田とホテルへ戻っている。元々連絡先を知っていたのか、どうやって二人が昨夜会うようになっていたのかと妙なところで鋭く考えていた。

――それとも、二人は元々そーゆー関係で、あの時、俺に分からないような会話があったんだろうか?・・・いや、違うな。昔のことなんて知らねぇけど、今のくぼちゃんがそーゆーコトするとは思えない。・・・・だけど・・・。

 

確かに時任は信じていた。今朝も強く自分を求めてきた久保田は、確かに自分だけを見ていたことを。しかしそれでも胸のモヤモヤがおさまることはなかった。それどころか考えれば考えるほど胸にズシリと重いものが重なっていく。

――くぼちゃんにとって、俺は、いったいなんなんだ・・・?

女とアイビキしてたとか、ウラギラレタとか、そういうのとか以前に、久保ちゃんにとって俺は、いったいなんなんだろう?

こうやって夜抜け出してるのだって、何か他に理由があるのかもしれない。でもたとえそうでも俺は何も知らない。

・・考えたらいつもそうだったよな。

生活費を稼ぐために、くぼちゃんが少し非ゴーホウなバイトしてることは知ってるけど、俺がついていくことはないし、バイト先さえ知らない。「俺もくぼちゃんの仕事を手伝いたい」と言った時も、「時任はそんなことしなくていいよ、俺の収入だけで十分生活できるから」とイイ顔はしなかった。

学校じゃ俺は相方で、友達で、パートナーで・・、家じゃ同居人、か?・・それだけじゃないのは確かだけど・・、くぼちゃんは俺が大事だって、体を繋げようとするし、いつも信じられないくらい俺を求めてくるから・・。

だけど・・、高校だってもうすぐ卒業。俺たちは男同士・・、いつまで一緒にいれるんだろ・・?

いつもは考えねぇようにしてたけど、ほんとはずっと不安だった。だからこそ少しでもくぼちゃんの手伝いができればって思ってたけど、それさえも俺にはさせてもらえなくて・・・。

・・くそ・・、こんならしくねぇこと、考えたくもねぇのに・・。

 

久保田を信じていないわけはなかった。自分の目で見たことであっても、何か理由があるに違いないと思えるほど、久保田はいつも自分の傍にいて、抱きしめてくれた

ただその腕に抱かれるたびに、胸のときめきとは裏腹にどこか先の見えない不安のようなものを常に感じ取っていたのは確かだった。

(・・くぼちゃん、あの人とどこいったんだろ・・。)

「こんなことなら、逃げ出さずについていけばよかったか・・」

一人考え込んでいた言葉が口をついてでたとき、誰かが近づく気配がした。

「・・あら・・?君・・」

ちょうどゲーセンを出たところで突然声をかけてきた、どこかで聞いたような声に、学校の先生か補導かと一瞬身構えたが、

「・・・あ・・・」

時任は目を大きくして声を漏らした。

その人は、今、久保田と一緒にいるはずの張本人、ルミ子だった。

 

 

あくびをかみ殺しながらホテルへと戻った久保田は、まだ寝ている時任を起こさないようにと静かに部屋の鍵を開けた。

しかし部屋から人の気配が感じられない。

「・・時任?」

早朝6時前、いつもなら時任が起きているはずもない時間だったが、時任の姿がどこにも見当たらず、首をひねった。早朝の散歩というわけじゃないだろうと、冷たい布団に触れて、どうやらだいぶ前から部屋にいないようであることに気づく。

(昨夜はちゃんと寝てたと思ったけど・・もしかして・・?)

ルミ子と会っているとき、なぜか時任がいるような気がしたことを思い出す。

時任が外に出たのが夜中ということなら、今の時間まで帰ってないとなると、この見知らぬ土地で何かあったのかもしれない。

「何か、いらない心配させちゃったかな・・?」

ぽそりとつぶやくように言いながら、久保田はすでに部屋を出ていた。

 


 

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