あら、あの子、誰かしら・・?
執行部の部屋に入ると見慣れない顔がいて、その子につい目を惹かれた。
「久保田君、珍しいわね、顔出すなんて」
「ああ、桂木ちゃん。そりゃ一応幽霊部員とはいえ執行部の一員ですからねぇ」
私の顔を見て、久保田君は笑顔を浮かべる。この笑顔にどれだけの女の子がやられてることやら・・。
けれど私はそれよりも、隣にいた男の子に目を奪われた。
「久保田君、こちらは?うちの生徒じゃあないわよね」
その子は大きなつり目の瞳が印象的で、ちょっと人目を引くようなキレイな男の子。
「そうなんだけどね。今日はちょっとした見学にね。俺の同居人で、名前は・・」
「時任だ。アンタは?」
久保田君の紹介を遮るように、自己紹介をした男の子は見た目とは少し違った仏頂面で、真っ向から私をじっと見る。
(あらあら、俺様系?)
少々つんけんした所はとりあえず気にせず、私は笑みを浮かべた。
「桂木よ。久保田君とは同じクラスで同じ執行部の仲間。まぁ、久保田君は授業もここにもあまり顔ださないけどね」
「執行部ってナニ?」
時任君はきょとんと目を丸くする。
そうすると思った通り、いくらか幼く見える。
「生徒会の命を受けて校内の秩序を守る役目を追った機関ってとこかしら」
「そう言うとかっこいいけどね〜、実際は生徒会の手足になって働かされてる犬ってとこね」
ぷかぷかと煙草を吹かす久保田君を横目に、私は両手を組んで息をはいた。
「そういうこと!雑用任されて大変なんだから、久保田君もたまには手伝ってよね」
「ほーい」
墓穴を踏んだとばかりに肩をすくめてみせるけど、そうやっていっつも逃げるんだから。。
「・・久保ちゃん、ほんとにコーコーセーなんだな」
ふと時任君が久保田君をマジマジと見上げて言う。
「そ。やっと信用した?」
「目で見てもジョーダンとしか思えねぇけどな」
あ、笑った。
笑うとよけい幼いけど、なんていうか可愛い。
それにしてもどういうことかしら?
どうやら話を聞いてると、最近まで久保田君が高校生だったことを知らずに、それがどうしても信じられなくて実際に見に来たっていうらしいだけど・・、不思議ね。
昨今、高校に行ってない方が珍しいくらいなのに、まぁ確かに久保田君は大人びてるけど・・・。
それにしても同居人って言ってたけど、時任君は学校行ってないみたいだし、この二人ってどういう関係なのかしら・・?
そう疑問に思いながらも、久保田君の表情から、なんとなく聞くことはためらわれた。
「久保田君、今日はせっかくだから仕事していってくれる?松原君が非番だったからちょうどよかったわ」
「うーん、そうしたいところだけど時任もいるしねぇ」
「働くわけじゃないなら、そもそもどうしてここにいるのよ?」
「時任との待ち合わせに、一番安全な場所かなぁと・・・」
「なによそれ?でも困ったわね、室田君もクラスの雑務で遅れるって言ってたし、久保田君がいればちょうどいいと思ったんだけど」
やっと姿を見せた幽霊部員を逃すかとばかりに、つい責めてしまうけどそれは仕方ないわよね。
けれどそのプレッシャーを受け取ったのはどうやら時任君の方だったみたい。
「久保ちゃん、仕事してこいよ」
「うーん、でもお前待たせるのもね」
「いいから、俺はここにいるからいいよ」
そう言う時任君がなんだか寂しそうに見えるのはたぶん気のせいじゃないと思う。すると久保田君は考えるようにして口を開いた。
「じゃあ、時任一緒に行こう。巡回だから簡単だし。ね、いいっしょ?桂木ちゃん」
「え、ええ。そういうことなら」
生徒以外に腕章をつけるわけにはいかないけど、見学というかたちなら・・、それに久保田君が一緒なら万が一モメ事起きても心配ないだろうし。
私は二つ返事で了承した。
久保田君は滅多にここに顔を出さない。
特にここ1年は学校にきてもまっすぐ帰ることが多くて、生徒会から直々に仕事を受けたときぐらいしか執行部の仕事を引き受けようとしなかったから、こういうチャンスは逃す手はないわ。
「ちーっす、って・・アレ?久保田に・・、だれだ?」
巡回に出た二人と、ちょうどすれ違うように入ってきた相浦君は珍しい久保田君の姿を見て驚き、隣の時任君を見てさらに目を大きくしているようだった。
「久保田君の同居人らしいわよ。今日は久保田君の学生生活の見学に来たんですって」
「同居人・・?見学??っていうか、それって久保田とどういう関係なんだ?ありゃちらっと見ただけだけどかなり美形だったぞ」
「さぁ、私にもよく分からないわ。けどあんな久保田君の顔、初めて見た」
相浦君はきょとんとしていたけど、見て見れば分かると思う。
久保田君のあの、いつものよくできた愛想笑いとは全く違う。時任君に向けられる笑顔はなんていうか、優しくて穏やかで、胸が暖かくなるような笑顔だった。
正直、久保田君にあんなカオさせる相手がいるなんて、ちょっとびっくりした。
二人がどんな関係かは知らないけど、間に踏み込めないような空気があると感じたのは確かだわ。
・・・ちょっとくやしいけど。