ことの始まりは、テレビのニュ―スだった。
観たいものもなくチャンネルをコロコロと変えていた時任が、ふと手を止めたのは、とあるニュ―ス番組。
何に興味を引かれたのかジッと画面を凝視し、やがてその目を大きく見開いて声をあげた。
「――く、久保ちゃん!!」
「ん〜?」
ベランダで洗濯物を干しながら一服していた久保田は、時任の慌てように洗濯物を中断して部屋に戻ってきた。
「なに、どったの?」
「これっ、これ観ろよ!・・・これって、工藤だよな?」
「・・・あ―?・・」
時任が指さした画面には、見覚えのある少年の映像が流れていた。
少し前のライブの映像なのだろう、まばゆいライトを受け、ステ―ジで堂々とマイクを握る工藤の姿。ハスキ―な歌声と若さと自信のみなぎるパフォ―マンスを繰り広げる、まさしくスタ―のそれだ。
工藤ハルキは自他共に認める、人気アイドルである。
今年、荒磯の文化祭に特別出演した際、訳あって付き添いを務めた久保田と時任にとっては記憶に新しい。その一件によりアイドルと一般人でありながら、なかなか親しい友人関係を築いていた。
とはいっても忙しい工藤とはそれから会ってはいないが、何度かメ―ルのやりとりぐらいはしたものだった。
アイドルの枠を越えて歌だけじゃなくドラマにもひっぱりだこの工藤であるから、テレビで目にすることなど日常茶飯事といえる。
それをなぜこんなに驚いているのかといえば、その写真と流れたニュ―スの内容が、思いもよらぬものだったから。
「――工藤ハルキさんは昨日午後8時頃、連絡がとれなくなり、自宅にも戻られていません。関係者の話ではそれからの行方が不明とのことで、警察では目撃情報から――」
行方不明、警察、という不穏なワ―ドを耳にして、時任は不安げに久保田を見上げた。
「行方、不明・・って、久保ちゃん」
「ん―、つまりいなくなったってことだよね。警察には捜索願い出してるみたいだけど」
ぼんやりと久保田は呟き、時任の眉間にはシワが寄る。
工藤と初めて会った時は、時任にとってイヤな奴としか見えなかった。けれど紆余曲折あり、意気投合し、一件が終わってからも何度か連絡を取り合った、いわば友達である。
言葉を交わすたびに喧嘩ばかりする犬猿の仲ではあるが、行方不明だというのだから時任も穏やかでない。
「何かあったのか、あいつ・・・」
時任がそう不安げに呟いた時だった。ちょうど玄関のインタ―フォンが鳴った。
「――はいはい」
久保田が玄関へと向かう。
時任はこんな時に来客などに意識は向かなかった。じっとテレビを見つめながら、自分も探しに行くべきかと考えていた。
有名人なのだから、なにかに巻き込まれる可能性だってある。
(まぁ俺もあいつに負けず劣らず有名人だけどな・・・)
それは置いといて。
なにもせずにもし工藤に何かあれば、それこそ寝覚めが悪いというもの。
リビングへ戻ってきた久保田に、時任は決意を伝えた。
「久保ちゃん!工藤を探しに行こうぜ。あいつも俺の次くらいに有名人だからさ、何かに巻き込まれてんのかもしんねぇし!それにあいつとの勝負、まだついてしな」
なんだかんだと言い訳をつけるも、つまりは心配だから探しに行こうとのこと。それが分からない久保田ではないが、すんなりとは同意の言葉が出なかった。
それを不思議に思って見上げた時任だったが、応えたのは久保田とはまた別の声だった。
「――誰がお前の次だって?時任なんかより、俺のが断然有名に決まってるだろ」
「はぁ?何言ってんだ、俺様の方が・・って、――えっ!?」
思わず立ち上がって応戦しようとするも、久保田に続いてリビングへ入ってきた人物に、時任の瞳がまん丸になる。
「――おっ、お前っ!」
「よっ、久しぶり」
片手を爽やかに上げてニヤリと笑う甘いマスクの男。
芸能人特有のオ―ラを纏った、まさしく”時の人”。
それはまさに今、ニュ―スが慌ただしく伝えている人物、――工藤ハルキだった。