翌日、久保田はリビングの物音で目を覚ました。
誰か訪ねてきているらしく、話し声がする。
大方、工藤のマネ―ジャ―だろうとリビングの扉を開くと、やはりそこにはマネ―ジャ―の姿。
そして。彼は大きな荷物を抱えていた。
「・・・なに、それ」
ソファとテ―ブルがリビングの端に寄せられていて、ふかふかのそれを工藤は鼻歌交じりに床に広げ始める。
「なにって、布団だよ、ふ・と・ん!」
それは見れば分かるけど、と久保田が見つめていると、床に敷かれたのは3組の布団。
「なんだよ朝っぱらからうるせ―な・・、・・なんだこれ?」
キッチンでコ―ヒ―入れた頃、遅れて起きた時任も、リビングに敷かれた布団に目を大きくした。
「よぉ、時任おせぇぞ、もう昼だぜっ。見ろよ、これ!今日からここで3人で寝るからな!ありがたく思えよ、布団買ってきてやったんだぜっ」
「・・・はぁ?・・修学旅行かよ」
どうやら朝イチでマネ―ジャ―をデパ―トまで走らせたらしい。昨夜ソファで寝たのがそんなにイヤだったのかと時任が聞くと、工藤はニカッと笑う。
「いいじゃん、その、修学旅行みたいでさ!」
「つ―か家だし、旅行になんねぇ・・」
「そういや俺さ、行ったことねぇんだよなぁ、修学旅行」
「・・・え?」
工藤が行ったことがないというのは、仕事柄仕方がないことなのだろう。学校のイベントごとどころか授業すらまともに受けられない状態だから仕方がない。
しかし本人は無関心を装っているが、学園祭の時を思い返せば、参加したい思いは少なからずあるのだと思う。
修学旅行も経験がないのであれば、やはり行ってみたいはずだと時任は思った。
毎年荒磯でも楽しみにしている修学旅行は、時任にとって良い思い出ばかりだった。
「・・・じゃあ、枕投げでもすっか?」
時任の提案に工藤は目を丸くしながら、口元を緩ませた。
それでも素直じゃない口は、簡単には同意しない。
「そ、そんなのガキみてぇなこと、したいわけ・・」
時任はにっと笑い、敷いた布団から枕を拾いあげそれを勢いよく工藤目掛けて投げつけた。
「ブッ――!!」
見事に顔面ヒット。
ぼとりと落ちた枕の向こうで、時任の満面の笑み。
「ぷっ!ははっ!すげぇ間抜けな顔っ。とてもアイドルとは思えねぇな」
「〜〜てぇめぇっ、時任!」
「はっは―だ!悔しかったらやり返してみろっ」
「望むところだ!!」
そこからは枕戦争勃発。
リビング中に枕だけじゃ足りず、クッションやスリッパなどいたるものが飛び交った。
避けても何かしらぶつかっているマネ―ジャ―と、避けもせずになぜかあたりもしない久保田は一人煙草をくゆらせる。
「う―ん、青春・・・?」
散らかっていくリビングを眺めながら、久保田は細い目で呟いた。
それから三十分ほど、リビングでは時任と工藤の笑い声が絶えなかった。
その夜から早速、リビングで寝ることになったのだが、なぜか工藤が真ん中がいいと言い張り、時任が噛みつくも公正なじゃんけんという形で決まったポジション。
結局、工藤を真ん中にして、三人仲良く川の字に収まったのだった。