「あ―、あと3日か。」
「っつ―か、ヒマ、だな」
ごろりとソファに寝ころんでいる時任と工藤。男二人がそれぞれ横になれば他に座るところはなく、久保田は一人ベランダで一服中。
あれから何事もなく過ごしていた。
食事はマネ―ジャ―が何かしら準備してくれるし、久保田と時任は普通に買い物に外出したりもしている。一応周囲に気を配ってはいるものの、特に不穏な動きもなかった。
ニュ―スでは工藤は未だ行方不明扱いらしく、犯人のいい目くらましになっているらしい。
ファンも心配しているようだが、コンサ―トの前日には元気な姿を見せて、予定通り開催するつもりだった。
それはいいとして。
「う―――っ・・」
工藤は転がったまま大きく伸びをする。
外出できる久保田らとは違い、ずっと部屋に缶詰状態だ。
今のこの状況は忙しい日々からすれば久々の長い休みであるが、どこに行くでもなく部屋にこもる日々はなんとも面白くない。
他の仕事も休業状態なため、マネ―ジャ―が何度か打ち合わせに来るくらいで、外出できない鬱憤はどんどん溜まっていく。
武道館コンサ―トまであと3日間。この状態をあと3日も我慢するとなると、短気な工藤は耐えられそうにもなかった。
「――よっし、遊園地行こうぜ!」
突然ガバリと起きあがったと思えば、そんな一言に時任は仰向けに転がったまま眉を寄せる。
「はぁ?お前狙われてるんだろ。自覚あんのか?」
「大丈夫だって!俺が遊園地にいるなんて、犯人に分かるわけねぇし」
「だからって、なんで遊園地なんだよ」
「だって、どうせなら行ったことないとこ行きたいじゃん。・・せっかくお前等といるんだから、さ」
頬を膨らませた工藤を、時任はしばし見つめた。
「・・・遊園地も行ったことねぇのか?」
時任もこの年になるまで遊園地には行ったことがなかった。
去年久保田と執行部の面々に連れられて初めて行ったばかりだった。
初めてのことを経験させてくれる仲間と、一緒に楽しめる時間が持てるということが、時任にとってはとても嬉しかったことを覚えている。
工藤もやはり喜ぶだろうか。経験がないのなら、自分がその手伝いができるのならしてあげたいという思いが時任の中にあった。
なんだかんだ言っても工藤は友達だ。そして、自分とどこか似たところがあるとも感じていた。
「遊園地っていったら、ホントはデ―トがいいんだけど仕方ない。お前らで我慢してやるぜ」
「・・・・」
けれど本当に連れ回しても大丈夫なのだろうか、と判断がつかない。遊園地など人混みは見つかりにくいのかもしれないが、逆を言えば犯人も近づきやすいといえる。
ボディ―ガ―ドを引き受けたからには工藤を守らないといけない。
う―んと、頭をひねった。
「・・時任?」
いやに大人しくじっと見つめられ、工藤は居心地悪そうに眉を寄せた。
時任の切れ長の瞳は凝視されるとどうにも力強すぎる。
漆黒の瞳が何かを言いたげに揺らいで、思わず見入ってしまう。
(無駄に、キレイなんだ、こいつの目は・・)
芸能界に生きる工藤にとって、キレイで整っている人などざらにいる。その内は知らずとも、見惚れるほどの外見を持つ人物と関わることも多かった。
けれど、時任の瞳は今まで会ったことがないと思う。
外見は確かにいい。
端正な顔の作りも、大きく動く表情も魅力的だと思う。
一番目を引かれるのはやはり、その力強い瞳。
外見だけじゃない、芯の強さを物語るような潔いまっすぐな瞳は綺麗に澄んでいて。
不意に見つめられると、ドキリと心臓をうつ力を持っていると思った。
(目が離せない・・)
無言で見つめられると口を開くよりも力がある。
まるで蛇に睨まれた蛙状態。いや、それとも少し違うな、と頭の片隅で思う。
変な緊張感だと思った。居心地が悪いのに、イヤな気はしない。ただ、じっとりと掌に汗をかいていて、わけもなく鼓動が速まった。
「―――そうね、じゃあ行きますか、遊園地。」
唐突に空気を割いたのは久保田の声だった。
いつから見ていたのか。
窓を背に寄りかかりタバコを吹かす久保田がこちらを見ていて、はっとする。
「え、久保ちゃん、いいのか?」
時任も目を大きくして久保田を見遣る。そこで工藤は、久保田が自分に賛成してくれたのだと、遅れて理解して顔を輝かせた。
「やった!そうこなくっちゃな。よし、じゃあ昼前には出ようぜ」
「マジいいのかよ、久保ちゃん」
「う―ん、まぁ、いいっしょ。一日くらいなら。でもマネ―ジャ―さんには内緒の方がいいかもね」
「まぁ、そ―だな」
こういうことに珍しく賛同した久保田に時任は首を傾げながらも、遊園地という楽しみに浮き足立っていた。