「うぅ〜〜〜っ、あったまいったぁぁぁ・・」
目を覚ますと同時に襲いかかる激しい頭痛。俺は思い切り顔をしかめながら、頭を手で押さえ何とか体を起こし、あたりを見回した。
「・・オレ、どうやって帰ったんだ・・?」
そこは、間違いなく俺の部屋で。酔っぱらって帰ってきた割に服はきちんとハンガーにかかっていて、部屋着にまで着替えている。記憶が無いなりにちゃんとやってる俺ってすごくねぇ?と感心するけど、二日酔いだけはどうにもならない。ウッとこみ上げる吐き気を覚えて、口を押さえた。
どうやら昨夜はかなり飲み過ぎたらしい。
誰もいない部屋で、砂漠でオアシスを求めるかのように一人唸る。
「きもちわる・・、み、水・・」
「はい、どーぞ」
すると目の前に、ミネラルウォーターのペットボトルが突然現れた。よく冷えたそれを、ゴクゴクと一気にあおる。
「ぷはーっ、生き返ったぁ。さんきゅ・・」
一息ついて、そこでようやく我に返った俺・・。
一人暮らしのマンションの部屋に、当然水を持ってきてくれるようなヒトはいるはずもないわけで。
俺の寝ていたベッドサイドで、座り込んでいた誰かと目が合って、一瞬、時が止まった。
「「・・・・・」」
「・・お、お、おま・・えっ!?」
「おはよ、気分はどうかな、時任クン?」
のんきな声と眼鏡からのぞく細い目。そいつは、何かにつけて俺をからかいにやってくる、俺のクラスの生徒。
クボタマコト―――・・
「って!!??く、く、久保田!!??な、なんでっ!??」
あまりの驚きに上手く言葉にならないまま声を上げると、その声が響いてズッキンと、頭痛が増す。
「いってぇっ!」
「あーあ、大丈夫?」
カオをしかめた俺を、覗きこむように悠長に聞いてくる久保田。っつーか、それどこじゃねぇだろ!
「大丈夫じゃねぇよ!なんでお前がここにっ、俺の部屋にいるんだよっ!?」
ようやく出た問いに、久保田はきょとんと目を丸くした。
なんだよその、のほほーんとした顔はっ!まったく意味が分からないっていうようなトボけた顔されると、なんだか俺の方がどこかおかしいんじゃないかと思わされる。
いや、違うだろ。だって確か昨日は、先生達に歓迎会を開いてもらって・・、それから・・
「もしかして、覚えてないの?」
「な、何をだよ?・・なんも、覚えてねぇ・・」
「・・・昨夜、橘に送ってもらったことは?」
「あー、それは、なんとなく・・」
「・・・ふーん。まったく時任君って、ホント隙だらけだよねぇ」
「は・・?なんだよそれ!なんでンなこと言われなきゃなんねぇんだ?」
「送り狼には気をつけなってこと。危険人物かどうかぐらい見分けないと。」
「はぁ・・?」
キケンジンブツ?それって不法侵入しているお前の方なんじゃ?
―――わけ、わかんねぇ。まったく説明になってねぇし。
「だから、なんでお前がココにいるんだよ?」
「オレ?鍵を無くして、マンションの下で酔いつぶれていた時任クンを助けてあげるのも、オレの役目かなと」
「・・なんだそれ。鍵無くしてお前どうやって入ったんだ?」
「ああそれは簡単。ピッキングってやつね。犯罪ではないっしょ?世帯主が一緒なんだし。」
ああ、本人が泥酔状態じゃ、それは仕方ねぇ・・。
っじゃあなくてっ!!
「んなわけあるか――っ!!なんで高校生が簡単にピッキングなんてできんだよっ!?嘘ばっかつきやがって!!だいたいなんで俺の家を知ってんだっっ!!?」
まったく、こいつはいっつもいっつも、人をからかうことばっか言いやがる。なんでこいつがここを知っているかは置いといても、大方、無くした鍵を見つけて入れたに決まってる。
「嘘じゃないんだけどなぁ・・」
のほほんと呟く久保田に、それ以上怒る気力も失せた。
「あらら、大丈夫?」
二日酔いの体に、急激な血圧上昇は危険らしい。
重い身体をぐったりとベッドに沈ませたオレを、上からのぞき込む細目。もう返事をする気にもならない。
「・・もーいいから帰れよ。世話になったみたいだけど、休みの日くらいゆっくり寝てぇから」
「・・なに、時任クン。何か怒ってる?」
「べつに、怒ってなんかねぇよ」
「勝手に家に入ったこと?」
「だーからっ、怒ってねぇってば!」
「ほんとに〜?」
「〜〜〜っ!」
都合のイイときだけガキみてぇに、しつこく聞いてくる相手に俺はプッチンキレた。
「なんもねぇよ!!お前が俺より背が高くて、フケてることとか!生徒のくせにヒトをからかうとことか!ぜんっぜん気にしてねぇっつーのっ!!!」
「・・・気にしてるじゃない」
「うるせぇ!早くでてけっ!!」
「・・・」
言ってから、「あ、やべ」と思った。少しキツく言い過ぎただろうか。俺は仮にも教師だったことを今頃思い出す。
久保田は急に黙って、そしてゆっくりと立ち上がってドアの方へ向かう気配がして・・。
「・・じゃあ、行くね。ポカリも、冷蔵庫入れてるから」
そう言った瞬間、ズキンと胸が痛んだ。
よく考えればこいつは俺のために、こうして部屋に運んでくれたんだよな。(覚えてねぇけど)泥酔して、迷惑かけて・・。
「あ、あのさ、くぼ・・」
「ああ、それから。何かほしいモンとかあったら、言ってね。俺、上にいるから」
てっきり落ち込ませたかと思っていた久保田の振り返ったカオは、思いのほか明るくて、俺は言葉の意味が分からず唖然と聞き返した。
「・・・う、え?」
「そ。この上の401号。俺の部屋だからさ」
(・・・・・・・・・・・・・)
「なに―――――っ??!!」
たっぷり考えこんで、出た言葉はさらに俺の頭をひどく痛ませた。