新米教師ビンビン物語【3】

 


 

「うぅ〜〜〜っ、あったまいったぁぁぁ・・」


目を覚ますと同時に襲いかかる激しい頭痛。俺は思い切り顔をしかめながら、頭を手で押さえ何とか体を起こし、あたりを見回した。


「・・オレ、どうやって帰ったんだ・・?」


そこは、間違いなく俺の部屋で。酔っぱらって帰ってきた割に服はきちんとハンガーにかかっていて、部屋着にまで着替えている。記憶が無いなりにちゃんとやってる俺ってすごくねぇ?と感心するけど、
二日酔いだけはどうにもならない。ウッとこみ上げる吐き気を覚えて、口を押さえた。
どうやら昨夜はかなり飲み過ぎたらしい。

誰もいない部屋で、砂漠でオアシスを求めるかのように一人唸る。

「きもちわる・・、み、水・・」

「はい、どーぞ」


すると目の前に、ミネラルウォーターのペットボトルが突然現れた。よく冷えたそれを、ゴクゴクと一気にあおる。


「ぷはーっ、生き返ったぁ。さんきゅ・・」


一息ついて、そこでようやく我に返った俺・・。

一人暮らしのマンションの部屋に、当然水を持ってきてくれるようなヒトはいるはずもないわけで。

俺の寝ていたベッドサイドで、座り込んでいた誰かと目が合って、一瞬、時が止まった。


「「・・・・・」」



「・・お、お、おま・・えっ!?」

「おはよ、気分はどうかな、時任クン?」


のんきな声と眼鏡からのぞく細い目。そいつは、何かにつけて俺をからかいにやってくる、俺のクラスの生徒。

クボタマコト―――・・


「って!!??く、く、久保田!!??な、なんでっ!??」


あまりの驚きに上手く言葉にならないまま声を上げると、その声が響いてズッキンと、頭痛が増す。


「いってぇっ!」

「あーあ、大丈夫?」


カオをしかめた俺を、覗きこむように悠長に聞いてくる久保田。っつーか、それどこじゃねぇだろ!


「大丈夫じゃねぇよ!なんでお前がここにっ、俺の部屋にいるんだよっ!?」


ようやく出た問いに、久保田はきょとんと目を丸くした。
なんだよその、のほほーんとした顔はっ!まったく意味が分からないっていうようなトボけた顔されると、なんだか俺の方がどこかおかしいんじゃないかと思わされる。

いや、違うだろ。だって確か昨日は、先生達に歓迎会を開いてもらって・・、それから・・


「もしかして、覚えてないの?」

「な、何をだよ?・・なんも、覚えてねぇ・・」

「・・・昨夜、橘に送ってもらったことは?」

「あー、それは、なんとなく・・」

「・・・ふーん。まったく時任君って、ホント隙だらけだよねぇ」

「は・・?なんだよそれ!なんでンなこと言われなきゃなんねぇんだ?」

「送り狼には気をつけなってこと。危険人物かどうかぐらい見分けないと。」

「はぁ・・?」


キケンジンブツ?それって不法侵入しているお前の方なんじゃ?

―――わけ、わかんねぇ。まったく説明になってねぇし。


「だから、なんでお前がココにいるんだよ?」

「オレ?鍵を無くして、マンションの下で酔いつぶれていた時任クンを助けてあげるのも、オレの役目かなと」

「・・なんだそれ。鍵無くしてお前どうやって入ったんだ?」

「ああそれは簡単。ピッキングってやつね。犯罪ではないっしょ?世帯主が一緒なんだし。」


ああ、本人が泥酔状態じゃ、それは仕方ねぇ・・。

っじゃあなくてっ!!


「んなわけあるか――っ!!なんで高校生が簡単にピッキングなんてできんだよっ!?嘘ばっかつきやがって!!だいたいなんで俺の家を知ってんだっっ!!?」


まったく、こいつはいっつもいっつも、人をからかうことばっか言いやがる。なんでこいつがここを知っているかは置いといても、大方、無くした鍵を見つけて入れたに決まってる。


「嘘じゃないんだけどなぁ・・」


のほほんと呟く久保田に、それ以上怒る気力も失せた。


「あらら、大丈夫?」


二日酔いの体に、急激な血圧上昇は危険らしい。

重い身体をぐったりとベッドに沈ませたオレを、上からのぞき込む細目。もう返事をする気にもならない。


「・・もーいいから帰れよ。世話になったみたいだけど、休みの日くらいゆっくり寝てぇから」

「・・なに、時任クン。何か怒ってる?」

「べつに、怒ってなんかねぇよ」

「勝手に家に入ったこと?」

「だーからっ、怒ってねぇってば!」

「ほんとに〜?」

「〜〜〜っ!」


都合のイイときだけガキみてぇに、しつこく聞いてくる相手に俺はプッチンキレた。


「なんもねぇよ!!お前が俺より背が高くて、フケてることとか!生徒のくせにヒトをからかうとことか!ぜんっぜん気にしてねぇっつーのっ!!!」

「・・・気にしてるじゃない」

「うるせぇ!早くでてけっ!!」

「・・・」


言ってから、「あ、やべ」と思った。少しキツく言い過ぎただろうか。俺は仮にも教師だったことを今頃思い出す。

久保田は急に黙って、そしてゆっくりと立ち上がってドアの方へ向かう気配がして・・。


「・・じゃあ、行くね。ポカリも、冷蔵庫入れてるから」


そう言った瞬間、ズキンと胸が痛んだ。

よく考えればこいつは俺のために、こうして部屋に運んでくれたんだよな。(覚えてねぇけど)泥酔して、迷惑かけて・・。


「あ、あのさ、くぼ・・」

「ああ、それから。何かほしいモンとかあったら、言ってね。俺、上にいるから」


てっきり落ち込ませたかと思っていた久保田の振り返ったカオは、思いのほか明るくて、俺は言葉の意味が分からず唖然と聞き返した。


「・・・う、え?」

「そ。この上の401号。俺の部屋だからさ」


(・・・・・・・・・・・・・)

「なに―――――っ??!!」


たっぷり考えこんで、出た言葉はさらに俺の頭をひどく痛ませた。

 


 

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