――くそっ、不覚だった。
こいつらが何者か分かねぇけど、俺の手にあったWAの資料はさっきやりあっている間に道路脇の茂みに投げて、念のために相手に渡らないようにした。
俺にしちゃよく頭が回ったモンだ。
くっそーっ、久保ちゃんに連絡しようにも携帯奪われちまったし・・、だいたいこいつら何モンなんだ!?
WA追ってる奴ら・・出雲とか東条のやつらか?
時任と滝沢は男らに連れられるまま、どこか埠頭の、一番奥の倉庫のような場所へ連れてこられていた。
部屋には男が数名、銃を手にしたまま、こちらを見張っている。
時任の腕は太い鋼線のようなもので後ろでに縛られ、身動きが取れない状況だった。
何よりも、少し離れた位置に縛られて横たわっている滝沢の様子が、気がかりだった。
「タキさん、大丈夫かっ?」
拉致される時に何かで殴られたようで、滝沢は頭から血を流してぐったりと意識を失っていた。息をしていることを確認して、とりあえずほっとする。
やべぇな・・顔色悪りぃし、早くモグリにでも診てもらわねぇと・・、
つーか、ここはどこなんだ?
埠頭の倉庫らしいのは分かったけど、あとはさっぱりだ。
「一体、なんだってんだよ」
時任は小さく息を吐いて、相方の顔を思い浮かべた。
――久保ちゃんから電話があってから、どのくらい経っただろうか?
少なくとも半日は経ってるはずだし、心配してんだろな・・。
マンションで待っているのかな、いや、久保ちゃんのことだから、どうにかして俺を探してるだろう。
時任はそこまで考えて、注意深く部屋を見渡してみた。
入ってきた扉と、部屋の窓、他に出口がないかを探す。
ち・・武器になりそうなモンもねぇし、窓からじゃ出られそうもない。入口ったって、そもそもタキさん担いで逃げれっかな・・。
脱出の方法を考えてみたが、どれも無理があった。
その時だった。
「代行、こちらです」
見張りの男らが深々と頭を下げて”代行”と呼ばれた人物がその部屋に現れた。
「子猫ちゃん、お久しぶりね」
「・・お前・・・」
その男は、以前にやりあったことのある、たしか、関谷とかいう名の東条組代行。
「俺になんの用だよ」
不快に顔をしかめながら、関谷を睨みつけると、関谷は表情を変えずに言った。
「連れの男も殺さずに連れてきてあげたんだから、少しは感謝なさいよ」
「ふざけんな、タキさんを放せよ、俺に用なら俺だけでいいだろうがっ!」
「そうはいかないわ。その男放したら君、暴れるでしょ?君の右手ならその特殊鋼線をちぎることも可能でしょうしね」
関谷の言葉で、やはり狙いは時任だったことがわかる。
―タキさんは人質ってわけか・・、俺のとばっちりで、こんな目に・・!
怒りに震える両腕を縛める太い鋼線がギリギリと音を立て、いまだ外れはしないものの関谷がその様子を楽しそうに見ていた。
―東条もWAを追ってるって言ってた。俺が何か知ってると思ってるのか?
「・・俺に何の用だ」
時任がそれだけ聞くと、関谷は見透かしたように答えた。
「フフ・・君に情報なんて求めちゃいないわ、用があるのは君の身体・・よ」
「・・は・・!?」
関谷の予想外の返答に、ピシッと音を立つかのように身体が固まる。
「てってめぇっ俺をどーするつもりだっ!!」
思わずさぶいぼをたてながらそう言うと、関谷は気色の悪い顔でニヤリと笑った。
「ふふ、君、アタシのタイプじゃないから安心しなさいよ」
そう言ったかと思うと、つかつかと時任に近寄り、顎を掴むと強い力で引き寄せた。
「・く・・」
時任は無理な体勢で為すすべなく、関谷と視線を合わせる。
「ねぇ、君、・・”奥井”って男、覚えてる?・・”おくいあきよし”」
「・・は?ダレだそれ?覚えてるも何も知らねぇよ、放せよっ、カマ野郎!」
「ふふ、口の悪い子ねぇ」
「ぐっ!!」
突然腹を思いっきり蹴り上げられ、息が詰まる。
「教えてあげるわ・・その人はねぇ、君の過去をよく知っている人よ」
さらに殴りながら関谷は楽しそうに言った
「な・・に言って、お前・・何を!?」
「ふふ、記憶がないってのは本当みたいね」
「!!」
時任は関谷の思わぬ言葉に驚き、大きく目を見開いた。
――こいつ・・?俺に過去の記憶がないことを知っている・?
今、何て言った?・・奥井・・あきよし・・?
こいつの言い分に乗るのもしゃくだと思いつつ、頭の中でその名をはんすうしながら、記憶を辿っても、やはり思い当たるふしはなかった。
「知らねぇ・・」
「あらそう?残念ね、思い出せないのか、それともカレは偽名なのかしら?」
・・俺の過去を良く知る人・・だ?
マジでそうだとしても、俺は自分の名前さえ覚えてねぇのに、思い出せるわけねぇっつーの!
・・けど、そいつが・・俺のことを何か知ってる・・?
「ぐっ・・げほっ!」
その間も関谷に俺は為すすべなく殴り続けられ、口に溜まった血が床に飛び散る。
「やだ、汚いわねぇ・・ん?」
扉の向こうのざわつきに気付いた関谷がようやく時任から離れたとき、男が部屋に血相を変えて飛び込んできた。
「代行!侵入者です!男が一人ここに向かっており、既に数名殺られたようです!」
「侵入者?」
そのときどこからか、数発の銃声とともに男たちのうめき声が聞こえた。
「!」
・・・久保ちゃんだ。
姿は見えなくても、間違いなく久保田が来たのだと時任は確信した。
相手に隙を与えることもなく、一発で確実に相手をしとめている。
その男たちのくぐもるような声は銃声と共にだんだんこちらに近づいてきていた。
「何してんのよっ、この役立たずどもがっ!」
関谷は部屋にいた男らを全て侵入者の元へと行かせると、時任を見て目を細めた。
「君の飼い主のご登場のようね」
「・・アイツは絶対にここに来る」
時任がそう呟くと、
「そうねぇ、けれどアタシが殺せるかしら?」
関谷は虫唾が走るような笑みを浮かべながら、床に這いつくばる時任の顎に銃口をあて、上を向かせ、悦に入るように言った。
「ワイルドカードはアタシの手にあるんだもの」
そのときだった。
バァーンッッ!!
部屋に一つしかない出入り口の扉が大きな音を立てて吹っ飛んだ。
「!!」
「!」関谷が舌打ちした。
「――久保ちゃんっ!」
そこには思ったとおり、扉を蹴破って入ってきた、久保田が立っていたのだ。