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恋愛事情【2】
「時任先輩とは何でもないんですよね?だったら・・、私と付き合ってもらえませんか?」
真っ赤な顔をした俯きがちな女の子を目の前に、おかしなこと言うなぁと久保田は首を傾げた。確かに自分と時任は恋愛関係でいうなら”何でもない”。だが大事な相方であることには変わりなかった。たとえそれがただの男同士の友情であっても、久保田にはどうでも良かったのだ。
恋人として付き合っていようがいまいが、一番近くにいてほしい人は時任だけだった。何でもなくとも、時任よりも近くにほかの誰かをおくということ自体、久保田には考えられなかったのである。
いつも自分に告白してくる女の子達はこぞって時任の名前を口にし、二人が恋人じゃないのなら付き合ってほしいと言ってくる。久保田にしてみれば首を傾げるしかないのだ。
久保田の返事を待つ女の子の華奢な体は、ふっくらと膨らんだ豊かな胸とくびれた腰、サラサラの長い髪をしていた。男であればおそらく”守ってやりたい”と思わせるタイプだろう。しかし久保田にはそれの何一つ見えていなかった。正確に言えば何一つ魅力的に見えなかったのだ。
「・・悪いけど、俺、つき合えないわ」
ゆっくりと、けれどはっきりと発せられた久保田の言葉に、女の子は涙声で「・・分かりました」と答えた。普通ならその理由を聞くのかもしれない。しかし久保田には聞けなかった。はっきりと断った久保田の目は、あまりにも冷たく人を突き放すような印象さえ受けたのだった。こうなれば諦めるしかないと涙する者がほとんどだろう。久保田もまた例え憎まれようと、はっきりと断ることが誠実なのだと分かっていた。
だが、実は今回はそれとも違った感情が交じっていたことも事実だった。返事をしようと思った時、視線を感じふと顔を上げた。遠目で見にくいものの、それが時任であることはすぐに分かった。そしてそのすぐ隣にいる橘の姿もしっかり捉えていた。久保田は滅多に見ないツーショットと、時任の大きく開かれた瞳に胸がドクリと騒いだのを感じ、気づけば女の子に冷ややかな態度をとっていたのだった。
怯えたような潤んだ瞳の女の子に、久保田は「まずったかなー」と必要以上に傷つけてしまったかと思いこそしたが、女の子が去った後、時任の後を追って橘の姿を見かけた時には、告白のことなどすっかり忘れていた。
橘の表情がいつもと違っていたことにまず足を止めた。
時任が橘を苦手だと思っているのは知っている。それこそ猫が犬を避けるように、廊下でばったり会っても迷わず脇を通りすぎるはずだった。しかしこの日の二人の様子は違っているようだった。時任は困ったように眉を寄せながらもどこか照れたように橘を見ると、その肩を軽く叩いて「付いて来い」と言う。久保田は小さく目を張る思いだった。そして同時に何か苦々しい感情が沸き起こるのを感じていた。それはまるでドス黒いシミのように、久保田の胸の中で拡がっていったのである。
「誠人か、どうした?」
生徒会本部に一人いた松本は、いつものように会長席に腰掛けておらず、窓の外でも覗いていたのか久保田に気づくと振り返って笑みを浮かべた。
「いんや別に。たまには会長サマの機嫌でも取ってみようかと、ね」
「ふ、それはそれは、どういう風の吹き回しかな。お前にはあり得ない言動だな。」
口元に笑みを浮かべた松本だったが少し驚いたように言って見せると久保田も肩をすくめた。
「時任君は一緒じゃないのか?」
松本がそう聞くと久保田の目は眼鏡が反射したせいか表情も読めなくなる。
「たぶん、お宅の副会長さんに誘惑されてる・・かな」
「・・ふ・・、なるほどな。」
「・・・なるほど?」
「いや、すまない。俺たちの諍いにどうやら巻き込んでしまったようだな。・・つい先ほど、橘とちょっとした言い争いをしてしまったのだ。俺のせいで橘を傷つけてしまった。・・恐らくそのことが原因で時任君と一緒にいるのだろう。」
「・・・」
そこまで言って松本は、久保田の表情が変わった気がして急いで付け足すように言った。
「しかしいくら何でもお前が心配するようなことはないはずだぞ。」
「ふーん、で、なんで時任なの?」
「・・実は、これを見てくれ」
そう言うと上着の内ポケットから黒い手帳を取り出し、挟んであった一枚の写真を久保田に差し出す。
「・・懐かしいもの持ってんのね」
そう言って、遠くを見るかのように糸目の瞳をさらに細めた久保田に、松本も自然と頬を緩めていた。
そこには中学時代の松本と久保田の姿があった。荒磯中学での執行部時代のものである。卒業式に執行部全員で撮ったものだった。当時の執行部員は他に3人と、中学ということもありそこには担当教師も写っているはずだった。
「で・・?何で破れてんの?」
久保田の疑問は最もだった。集合写真の半分は古い折り目で切れたように破れ、写っているはずの他の人物らがいない。そこに写っているのは残った半分に写っていた久保田と松本の姿のみだった。つまり松本は自分の手帳に、久保田とのツーショット写真を挟んでいたことになる。
松本は白い目で見られる前にと、急いで口を出した。
「お前も誤解するなよ。それは俺のせいじゃない。先日荒磯中学の交流会にOBとして参加した際、先生から渡されたものだが、もらった時から破れていたのだ」
表情は変わらない久保田だが、実は安堵していた。元相方であり、キングオブ狸ともいえるこの松本が、自分の写真を大事そうに持っていたとなると、久保田でなくとも鳥肌ものである。
「ふーん、よく残ってたね、こんな写真。俺も持ってないし」
そりゃそうだろうと松本は思った。久保田の場合は中学の写真は卒業写真しか持っていない。イベントごとに各自で注文するスタイルだったせいか、全く興味のない久保田は、そんなことすら知らずにいたのだった。
「お前はいつもそうだったな。これは先生がそういうお前にやろうといつか渡そうと取っておいた物らしいぞ。しかし折り曲げたまま風化させてしまったのか、気づいたらこんな状態だったらしい。かといって捨てるのは忍びないと思っていたところ、俺に会い、渡したというわけだ。」
二人で写った写真など久保田がもらって嬉しがるはずなどないと分かってはいたが、つい受け取ってしまった松本だったのである。
「なるほど、律儀な先生だぁね」
「ふ、まぁ、案外わざと破ったのかもしれんな。あの先生は誠人を気に入っていたからな。ちょうど真ん中で破れたかのように見せかけて大事に持っていたのかもしれんぞ。」
「モテる男って罪だよね」
半ば嫌がらせのように推理をしてやった松本だったが、久保田の反応は飄々としたものである。
「で?そんなこんなで、この写真を見つけた橘が誤解して夫婦喧嘩になったと?」
「まぁ、そんなところだ。」
松本は橘との言い合いを思い出したのか、苦笑いを浮かべた。
「今みたいに説明したらいいじゃない」
「もちろんしたさ。何度も。だが橘はお前の事に関しては、少し疑り深いらしい。元相方という肩書きのせいか、よくお前のことでつっかかるのだ」
「ふーん・・・。犬もくわない話だけど。何でそこから時任に飛び火するかなぁ?」
納得いかないとばかりに大げさに首を傾げてみせる久保田に、松本が意味ありげに微笑んで言った。
「それはお前が一番よく分かっているんじゃないか?お前をよく思ってないあいつが、お前に嫉妬させたいのか・・。それとも・・・。まぁ、あいつは時任君のことは気に入ってるようだからな」
「迷惑だなぁ。」
芝居がかった久保田の感想だったが、心底迷惑だと思っていた。橘の思惑通り、橘と時任の様子を見た久保田は既に嫉妬していたのだ。久保田にとってもそれは思いがけない感情であった。元々、久保田は嫉妬などするタイプではない。たとえそれが恋愛であれ友情であれ・・。しかしいつか嫉妬するほど好きになる人物が現れれば、それが恋愛なのだろうとぼんやり思っていた。久保田は万事に慣れているように見えて、自分の気持ちに関しては時任よりも鈍感なのかもしれなかった。
「まぁ、その写真いらなければそちらで処分してくれ」
いらないんだけどなぁと心で呟きながら、久保田は一応聞いておきたかった問いを投げかける。
「でもさぁ松本、橘が本気で時任を口説いてたらどうするつもり?」
すると松本は笑みを濃くし、雄々しく堂々と言い放った。
「お前達には申し訳ないが、橘が時任君をどうこうすることはあり得ない。橘は・・、あいつは俺に惚れているからな。」
「それはそれは、どーもゴチソウサマでした~」
聞いた俺がバカデシタとばかりに、そそくさと部屋を出た久保田だった。
・・・続きます(^_^;) 狸や狐とか悪口言ってごめんなさい;
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