桜色【1】
春―、全ての始まりを思わせる一年で最も美しい季節
その代名詞ともいえる薄ピンクの花が校庭を華やかに彩っている
開け放たれた正門からは、真新しい制服に身を包んだ初々しい生徒達で賑わっていた
そんな中、桜の木に寄りかかっている、ひょろりと背の高い男がいた
学ランを着ていなければ絶対に高校生にも見えないその男は、堂々と慣れた仕草で煙草に火をつける
そんな様子を窓から見渡していた俺は、苦笑いの混じったため息をつく。が、その男が咥えていた煙草を横からのびた手が奪い取ったの目撃し、少し目を見開いた
ちょうど桜の幹が邪魔をして、その手の人物を確認できないが、同じ学ランを着ていたから、ここの生徒だろう
俺は、その生徒に思い当たる節があった。それを確かめようと顔を屈めると、聞きなれた声に呼び止められた
「松本会長、もうじき入学式がはじまります、ご用意を」
「・・ああ」
俺、いや私の名は、松本隆久。ここ荒磯高等学校の生徒会会長を1年の頃から務めている
私は荒磯中学校時代では1年から生徒会執行部に所属し、3年には生徒会長を務めていたこともあり高等部に上がると同時に引き続き会長職に就任した
そしていつも私の横に控えるように立っているこの男は、副会長の橘遥
文武両道なこの男は、私の右腕であり、親友であり・・そしてそれ以上の存在でもあった
橘は高等部からの編入生であったが、武道に長ける上、成績優秀であったせいか、
すぐに当時不在だった副会長の任を任されたのだった
そしてそれから1年後、2年生にあがった私達は、新1年生を迎えるべく本日、入学式を行う
「・・可愛らしい新入生達ですね」
「あぁ、そうだな・・、・・・?な、なんだ?」
橘の微笑みに素直に頷くと、その目が怪しく光ったことに気づき、ドキリと後ずさりをする
こういう目をする時は、少なからず身の危険を感じると、公務外での自分が判断をしていたからだ
「新入生というよりも・・あの目立つ彼を見ていたように思いますが・・?」
「し、心配するな。変な意味はない。あいつが本当に来るとは思わなかったからだ。」
「・・久保田誠人・・君ですか、中等部での同級生だったんですよね」
「ああ、同じ執行部でパートナーを組んでいた。もっとも、高等部にあがってからアイツは一度も登校していなかったから久しく会ってはいないがな」
「パートナー・・ですか。それは今の私のような存在ということでしょうか?」
「・・た、橘、妙なつっかかりはよせ。誠人とはなんでもない。お前も知ってるだろう?俺が気になっているのはあいつじゃなく、あいつが俺に頼んだ例の生徒のことだ。」
「ふふ、そうでしたね。いえ、すみません、ただ妬いてるだけですから」
どこまで本気か分からない橘の微笑に、まったく、と苦笑いに眉をしかめるが、橘が不審に思うのも理解できることだった
松本は真っ直ぐな性格でとにかく何事も正しく、誠実な男であった
久保田誠人という男からの有り得ない頼みを松本が了承したこと自体、橘も驚いていたのである
その有り得ない頼みとは・・、それは、ある少年を、荒磯高等学校に通わせること―、だった
歳は久保田らと同じ17歳、至って普通の少年であるとのことだが、一つだけ問題なのは、”戸籍が不明”ということだった
現代の日本ではなかなか有り得ないことであったが、その少年は出身も出生も名前も過去も一切不明な、なんと、記憶を失った少年だというのだ
久保田が中学時代から一人暮らしをしていたことは知っていたが、卒業してからは
学校に来る事も無くなり、その後消息を知る者は誰も居なかったという。ところが、つい先月、久保田は久しぶりに松本に連絡をよこしたのだった
そして記憶喪失の謎の少年を自分と一緒に高校に通わせたいと申し出、松本を驚かせたのだった
そもそも、そのような依頼を会長とはいえ一生徒である松本に依頼したのには理由があった
松本の父親は名の知れた財閥の富豪であり、荒磯中等・高等部の理事長でもある
寛大な理事長により作られた学校は校風も自由で、学校における実権はほとんど、息子であり、生徒会の会長である松本に任せられていたのだった
中学で執行部のコンビを組んでいた久保田はそれを知ったうえで、松本を頼ったのだった
「おい、誠人、一体それはどういうことなんだ?そんな正体の分からない少年と、どこで知り合ったというのだ?」
「うーん、行き倒れてるところ、拾ったんだけど・・」
「な・・!?それが本当なら何故警察に連絡しなかった?」
「・・なんでかなぁ、俺も不思議」
「はぁ、全く、久しぶりに連絡してきたと思ったら、お前は・・」
「・・ごめん、ただ・・・、俺、あいつに普通の生活、させてやりたいんだよね・・」
「・・・」
「・・自分のことすら分からないあいつに俺が出来る事って、一緒に普通の思い出、作ってやるってことぐらいだから・・」
「・・誠人、お前・・」
松本は初めて聞く久保田の真剣な声に、驚きを隠せなかった。中学の3年間、パートナーを組んでいたとはいえ久保田は底の知れない、掴めない男であった。いつも穏やかで、飄々としていて、誰にでも優しかった
何故かケンカも運も強く、頭も切れる上、見た目も良いせいで、誰からも好かれる存在でもあった
しかし久保田は恐らく誰にも、何にも興味は無かったのだろう。それが松本の見解だった
しかし、そんな久保田が頭を下げてまで人に何か頼みごとをしている、それ自体、松本にはかなりの驚きだったのだ
そしてその驚きは、事情があるらしいその少年と久保田の力になってやりたいという気持ちに変わっていったのである
松本は、橘だけに事情を話し、架空の戸籍の写しを元に、4月からの編入の手配を整え、そしてようやく今日という日を迎えたのだった
いくら学校の実権を握っているとはいえ、そんな偽装の事実がばれれば松本も学校も無事では済まない
しかし、それでも松本は二人のために、久保田の願いを聞き入れたのだ
橘は松本の判断ならと、手伝いを請け負ったが、やはりそんな久保田と松本の関係を少し疑ってしまっていた。だが、そんな橘の思いも知らずか・・・、松本は願いを受け入れる代わりに、一つ条件を出していた
そして、その条件こそが、これからの荒磯高校に大きな影響を及ぼしていくことになるのだった
勝手な設定ですね;すみません(/□≦、)まだ続きますっ
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