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桜色【2】
「~く~ぼちゃんっ!だから学校で煙草はダメだってんだろっ!」
自分より頭一つ高い隣の男を睨むように見上げると、叱る様に男の口から煙草を奪い取った
くぼちゃんと呼ばれたその男、久保田誠人は、17歳とは思えぬ風貌で、のほほんと目を細める
「えー、だって口寂しいんだもん」
「ったく、コーコーセーっていう自覚あんのかよ~」
「時任~、返して~」
「・・重-いっ・・ったくしょーがねーな、教室では絶対吸うなよっ」
「ほーい」
桜舞い散る木の下で、妙に絵になる二人の少年は、周囲に居た新入生らに異様な注目を浴びていた
堂々と学校で煙草を吸っているということで視線を浴びてるわけではない
一見、彼らのやり取りはなんでもない男友達の会話のように聞こえる。けれどそれだけじゃない、何かがあるようだった
久保田が奪い取られた煙草を取り返そうと、肩に抱きつきながら優しく微笑み、それに照れたように頬を赤くした少年との、とてつもなく妖しい雰囲気が桜に彩られ見えて、まるでピンク色のオーラのように周囲を包んでいたのである
久保田は大人っぽい上、背が高く、ルックスが良いためか男女問わず新入生やその保護者の熱い視線を受けていた
一方、時任と呼ばれた少年は切れ長の瞳で綺麗な顔をしており、どちらかというと男らの視線を多く浴びているようだった
二人ともそんなことは気にする様子もなく、楽しげにじゃれている
まぁ要するに、ただいちゃついているようにしか見えないのだが・・
時任は、松本会長の計らいでこの荒磯高等学校に編入という形を取る事になった。今日は新一年生の入学式ではあったのだが彼らは2年生なのでもちろんそれに出席するわけではなく、その編入の手続に来たのだった
手続を済ませ、久保田は新しい教科書を買うべく、購買部へと向かっていた
「時任稔君だね?」
「・・・そうだけど、あんた誰?」
久保田を校内の裏庭で待っていた時任を振り向かせたのは、生徒会長の松本だった
松本の計らいなど知りもしない時任は自分の名を知る男を訝しげに見る
・・・この子が誠人の拾った大事なものか・・、
強気な瞳が印象的で、降り散る桜にも負けぬ綺麗な顔をしていた
「荒磯高等学校2年、生徒会長の松本隆久だ。誠人はどうした?」
「・・・生徒会?・・久保ちゃんの知り合いか?」
「ふ、そんな警戒しなくていい。誠人とは昔からの腐れ縁だ。君のことも誠人から聞いている。」
「久保ちゃんに?」
久保田の知り合いと聞いたせいか時任はほっとしたように顔を緩める
が次に口を開こうとした時、突然、どこからか女性の悲鳴が聞こえ、はっとしたように二人は身構えた
「っ、なんだ!?」
「体育倉庫の方かっ!っ!! ・・時任君!?待つんだ!」
時任は松本が動くよりも速く、悲鳴が聞こえた方へと走り出していた
止める声を無視して、ものすごい速さで駆けていく
体育倉庫裏へ回ると、そこには女生徒が2人、柄の悪い男達に囲まれていた
女の子は真新しい制服を着ていて今日入学式を済ませたところだろう、男達は煙草を吸いながらも学ランを気崩しているところから荒磯の生徒に間違いないようだった
「そんな大声出さないでよ、俺は君らの先輩なんだぜ~、ちょっと付き合ってよ~」
「は、放して下さいっ」
その男の一人がニヤニヤと笑みを浮かべ、嫌がる女の子の腕を握っていた
「てめぇらっ!!何してやがるっ!!」
時任はいち早くその現場に着くと、男達を怒鳴りつけ堂々と割って入っていったのだった
「あ?誰だお前?殴られてぇのか!」
時任はそれに臆することもなく男の腕を掴むとギリリと捻り上げる
「がっ!いだだだだだっ!!」
「お前らっ今のうち逃げろ!」
「てってめえっ!!」
不良たちは、そうはさせまいと、一斉に時任に殴りかかっていった
しかし時任は一歩も後ずさることなく、右に左にその拳を避けると、鋭い拳をくらし
次々に一撃で相手を沈めていったのだった
ほんの数十秒後、駆けつけた松本が見たものは転がる不良たちの中、一人立っている時任だった
・・・足の速さだけじゃない、こんな短い間にたった一人で、これだけの人数を相手に、かすり傷すら無いとは―
松本は驚いたように目を張った
「あっありがとうございました!」
涙目の女の子達のお礼に、時任はぶっきらぼうに「別にいいよ」とだけ答える。そしてその場を離れようと背を向けた瞬間、わずかな物音と共に怒鳴り声が聞こえた
「くそやろう!くらえー!!」
地に這いつくばっていた男の一人が、近くにあった重い角材を手に殴りかかってきたのだった
「時任君!危ないっ!!」
松本が駆け寄るがとても間に合わない
「くっ!!」
振り返った時任の耳に、松本と女の子の叫び声が聞こえる。瞬間迫り来る男に蹴りを入れようとするが女の子らが側に居た為か、時任はただ動かず、防御のために腕をクロスさせ受け止めようとした
しかし予期した衝撃が時任に訪れることはなかった。代わりに何かが素早く男の腹にめり込んだのである
「ぐがぁっ!!!」
男は悲痛な声を上げると、そのまま横に吹っ飛んだ
「!」
「・・・・久保ちゃんっ!」
時任のすぐ目の前に、突如現われたのは、久保田誠人だった
「悪いねぇ、足しか空いてないもんで・・」
久保田は両手に購入したばかりの教材を抱えたまま、男の脇腹に容赦ない蹴りを入れたのだった
転がった男は声にならない悲痛な唸り声を出しながら、うずくまっていた
久保田が現われたせいか、ホッと安堵の表情を浮かべていた時任は、今度はニッと強気な笑顔をみせる
「こいつっ後ろから殴りつけるなんてヒキョーなヤツだなっ!なぁ久保ちゃん」
久保田もその笑顔を受けたように口元に笑みを浮かべると、ポキポキ指を鳴らし始めた
「そーね・・これから同じガッコに通う事だし、仕返しされないよーに殺っとく?」
久保田の、のほほんとした表情とは裏腹な言葉に不良たちは真っ青に凍りつくと、
「う、うぎゃあああっ」
悲痛な叫び声を上げながら、一斉に逃げていったのだった
「あらら」
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