「ちゃむ、これで全部だべ?」
「ああ、この資料だけ部室に運べば終わりだ」
「やーっとおわったぁ!」
俺たちがやっと作業を終えた頃、日暮れの早い季節だけあって外は真っ暗だった。
「3人組、お疲れさま!えらいわね、ちゃんと終わったようね」
俺たちが倉庫を出たところで桂木先輩が声をかけてきた。
「はい、倉庫はすべて整理済みです。今期書類のみ今から部室に運ぶところです」
「さすが治くんねー。仕事ができるから助かるわ。こっちも今終わったところ。私はこのまま帰るから、あなたたちも帰っていいわよ」
「ういっすー」
「桂木ちゃん先輩、外は暗いから女の子は気をつけてくださいねー」
「あら、ありがとー」
タツの気遣いに機嫌良く帰っていった桂木先輩を見送ったあと、俺らは部室へと向かった。
偶然窓の外で、室田先輩と松原先輩が二人で下校しているのを見かけた。
「みんなもう帰ってんみたいだな」
「いや、電気がついてるからまだ久保田先輩達がいるんだろう」
治が言うとおり、真っ暗な廊下に執行部の灯りが見えた。
なぜか俺一人が重い荷物を抱えながら、やっと部室の前にたどりつくが、治がそのドアをあけようとのばした手をピクリと止め、開けようとしない。
「治?おもいっつーの、はやくあけ・・」
「シッ!」
「「?」」
治の鋭い目つきにおれとタツは首をかしげるが、その理由はすぐに分かった。
「・・・っ・・あ・・・」
「・・ときとうーー」
((!!))
な、な、な、な・・!!・・こ、これはっ!!!
ドアを開けずに耳を澄ますと、中から時任先輩のかすれるような色っぽい声と、低く甘えるような久保田先輩の声が聞こえてきた。
ぶ、部室でナニしてんだぁーーー!!?
その気持ちは治とタツも同じだったらしく、タツはカオをひきつらせ、治は無表情のまま、二人ともピシリと固まっていた。
だが時任先輩の声は艶を増したようにさらに聞こえる。
「く・・ぅ・・くぼ、ちゃ・・まだ・・?」
「・・まだだめだよ」
「・・はっ・・オレ、もー・・、だめっ・・」
「もうちょっと我慢しなよ」
「いじ・・わるっ・・、っはぁっ・・お願いっ・・俺、もう・・!」
(だあああああっっーーーー!!!)
あわわわ、こ、こ、これはまずいんじゃ。
ほんとにナニしてんだぁぁ!!
「・・どうやらお取り込み中のようだな」
「あ、ああ、どうするべか?」
状況判断の速い治はどうやら一番に立ち直り、自由恋愛主義のタツも比較的早々と小声で話すという正気を保っている。
(何でお前等そんなに冷静でいられるんだ!)
俺は重い荷物を抱えた腕をぷるぷるさせながら、時任先輩の喘ぎ声に想像力をかきたてられていた。
「うっ・・・あーー!」
どうやら架橋に入ったらしい時任先輩の声のトーンで、治が決断を下した。
「・・ここに置いて帰るか」
ガラッ
そのとき、突然、前置きもなく扉が開いて・・、ぬっと久保田先輩が現れた。くわえタバコをしたまま、服のシャツを3つ程開けて・・。
「わっ!すっ、すんませんっ!」
至近距離に現れた久保田先輩の姿に、俺は覗きがバレたような、やましい男の心境であわてて謝る。
「ああ、誰かいると思ったらやっぱり。・・でナニやってんの?」
(な、ナニやってんのはこっちのせりふだ―!)
「・・作業が終わったので資料を持ってきました」
俺が何もいえず突っ立っていると、治が資料を取り上げて久保田先輩に渡した。久保田先輩は変わった様子もなくニコリとほほえむ。
「ああ、そう。おつかれサマ」
そのとき床に仰向けに寝ころんでいた(!)時任先輩が息を荒くしたまま、カオをあげてこっちを見た。
「・・はぁ、はぁ・・・、おう、おつかれ3人組」
わわわっ!こんなとこ見てもいいのか!俺!
と俺が気まずく思っていると・・、時任先輩はくるりとうつぶせになって、腕立て伏せをはじめた。
「・・て、あれ?」
「時やん先輩、何してんだべや?」
「あ?なにって・・、腕立て、だろ」
(へ・・?)
「時任ったら、筋肉つけたいって言い出してね。お宅らを待ってる間に筋トレして鍛えてたってわけ」
(き、筋トレだぁ〜??!)
「いーち、にーい、さーんっ・・」
「腹筋は自分で50回するっていうから数えてあげてたんだけど、途中でへばっちゃってねぇ」
「っ・・・腕立ては50回するっ・・はーち、きゅーう」
あの色っぺー声は、そーゆーことかぁ・・
どうやらとんでもない勘違いだったようで、3人ともホーっと力が抜けた。久保田先輩はそんな俺らの気も知らず、「時任が気が済んだら帰るから」と、俺たち3人はその場を後にした。
「まさか筋トレとはな」
冷静な治もさすがに驚いていたらしい。
「はは、びっくりしたべや〜」
びっくりしたなんてもんじゃねぇよ。想像しすぎてアブねぇよ。
筋トレで、あ、あんな声でんのかっ!
怪しすぎだろあの雰囲気っ!
さっきの時任先輩のカオだって、運動してるせいか頬赤くして・・、目も何だか潤んでて・・、
「ーーおい、修司」
「・・あ?」
「わ!修司っ、お前鼻血っ!」
ーーーぽた
治とタツに言われるまま下を向くと床に落ちた俺の鼻血。
うわぁぁ!!な、なんで鼻血!?こんな妄想ごときで・・、っつーか開いては男だぞ!?男同士だぞ!!
半ば放心状態で自分の状況に驚いている俺に、治が鋭い投げかけを口にする。
「・・修司、まさかお前・・」
ち、ちがーうっ!勘違いとはいえ男の濡れ場を想像して欲情したとか、そういうわけじゃなくって、最近タマってたから・・、いや違うな、何考えてんだ俺っ!!
だ、だれか助けてくれーーーっ!
あの人達が卒業するまで、俺、やっていけっかな?(泣)
終わり