嘘【2】

 


目を開けると、ずっしりと体が重くなったように自由がきかず、妙にしんどくて、あれ、と首をひねった。

ぼやける視界では何も分からず、とりあえず眼鏡を探すべく腕を伸ばそうと動かして、体中に激痛が走る。


「・・・・、これはまた・・」


思った以上に掠れた声が喉を震わす。

どのくらい寝ていたのだろうか。


ぼんやりとした視界の中、見慣れない真っ白な壁とベッド。痛みと記憶を辿って、どうやら病院にいるらしいことを知る。

そうか、ヘマして捕まったんだっけ・・?

相手はしつこい奴らで、逃げ出すのも一苦労だったんだよねぇ。


・・・ああ、面倒だなぁ。


鵠さんを呼んだつもりが、倒れてるところを誰かに見られて救急車でも呼ばれたのだろうか。

事故で済むような怪我じゃないし、早めにずらかろうか。


 

「・・・っ・・と」


撃たれた傷を庇いながらなんとか上半身を起こしながらも、今度は無意識に手が煙草を探す。しかし血塗れたはずの衣類は身につけておらず、それもかなわなかった。


さてどうしたもんかと考えていると、軽いノックとともに部屋に人影が入ってきた。すぐそばまで寄られてようやく誰なのか気づく。


「お目覚めのようですね。煙草と眼鏡でしたらこちらにありますよ」

「あ―・・ど―も。・・鵠さん、俺どのくらいここに?」

「5日間ですよ。出血が多い割に、急所は外れていたようですね。それにしても奇跡的な回復です。」

「それはそれは・・、受け身もやってみるもんだね。・・それで、うちのコ知らない?」

「時任君でしたら・・」


「――久保ちゃんっ!?目ぇ覚めたのか!」


乱暴に開いた扉から、時任が勢いよくカオを出した。

その姿を確認して、ようやくほっと息を吐く。

同時に時任も安心したようにカオを輝かせている様子を見て、これは相当心配をかけたらしいと分かった。

いつもどおり出ていったきり帰らず、5日も目を覚まさないとなると、それもそうだろう。この怪我の状態じゃ一時は本当にヤバかったのかもしれない。


「時任、ごめんね、心配かけて」

「・・・・・・」


無言で首を振って笑みを見せる様子が、どこかいつもと違っていて、違和感を覚えた。


「・・・時任?」

「――久保ちゃん、あのさ、話があんだけど、・・いいか?」


思いがけない真剣な眼差しに、ざわりと胸が騒いだ。


・・なに?

何でお前、そんな苦しそうなカオしてるの?




鵠さんが部屋を出ても、時任は俺に近寄ろうとせず、扉を背に立ち尽くしていた。

何かを思い詰めるように、俯いて。


なんだかたどたどしい距離間は、初めて向かい合った時を不意に思い出させた。あのときのような警戒心はなくとも、――何かが、二人の間にあると感じた。


眉を寄せて、何かを思い悩むように、けれどどこか強い意志を思わせる横顔。

――俺はこの顔を知っている。

何かを決意した時の、まっすぐな時任の瞳。

何かを告げられる、そう確信しながらも、ぎゅっと胸に押し寄せるのは・・・、不安――?


俺はただ、辛抱強く時任の声を待つ。まるで、待てと、おあずけをくらった犬のように、滑稽なほど、忠実に。


「―――あのさ」


ようやくカオをあげた時任は思ったよりも明るく、そうして告げられた言葉に、俺は文字通り面食らった。


「俺、出ていくよ」

「・・・・・・・・?」


突然のコトに頭がついていかない。

俺が怪我して、目を覚ましたら出ていく・・?

・・何が、どうなって・・


「俺、実はさ・・。この右手のこと、何か思い出せる感じがするんだ。・・行かなきゃなんねぇところがあるってこと、思い出した。・・だから久保ちゃんには悪ぃけどさ、俺出ていくから。――つまり、そ―ゆ―ことだから。」


行かなきゃいけないところ・・?

記憶が突然戻ったとでも言うのだろうか、・・とてもそんな風には見えないけど。

それになんだかセッパつまったような強引な物言いは、明らかに本意が隠れているように見える。

心配かけたことを怒っているのだろうかと、確かめようとした俺の問いは、最後まで言葉にならなかった。


「とき・・」

「今までありがとな!久保ちゃん」


そう言って、時任が笑った。

すごく穏やかな優しい顔で。

そして、とても切なくなるような表情で。

目を覚ました俺を見るあのホッとしたようなカオと、笑顔を見せながら何かをこらえるようなカオ。


そんな時任の表情が全て、ぐっと胸を締め付ける。

体中に走る激痛よりも何よりも、苦しいほどに、深いところで・・。


俺はただ、言葉を失っていた。

背を見せる直前に向けられた時任の笑顔が、作りものとは思えないほど、・・・すごく、キレイだったから。


呼び止めることもできず、唖然としたまま。

一人になった病室で、ようやく呟いた言葉は、ひどく間抜けなものだった。


「ウソ・・・、じゃあないよね・・」


だって今日は、エイプリ―ルフ―ルじゃない。

それよりなにより

時任は、ウソをつかないから。




つ、つづきます(/□≦、)vv

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