事実はホラーよりも奇なり?【1】
「――幽霊、退治?」
「ええ」と優雅に微笑む長身の男を見上げて、執行部の紅一点――桂木は眉間にぐぐっと皺を寄せた。
そして眉目秀麗な副会長の隣にはいつものようにどっしりと執務机に向かって腰掛け、有能な右腕に説明を丸投げしては苦笑を浮かべる生徒会長の松本の姿があった。
いったいどんな用件なのか。執行部きっての暴れん坊のせいで、何かと出費の多い部費を責められるのだろうか?もしくはまた厄介な任務でも依頼されるのか。
どちらにせよ楽しい話ではないだろうという桂木の不穏な予感はズバリ的中のようであった。
「お願いがあります」という前置きから始まった橘の説明に、桂木はその表情を怪訝なものへと変えていく。
「旧校舎に出るという幽霊を退治してほしい」という冗談としか思えない本題に、驚きを通り越して呆気にとられていた。
「ええ。もちろん。僕、冗談は苦手ですので」
それも暗闇にすすり泣く女性の姿が浮かんだり、不気味な男のうめき声が聞こえたりと、現象は様々らしい。
単なる幽霊騒ぎであれば生徒会としてはまともに取り合うつもりはなかったのだが、話を耳にしたこの学校の理事長から直々に調査依頼が来たらしく、
生徒会も頭を抱えているのだと説明した。
が、いくら会長であってもやはり理事長からの依頼を断れるはずもなく、そのおはちは執行部へと回ってきたというわけなのだろう。
しかし面倒事を回された本人は、さらに不本意である。
「だからってね、出来ることと出来ないことってもんが、」
「――そういえば桂木さん、確か先月の要望書に設備購入の希望を出されていましたね?」
こういう前置きには覚えがあった。そうしてこの食えない人物が提案してきたことは、十中八九、断ることが出来ないということも。
―――無事退治してくださった暁には、その要望を前向きに検討いたしましょう、と。
「―――つまり、執行部に暖房器具を購入するという交換条件で、依頼を引き受けたわけですね?」
「橘も心得たものだな」
「だってしょうがないでしょ!今年の冬は一段と冷えるのよっ、ずっとず―っとほしかったヒ―タ―が手には入るんだから!ダメ元で出した要望書が検討されるとなれば、引き受けない手はないわ!」
「なっ、なんだよそれっ」
時任はううっと唸りながら窓辺に座る相方へと助けを求めた。
「う―ん、まぁ、そうねぇ」
相変わらずこの男の周りだけ時間がゆっくり流れているようねと桂木は呟くが、彼女はそれよりも久保田が口端に銜えている煙草の灰の方が気になった。
先端の灰は長く積もり今にも落ちそうな状態だ。桂木が灰皿を探そうとするが、そこにちょうどいいタイミングで”灰皿係”が久保田に駆け寄っていく。
「ん―、ども」
こいつ、いたのか・・と時任は胡乱げな目で、話の矛先を藤原へ向けた。
「ええっ?イヤですよ!お断りしますっ。だいたいどうして時任先輩に命令されなくちゃならないんですかぁ?」
「あぁ?てめ―お荷物の補欠のくせに生意気言ってんじゃねぇよ。久保ちゃんにくっついてる暇があったら少しは仕事しろっ」
「ば―か。幽霊なんかいるわけねぇだろ」
「そんなの分からないじゃないですかぁ!僕は行きません、ね、久保田先輩も行かないですよね!」
「う―ん・・まぁ、面倒っちゃ面倒だなぁ」
「ほらほら!先輩もこう言ってますし、ここは無駄に元気な時任先輩おひとりでど―ぞ!」
「はぁぁぁ!?てめぇいい度胸だな!」
毎度の喧嘩の中心には久保田がいるのだが、相変わらずこの細目の男はのんびりと自分の道をいっている。
ほかの面々は慣れた光景にスル―を決め込むが、腹筋をしながら「2049、2050回・・」と本当か嘘か分からない数を唱えていた室田が
ふと思い出したように動きを止めた。
「ホントか、室田」
「ええ、僕も聞きました。なんでも戦時中、この学校は病院だったらしいですね。病気で入院していた女性が戦争に行ったまま行方しれずになった恋人を待って、今もなお彷徨っているという話デス」
「そういえば、生徒からの目撃情報にもあったらしいわ、ものすごい美人だったらしいわよ」
「それは確かか、桂木」
「ええ。まぁ、橘副会長情報だけど」
本当は女性の霊だけでなく、不気味な男のうめき声などの証言もあるのだが、いらぬ情報は伏せておくことにした。
その方が話が早いはずである。その証拠にいつの間にか部屋にいた面々の視線は、話の中心にいる二人へと注がれていた。
「そうねぇ、迷子のお嬢さんを救い出すのも任務ってやつ?」
「あの――・・、久保田先輩?」
「二人とも意外とフェミニストなんデスよね」
ついでのように「あ、藤原、もちろんアンタもね」と付け加えた。
「松原、武器は何にする?」
「木刀を持っていきます」
「懐中電灯は必須だなっ久保ちゃん」
「そうねぇ」
「私とりあえず近所のお寺にお札をもらいに言ってくるわ」
「――ぼ、僕は、絶対ぜ―ったい、行きませんからぁねっ!!」
つづきます^^;